第30話 波打ち際
『おいおい。あいつら、どこまで飛ぶんだ』
アファエルが、あせりにも似た声を漏らす。
レーダーに、機影はあるが目視出来る距離ではない。
「このままだと、ハワイまで行っちゃう?」
と、わたしが聞くと、
『いや、方角的にフィリピンだろ』
冷静に、つっこむアファエル。
「えぇーーーーーッ」
そんな遠くに行ったら、帰るの明日になっちゃうよ。
『その前に、捕まえないとな』
苦笑いするアファエル。
「そうよね」
『あいつら、パスポート持ってないだろ』
真顔で言うアファエル。
「そっち!?」
目を丸くするわたし。
『授業中に確保されてみろ。退学モンだぜ』
吐き捨てるように言うアファエル。
「そうよね」
それは、ヤバいわ。
『アトラフィルの方が、トップスピードが速い。先に行ってくれ』
わたしの乗っている新型に託すアファエル。
「でも、アファエルは、どうするの?」
一緒に、飛びたいのに。
『オレは、ちゃんと後から行く』
「えーっ。でも」
『イイから、早く行け!』
頭を、前後にするアファエル。
「うん、わかった」
加速する。
『よし!』
大きく、うなずくアファエル。
「待てぇー」
『ん、今、フウカちゃんの声がしたような』
レミアちゃんが、周囲を見る。
『気のせいだろ。そうやってあったしの注意を引こうったって無駄だかんね』
ミキハちゃんが、イラッとして言う。
『そんな気は、ないのよ』
にやりと、笑うレミアちゃん。
『どーだかね』
『あそこ』
レミアちゃんが、スピードをゆるめる。
『どこ?』
ペースを合わせるミキハちゃん。
『キレイなビーチがあるわ』
『そうね。って』
ムッとするミキハちゃん。
『気を引いたワケじゃないのかしら』
とぼけるレミアちゃん。
『フゥ。まぁ、イイわ。一休みしましょ』
砂浜に、ゆっくりと近づくミキハちゃん。
『了解! 着陸しまーす』
後を追うレミアちゃん。
『了解』
そんな二人を、
「あっ、やっと見つけた」
ビーチの近くで飛んでいるのを見つけて、近付いていくわたし。
『あれ、やっぱりフウカちゃんかしら』
キョロキョロするレミアちゃん。
『あっ、本当だ。でも、どこなの?』
ミキハちゃんも、周囲を探すように飛ぶ。
「後ろを、飛んでるよ」
ピッタリと、二人に付けるわたし。
『あっ、ホントだ』
ミキハちゃんが、振り返る。
『にゃはは』
レミアちゃんが、バツの悪そうな笑顔を見せる。
「ちょっと、二人とも。帰るわよ」
と、わたしが言うと、
『いや』
拒否するレミアちゃん。
「えっ? なんでよ」
すぐ帰らないと、わたしまでヤバいわ。
『ちょっと、ビーチで休みたいの』
レミアちゃんが、肩を上下する。
『そうそう』
「えーーッ」
なんで、授業中に。
『本当に、ちょっとだけ。ノドがカラカラなのよ』
レミアちゃんが、ビーチに着陸する。
「仕方ないなぁ。ちょっとだけよ」
わたしも、ちょっとなにか飲みたい。
並んで着陸する。
『ワーーイ』
レミアちゃんが、ビーチでピョンピョンと跳ねる。
『お姉さん、愛してるぜ』
ミキハちゃんが、心にもないことを言って、わたしに投げキスする。
「ん、もうっ」
ビクッとなるわたし。
『アヒャヒャ』
笑いながら、店を物色する二人。
完全に、テンションがおかしくなっているわね。
「ふぃー。生き返るぅ」
レミアちゃんが、ジュースをグビグビと飲み干す。
「最高ね~」
二人とも、完全に観光客だわ。
わたしも、防波堤に座る。
「「ようこそ南紀白浜」………って和歌───」
短時間に、ここまで来たの。
「それより、フウカちゃんだけ来たんだ?」
