第4章

第22話 敷地の外

「えー、今日から敷地外へと飛んでもらうぞ」


 6月も、後半にさしかかり、昨日まで降っていた雨がやみ、薄日が射した日のこと。

 亀崎教官が、いきなり言うので、


「わぁー、やっとですね」


 すでに特進クラスは、敷地外への飛行訓練を行っている。

 普通クラスでも、ようやく始まるようだね。


「待ってました」


 イヤでも、特進クラスの情報は入って来るだけに、待ちわびた生徒たち。


「6月とはいえ、海沿いには人がいる。それを注意しながら、あの島を一周してかえって来るコースだ」


 と、亀崎教官の説明は続く。


「おっ。けっこう、飛ぶんだね」


 海の上を、かなり飛ぶことになる。


「ルールは簡単。2機を1ペアとして飛んで、かえって来たら、次のペアがすぐスタートする」


「えっ、レースするってことですか?」


 まぁ、遊覧飛行する為に学校に入ったわけじゃないし。


「いや、今回はレースではない。重ねて言うが、今回は競うな。安全第一だ」


 とにかく、無事に帰って来るように言っている亀崎教官。

 なんだか肩透かしよ。


「えーっ」


 かすみちゃんが、地団駄を踏む。

 わたしもしたいくらいな気持ちだわ。


「競うなってのが、無理じゃないか?」


 レクラちゃんが、そう言うので、


「だよね」


 かすみちゃんが、ウンウンとうなずく。


「とにかく、今回は機械的なトラブルで、やむを得ず不時着する場所を、目視で想定する訓練でもある。それに重きを置くように。それに梅雨前線も………」


「「はーい」」


 みんな、話が耳に入っていない。


「だいたい、レースするなってのが無理な話ってんだ」


 かすみちゃんが、まだグチをこぼす。


「そうそう。ゾクゾクしちゃうわ」


 ミキハちゃんの目が、バッキバキになっている。

 本当に、16歳なの?


「レミは、負けないぞぉー」


 アラサーナースのレミアちゃんも、ヤル気マンマン。


「わたしだって」


 CAのレクラちゃんも、右手を空高く突き出す。


「それじゃあ、1発目なんだが。アファエルと、アトラフィルに行ってもらう」


 亀崎教官が、そう言うと、


「えっ、なんで?」


 すぐ反応するアファエル。


「アファエルは、もうこのコースは、なれているだろ?」


「あっ。まぁ、そうだけど」


「俺の代わりに、ルートの危険が無いか、確認してくれ」


 どうやら、安全確保の為らしい。


「あぁ、わかった」


 理解するアファエル。


「それじゃあ、行こう」


 わたしも、アファエルと飛びたかったし。


「うん」


 意味深に笑うアファエル。


「気をつけて行けよアファエル」


 やさしい言葉を、かける亀崎教官。


「わかってるって」


 亀崎教官に、ふり返ることなく、ジェットモービルに跨がるアファエル。


「ねぇ、聞こえる?」


 ヘッドフォンを着けて、アファエルを見る。


『ああ、聞こえる』


 アファエルも、わたしを見て親指を立てる。


「それじゃあ、行きましょう」


 浮き上がるわたし。


『よし。まずオレが先行するから、付いて来て』


「了解!」


 ゆっくりとしたスピードで進む二人。


『よし、イイぞ』


「晴れて、よかったわね」


 海沿いのあたりだけ、太陽の光が射している。


『まぁな』


 周囲を、見回すアファエル。


「こんな時に話す事じゃないけど」


 せっかく、二人きりになったし。


『えっ?』


 振り返るアファエル。


「わたしたちの関係って、なにかなって」


 思い切って、聞いてみるわたし。


『付き合っているってことだよな』


 迷うことなく言うアファエル。

 ちょっと、ホッとする。


「うん。なんだか、正式に告白をされたわけじゃないから、単なるファンとか、クラスメイトとか思ってるんじゃないかってね」


 ずっと、聞きたかったけど、チャンスが無かった。


『まぁ、そう言われてしまえば、まわりのヤツらは、そう思っているかも知れないけど、オレは付き合っていると思ってる』


 ハッキリと言うアファエル。


「うん、彼氏彼女の関係でイイのよね」


『なんだよ。いきなり』


「アファエルは、他のクラスメイトとも仲がイイじゃん」


 別に、嫉妬心とかはないけど。


『まぁ、仲がイイかはわからんが、脱落者を出したくないだけで、別に深い意味はない』


 面倒見が良い理由を話すアファエル。


「そうなんだ。なんで、そこまで」


『亀崎の野郎、オレたちを合格させる気なんてサラサラねぇぞ』


 語気が、荒くなるアファエル。


「えっ」


『オレは、特進コースにいたからわかるが、普通コースは、ぬるま湯すぎる』


 問題点を、指摘するアファエル。


「そんな、まさか」


 あり得るのかな。


『特進コースの連中には、こう言うだろう。「常に競え」ってな』


「………っ。たしかに、なにか引っかかる感じはあったのよね」


 けっこう、みんなと仲良くやっていくのが好きなだけに、耳が痛いな。


『急いで帰るぞ』


 おおよそ、島を一周して帰路につく。


「了解」


『ちょっと待て』


 アファエルが、なにかに気付く。


「どうしたの?」


『なにか、騒がしいな』


 島の住宅街に、あきらかに観光客じゃない集団がいる。


「うーん、なんだろ」


 ジェットモービルやら、ドローンも飛び交っていて危険だ。


『よし、引き返す』


「了解」


 急速に、旋回する。


「おや。なんだヤツら」


 急いで、離脱するわたしたちを見つける男。

 着けているゴーグルを、ずらして機影を見る。


「動きが、おかしいですね」


 別の男も、反応する。

 髪の毛が、ツンツンに逆立った髪型。


「追跡しますか?」


 スキンヘッドの男が、そう聞くと、


「よし、追いかけて捕まえてやる」


 ゴーグルを、しっかりと着けなおす男。

 ジェットモービルで、舞い上がる。


「よーし、ぶっ飛ぶぜ!」


 後を追うツンツン頭。

 スキンヘッドも、続く。


「抵抗するようなら、撃ち落としてもかまわん」


 ゴーグル男が、そう吠えると、


「オーケー」


 スキンヘッドの男が、頭を傾け首を鳴らす。


「腕が鳴るぜ。ケケケ」

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