第31話 気持ちの処分

「あー、バイト行く時間かぁ」


 昨日、午前中までに学校へ戻れなかったアファエルは、ペナルティで謹慎処分となり、


「おーい、プリム!」


 居候のハトコを呼ぶアファエル。


「いねぇのか」


 部屋を開けて、探し回るがいない。


「行ってくるぞ………」


 そう、言い残してマンションを後にするアファエル。


「おやっさん、こんにちは」


 バイト先の、ファミレスに着くと、おやっさんに挨拶するアファエル。


「おう、来たな」


 前掛けで、湿った手を拭きながら店主が奥から出て来る。


「こんにちは、三浦さん」


 バイト仲間の、リホナちゃんも、アファエルに声をかける。


「リホナちゃん、こんちわ」


 軽く、あいさつをするアファエル。


「なにか、落ち込んでいるのかしら?」


 なにか、アファエルの元気が無いのを、気にかけるリホナちゃん。


「わかりますかぁー?」


 涙声で言うアファエル。


「えぇ、なんとなく」


 ちょっと引くリホナちゃん。


「実は、昨日謹慎くらっちゃって」


「あれれ。悪いことしたのかなぁ?」


 苦笑いするリホナちゃん。


「いや、暴走する二人の生徒を引き帰らせてたら、予定時間を過ぎてしまって、オレの方が大目玉くらったんすよ」


 げんなりするアファエル。


「本当ですかぁ? とんだ、とばっちりですね」


 同情するリホナ。


「そーなんだよ。オレが怒られるとか、筋違いにも程があるよ」


 口角を上げて、頭を掻くアファエル。


「ウフフ。でも、楽しそうだね」


 ここ数ヶ月で、アファエルの雰囲気が良くなったと感じるリホナちゃん。


「まぁ、楽しいっちゃあ楽しいけど」


 テレ笑いするアファエル。


「謹慎だって? 何日くらいだ?」


 おやっさんが、聞きつけて首を突っ込む。


「たぶん、一週間くらいかな。わからないが」


 神妙な面持ちのアファエル。


「そっか。どうだ、バイト増やすか?」


 おやっさんが、アファエルの肩を叩く。


「イイですか? 家にジッとしていてもなんだから、入りますよ」


 腕を回すアファエル。


「あぁ、助かるよ」


 腕組みして、笑うおやっさん。


「しっかし、学生っぽい集団で、いっぱいですね」


 コーヒーを飲みながら、テーブル席を占拠している。


「そうよね。もう、夏期休暇かな」


 と、リホナちゃんが言うので、


「試験期間かな。夏ですね~」


 外の景色を見るアファエル。


「夏かぁ」


 リホナちゃんも、遠くを見つめる。


「オレ、前回は特進コースにいて、ライバルを蹴落として、ダイバカップに出場したんだよ」


 自慢話をするアファエルに、


「そうだったんですね」


 ニコッと笑うリホナちゃん。


「そうそう。それで、8月のシュナウザーカップも」


 そう、続けてしゃべっていたアファエルだが、


「「いらっしゃいませ」」


 お客さんが、入店する。


「ただ今、満席となっております。ご記名いただいてお待ちください」


 リホナちゃんが、対応する。


「はい」


「あー、しばらく席が空かないぞ」


 戻って来たリホナちゃんに、アファエルが言うと、


「ですよね」


 クスッと笑うリホナちゃん。


「「いらっしゃいませ」」


 また、お客さんが入って来たと思ったら、


「あっ、アファエル」


 そこには、レミアちゃんの姿があり、レジの裏まで入って来る。


「えっ、なんで来たんだ?」


 なにか、自分に用事があって来たのかと思うアファエル。


「なんでって、ここ実家だから」


 このファミレスが、産まれ育った家だと言うレミアちゃん。


「えーっ、マジか!?」


 今まで、バイトしていて、知らなかったアファエル。


「マジよ。それより特進クラスは、もうレースに出る選考を初めているわよ?」


 普通クラスの、実技時間が減らされていると言うレミアちゃん。


「まぁ、そういうモンだよ。その為に、クラスを分けているんだし」


 アファエルは、知っているから、特にリアクションも無い。


「なんだか、くやしいわね」


 口を、歪ませるレミア


「くやしいのは、オレだよ」


 自分を、指差すアファエル。


「えっ?」


「だって、とばっちりで謹慎くらってさ」


 ガクッと、肩を落とすアファエル。


「あー、ゴメンって昨日も謝ったじゃん」


 レミアちゃんとミキハちゃんが、アファエルに平謝りしていた。


「まぁな」


「それより、リホナちゃんと、なに話してたの?」


 二人の関係に、興味津々なレミアちゃん。


「別に、なにも話してないけど」


 誤魔化すアファエル。


「ウソ。めっちゃ鼻の下伸ばしてたよ?」


 意地悪そうに、笑いながら言うレミアちゃん。

 メガネを、クイッと上げる。


「そんなわけあるか」


 否定するアファエル。


「ふぅ~ん」


 目を細めるレミア。


「おう、帰って来たか」


 おやっさんが、娘の顔色を伺う。


「実家に暮らしてたのか。全然知らなかった」


 と、アファエルが言うと、


「うんにゃ、一人暮らししてるよ。冬物と夏物を入れ替える為に戻ったのさ」


 荷物を置きに帰ったと言うレミアちゃん。

 肩にかけた、大きなトートバッグが、パンパンだ。


「えっ」


 もう夏なのに、遅いなと思うアファエル。


「なかなか、片付けが出来なくてね」


 テヘッと、笑うレミアちゃん。


「冬物のスペースが無いのかな?」


 なんて聞くから、


「そんなの、あるわけないっしょ。激狭ワンルームにさ」


 真顔で、答えるレミアちゃん。


「まぁ、そっか」


「そうそう。片付け終わったら、アファエルを招待するよ。レミのワンルームに」


 腰に手を置いて、胸を張るレミアちゃん。


「えっ、行ってもイイんだ?」


 ビクッとなるアファエル。


「もちろん、アファエルだけ特別よ」


 アファエルの耳元で、ささやくレミアちゃん。


「特別………ハハハ。また冗談か」


 その手には、引っ掛からないぞと言うアファエル。


「アハハ、どっちでしょー」

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