レミアちゃんが、わたしに聞く。
「あっ、そう言えば、アファエルも来たのよ」
ちょっと、忘れちゃってた。
「ふぅ~ん。で、どこにいるの?」
周囲を見るミキハちゃん。
「おかしいなぁ。もう着いてもイイのに」
通りすぎて、地球の反対側に行っちゃったのかな。
「あっ、あれじゃない?」
ミキハちゃんが、豆つぶのようなアファエルを見つける。
「あーキテる、キテるわぁ~」
レミアちゃんが、唇を舐める。
「………!」
砂浜に、着陸して、プンスカしているアファエル。
「なんか、言ってる~」
ミキハちゃんが、ぼんやり眺める。
「ちょっと、海まで行きましょ」
防波堤から、立ち上がるミキハちゃん。
「異議なーし」
レミアちゃんも、立ち上がる。
「ちょっと、二人とも」
置いてきぼりのわたしの方に、
「おーい。どうなってる?」
アファエルが、近付いて来る。
「見て、わかんないのアファエル?」
レミアちゃんとミキハちゃんが、波打ち際で水をかけ合っている。
「………水浴び?」
波に、さらわれる二人を見て言うアファエル。
「青春よ。あの二人、青春してるわ」
「クラス最年少と最高齢がか?」
鼻で笑うアファエル。
「イイのよ、それで」
強く言うわたし。
「はぁ、さいですか」
肩を、すくめるアファエル。
「あっ、戻って来たわ」
「わー、楽しかった」
レミアちゃんが、ビシャビシャに濡れた裾をしぼる。
「なんか、はしゃいちゃったわ」
ミキハちゃんが、恥ずかしそうに言う。
二人とも、スケスケよ。
「16なんだから、はしゃいでイイの」
わたしが、そう言うと、
「はーい」
手を、挙げるミキハちゃん。
「イイな。それなら、レミも」
フゥーーと言いながら、ハイタッチするレミアちゃんとミキハちゃん。
「なっ、なんだよ」
レミアちゃんが、アファエルに近付く。
「好きよ、アファエル」
耳元で、ささやくレミアちゃん。
「なっ!?」
ドキッとするアファエル。
「アハッ。ビックリした?」
天使のような笑顔のレミアちゃん。
「なんだよ。冗談かよ」
ため息を出すアファエル。
「アハハ」
高笑いするレミアちゃん。
「どうしたの?」
と、わたしが聞くと、
「ついでに、熊野にも観光して帰るか? どうせ、こっぴどく叱られるんだろうし」
取って付けたように言うアファエル。
「イイわね」
わたしも、乗り気になるけれど、
「いや、すぐ帰らないと」
ミキハちゃんが、真顔になる。
「そうね。このまま、授業時間が過ぎるのは、さすがにヤバいかしら」
レミアちゃんも、苦笑いしながら機体に跨がる。
「それじゃ、急いで帰りましょ」
「はーい」
「おい、オレはまだ、飲み物を」
カップを手に、怒るアファエル。
「それじゃ、ごゆっくりアファエル」
レミアちゃんが、意味深に笑う。
「おいっ」
「わたしは、飲み終わるまで待つわ」
アファエルと、一緒に帰りたいし。
「おう。ってか」
なぜか、わたしが乗って来た機体に跨がるアファエル。
「ちょっと、なんで新型に跨がっているのよ?」
と、聞くと、
「いや、ドリンクホルダーあるだろ」
ペタペタと、機体の上部をさわるアファエル。
「無いわよ」
なるほど、飲みながら帰る気だったのね。
「えっ」
目が、点になるアファエル。
「機能を省く改修工事したって言ったじゃない」
さっき説明した通り、軽量化してあるのよコレ。
「あー、マジかぁーー。でも、こっち乗って帰るわ」
単純に、速い方に乗りたいアファエル。
「こっちが、マジかーだよ」
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