第21話 いらない機能

「追加になった装備が、別冊に書いてあるらしいから、目を通しておけよ」


 亀崎教官が、ぶ厚い本を手に振る。

 表紙には、デカデカと「追加機能マニュアル」とある。


「「はーい」」


 内心、おだやかでない。

 元々あるマニュアルも、辞書のように厚いのよ。


「どれどれ、なにがあるかな」


 マニュアルを開くわたし。

 実物を、ペタペタとさわる生徒もいる。


「新機能で、ドリンクホルダー付いてるってよ」


 わたしが、そう言うと、


「えー、ドコドコ?」


 かすみちゃんが、あちこちさわる。


「あっ、プッシュでフタが開くんだね」


 レミアちゃんが、マニュアルを片手にシートに座って、機体の上部で見つけ、開けてみると、


「これ、便利っちゃあ便利だけど」


 ペットボトルの飲料が入りそうな穴を、さわってみるかすみちゃん。


「しかも、中に温度をキープする機構が、あるっぽいわ」


 レクラちゃんも、マニュアルの文字とニラメっこしながら言う。


「へぇ~。ぶっちゃけ、空を飛んでる時にドリンク飲んでるヒマってなくね?」


 かすみちゃんが、至極まっとうなつっこみをする。


「私は、とても上空で手をレバーから外すってことは出来ませんから」


 レクラちゃんは、どう転んでも無理よね。


「たしかに、ベテラン向けの機能なのかねぇ」


 わたしも、そこまで余裕がないし。

 ペットボトルを、落としそうでコワい。


「ずいぶんと、ニッチなとこを攻めていらっしゃいますね」


 レクラちゃんが、あきれる。


「たしかにね。実際、乗ったことない素人が付けているのかも知れない」


 ミキハちゃんが、つっこむと、


「あー、それあるかもね~」


 わたしも、納得する。


「それで、他には何が変わってるの?」


 と、ミキハちゃんが聞く。


「えーと、なになに。落下時には、従来型のパラシュートに加えて、エアバッグ」


 そう、わたしが読むと、


「エアバッグ!」


 レミアちゃんが、反応する。


「えー、エアバッグ機能がありますが、あくまでもパラシュートを開いても助かる確率の低い、低空飛行で高速移動の時にAIが判断して、膨らむようになっている為、通常の使用状況ではエアバッグは開きません───」


 さらに、マニュアルを読むわたし。

 なんのことか、さっぱりだけど、要するにあるんだけど、エアバッグを開くのはまれって。


「ハァ? じゃあ、なんの為に付いてるのよ?」


 かすみちゃんが、声を荒らげる。


「パラシュートで、対応出来ない時?」


 レクラちゃんも、首をかしげる。


「ミサイルでも、当たった時とか?」


 かすみちゃんが、縁起でもないことを言う。


「そんなん、一発で死ぬでしょうが」


 半笑いのレミアちゃん。


「あーね」


 腕組みするかすみちゃん。


「急に、ねこが飛び出した時とか?」


 レミアちゃんも、例を出すが、


「いや、そもそも低空を高速で飛ぶ時点でアウトっつうか、あの世行きだよ?」


 市街地で、あり得ないと言うかすみちゃん。


「まぁ、そうだわな」


 わたしも、うなずく。


「それで、後はどんな機能があるの?」


「オートライトが、固定」


 レミアちゃんが言うと、


「は? なにそのオートライト固定って?」


 かすみちゃんが、また食い付く。


「オートライトは、暗くなったら光るってスイッチよね」


 レクラちゃんが言うと、


「それは知ってる。前の機種は、自分で点けるようになってたじゃん。なんで、そうなった?」


 ツマミ式の、スイッチで切り替えるようになっていた。


「知らないわよ。こんなゴミ機能着けたヤツのことなんて」


 オートライト固定なのに、ツマミ式スイッチが残る謎仕様。


「まぁ、○○の考えることは、わからんからさ」


 肩を、すくめるミキハちゃん。


「それで、他に機能ある?」


 かすみちゃんが聞くと、


「あんたも、ちょっとはマニュアル読みなさいよ」


 と、つっこむレクラちゃん。


「あっ、ごめんなさい」


 しゅんとなるかすみちゃん。


「んもう。後は、緊急時降下ボタン」


 レクラちゃんが、ボタンを指す。


「へぇ、そんなこと出来るんだ」


 感心するかすみちゃん。

 でも、アクセルオフで、レバーをバックに入れたら、高度が変わらないのが、今度は降下するって、アレ便利だったのに。


「エンジンの性能が、アップしたらしいよ」


 ミキハちゃんが、目を輝かせる。


「すごいじゃん。これで、教官にピッタリとマークされずに済むじゃん───」


 と、わたしが言っている途中で、


「えーと。エンジンの性能はアップしたけど、便利な装備がてんこ盛りで、重量が15キロ増量………」


 レクラさんが、小さい文字を見つけた。


「えっ、15キロも重くなってるの?」


 レミアちゃんが、目を点にする。


「使えねー」


 かすみちゃんも、あきれる。


「なんだかな~」


「それで、エンジンの性能アップで、フルスピードが」


「うんうん」


「2キロだけ速くなったって」


 レクラちゃんの言葉に、ズッこける生徒たち。


「トップスピードだけ上がって、どうすんのよぉ」


 マニュアルを、ペラペラめくるレミアちゃん。


「そこまで、加速できるコースがねぇ」


 かすみちゃんは、鼻で笑う。


「責任者出て来い!」


 ミキハちゃんが、叫ぶ、


「あー、待って」


 わたしが、マニュアルで見つけた。


「なに?」


「シートヒーターが付いてるってよ」


 ほっこりと、笑顔で言うわたし。


「………それは、ぶっちゃけ生理痛の時に助かる」


 レクラちゃんが、親指を立てる。


「だね~」

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