第5章
第29話 改修
「よし、教科書522ページを開け」
特進クラスでは、青ジャージでメガネの教官が、授業と実技指導を行っている。
「はい!」
生徒たちは、勢いよく返事をしている。
「この項は、燃料について書いてある。えー、「燃料はSAFを基本としているが、緊急時には軽油や灯油を使うことも出来るよう設計されており」………あっ、そうだそうだ言い忘れてた!」
特進クラスの教官が、思い出したように言う。
「えっ?」
タブレットから、一斉に顔を上げる生徒。
「いよいよ、7月1日まで一週間となった。明日、飛行テストを行う」
特進クラスは、7月に行われるダイバカップに、1名出場することが出来る。
れっきとした、本番レースだけに、それなりに成績が良くないと、選出されない場合もある。
「「えーッ」」
いきなりの、テスト発表だけに、生徒たちに緊張が走る。
「今年の生徒は、まぁ、誰が枠を取ってもおかしくはないほど、レベルが高い」
メガネに、手をかけて上げる教官。
「うぉーッ」
沸き立つ生徒たち。
「しかし、枠は枠。何人優秀だろうがな」
急に、いつもの厳めしい顔つきになる教官。
「じゃあ、オレ様だな」
ルーザが、立ち上がり、自分に親指を向ける。
「ルーザ。お前じゃねぇ」
モヒカン頭の男が、つっこむ。
「なにィ」
モヒカン頭を、キッと睨み付けるルーザ。
「そうそう、ワシじゃよ」
白髪まじりの男が、立ち上がる。
「黙ってろ、オッサン!」
また、モヒカン頭の男がつっこむ。
「誰が、オッサンだゴルア」
モヒカン頭の男に、詰め寄る白髪の男の胸ぐらを、モヒカン頭が締め上げる。
「ぐッ。ギブギブ」
苦しそうな、声をあげる白髪の男。
「やめて」
割って、入るさわちゃん。
「ぐぬぬ」
着席する二人。
「それじゃあ、授業を続ける」
その頃
「今日は、修理していた機体が帰ってくるから、トラックが入って来てもビビるなよ」
と、亀崎教官がグラウンドで言うと、
「「はーーい」」
元気よく、返事する普通クラスの生徒たち。
「よし。それじゃあ、準備体操を始める」
亀崎教官が、両手を広げると、
「はーい」
いつものように、間隔を広げる生徒。
「あと、海沿いは人が増えて来たから、常にどこへ不時着するか、考えながら飛ぶように」
注意事項を、言い忘れていた亀崎教官。
「はーい」
「亀崎教官」
レミアちゃんが、手をめいっぱい上に伸ばす。
「おう、どうした?」
と、亀崎教官が聞くと、
「なんか、トラックが入って来ました」
指差すレミアちゃん。
「わぁーー」
生徒たちから、大歓声が発せられる。
「コラコラ、騒ぐな。特進コースは授業中だぞ」
口に、人差し指をつけて、静かにするようにジェスチャーする亀崎教官。
「はーい。すいませーん」
「よーし。これで、思う存分飛べるぞ」
ミキハちゃんが、機体に跨がると、
「海沿いで、レースだ」
レミアちゃんも、負けじと跨がる。
「おいおい。海沿いは、他の人もジェットモービルを飛ばしてるから」
そう、亀崎教官が注意するのだが、
「だって民間用のは、衝突安全装置が付いてるでしょ」
ミキハちゃんが、反論する。
「だったら、ぶつからないかしら」
レミアちゃんも、完全にヤル気がみなぎっている。
「おいっ。行っちまいやがって」
制止を振り切り、飛び立つ二人。
亀崎教官が、唇を噛む。
「なんなら、追いかけましょうか?」
アファエルが、亀崎教官に聞くと、
「アファエル。頼む、暴走を止めて来てくれ」
軽く、頭を下げる亀崎教官。
「了解」
ニッと、笑って見せるアファエル。
「待って、わたしも行く」
心配だからね。
「いや、待ってろ」
急ぐから、待つように言って、古い機体に跨がるアファエル。
「ううん。やっぱり、二人で飛ぶべきよ。アファエルの身に、なにかあったらわたし───」
と、言うわたしだけど、
「急いでるんだ!」
振り切るように、飛び立つアファエル。
「あっ………」
砂ぼこりとともに、かなたへ飛んで行く。
「追いかけなよ」
レクラちゃんが、ニコッと笑う。
「レクラちゃん。うん、亀崎教官、行かせてください!」
ちょうど、修理が終わった機体がトラックから下ろされ、
「よし、行って暴走を止めて来い」
空を、指差す亀崎教官。
「はいっ!」
新型の機体に、跨がるわたし。
「気をつけてね」
レクラちゃんが、駆けつける。
「ありがとうレクラちゃん。背中を押してくれなきゃ、進めなかった」
感謝を言うわたし。
「イイのよ。私だって、同じ立場なら迷わず追いかけて行ったわ」
そう言って、ウインクするレクラちゃん。
「うん」
アファエルとレクラちゃんは、すごく仲が良さそうだから、ちょっぴり誤解してたかも。
「それにね」
続けるレクラちゃん。
「それに?」
「今の丹生さん、すっごく輝いてるわ」
はにかむレクラちゃん。
「そう?」
なんか、うれしいような、恥ずかしいような。
「うん、とっても」
「なっ、なんだか、照れちゃうな」
顔が、暑いわ。
「そう?」
「うん。よーし、行ってくるわ」
ヘッドホンを、装着するわたし。
「うん」
飛び立つわたしを、見上げるレクラちゃん。
「アファエル、聞こえる?」
応答があるか聞くと、
『どうした?』
聞き返すアファエル。
「今、そっちまで行くわ」
『えっ、なんでだよ』
少し、迷惑そうなアファエル。
「言わないと、わからない?」
鈍感な人ね、まったく。
『………ん、まぁ』
「ちゃんと、帰還したら言うわ」
『いや、足手まといになるし、だいたい追い付けないだろ』
あきらめるように言うアファエル。
「もう、追い付いたわ」
アファエルの後ろに、ピッタリと付けるわたし。
『おい、ウソだろ?』
振り返るアファエル。
「新型のね、修理ついでに不必要なの外したって」
飛び立つ前に、亀崎教官が教えてくれた。
『なんだよ』
そっちに乗ればよかったと思うアファエル。
「アハッ」
横付けすると、アファエルが、くやしそうな顔をして、
『それじゃあ、あいつらに追い付くぞ』
笑うアファエル。
「了解」
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