第20話 新台
「ウッ、ン。よしっ」
アファエルが、腰のベルトが自動で締まる時に、拳を挟むやり方を教えてくれて、それに慣れてきた。
これで苦しくないし、抜けて落下するほど
でもない。
「なにかアファエルって、教官より教官してるかも」
つい、ヘッドフォンを付けているのを忘れて、そうつぶやくと、
『アイツは、案外面倒見がイイからな』
亀崎教官に、聞こえてしまっている。
「すいません。亀崎教官が、どうと言うのではなく」
ビクッとなるわたし。
ヤバいわ。
『いいって。楽させてもらってるのは事実だし』
アファエルが、積極的に技術的な生の声を、生徒たちに伝授している。
「はぁ………」
とはいえ、教官からすれば、どういう気分なんだろう。
『しかし、アファエルとは1年しかキャリアが変わらないのに、俺が教官をやっているなんてな』
どこか、自戒のような言い回しをする亀崎教官。
「へぇ、アファエルの1年先輩なんですね?」
『ああ、そうだ』
鼻で笑う亀崎教官。
「アファエルと、一緒に飛んでいたんですか?」
と、興味本位で聞くと、
『そうだ。俺は、アファエルより上手かったんだぞ』
選手の表記は、本名ではなくタッグネームで記される。
詳しく調べれば、本名にたどりつけるが、よっぽどのファンでないと、そこまでしない。
「へぇ、そうなんですか。それで、なぜ教官になろうと思ったんですか?」
まだ、年齢的には若手の部類だし。
『うん』
なにか、隠したいようね。
「だって、相当賞金も、もらっていたでしょうに」
教官なんて、給料がしれてるしさ。
『実はな。事故で左手のグリップ力が落ちてしまってね』
重い口を開く亀崎教官。
「えっ………」
『もう、レースでは完走するパワーが無いんだ』
やりたくても、やれないと告白する亀崎教官。
「わたし、いらないことを聞いてしまったわ。ごめんなさい」
なんだか、気まずい。
これから、グラウンドを周回して、教官が後を追う練習なの。
フワッと、上昇してスピードを上げる。
『いや、どうせみんなには、話さないといけないと思っていたから、気にすんな』
わたしの、すぐ後ろをピッタリと飛ぶ亀崎教官。
「亀崎教官」
なにか言おうとするが、頭の中をグルグル回って口から出ない。
『おい、もっとレバーをひねってスピードを出せよ』
どんどん接近する亀崎教官。
「はいっ、すいません」
「あー、せっつかれてるわ」
地上から、わたしたちの攻防を見ているレクラちゃんが言うと、
「でも、ウチらの中では、速い方っしょ?」
かすみちゃんが、レクラちゃんに聞く。
「少なくとも、私よりは速いわ」
レクラちゃんが、伏し目がちに言う。
「あーね」
「どうも、高いからコワくて」
レクラちゃんは、高所恐怖症らしい。
「CAやってたのにね」
と、つっこむかすみちゃん。
「CAは、操縦席に座るわけじゃないのでね」
諭すような口調で弁明するレクラちゃん。
「あー、まぁそっか」
ちょっと、腑に落ちないような顔のかすみちゃん。
「かすみちゃん。あまり、イジメてあげたら可哀想よ」
レミアちゃんが、注意すると、
「可哀想って」
肩を、すくめるかすみちゃん。
「私って、こう見えてビビりだし、かすみちゃんみたいなギャルがコワいのよ」
レクラちゃんは、身長もあるし、コワいものがないようで、小心みたい。
「えっ、あーしがコワがらせるようなこと、言った? 言ってないっしょ?」
すごむかすみちゃん。
「まぁ、レミもわからなくもないわねー」
レミアちゃんも、病院でなにかあったのだろうか。
「レミアちゃんまで」
ビックリするかすみちゃん。
このままでは、浮いてしまうと危惧する。
「レミみたいなー、普通の人からするとー、すっごく威圧的に見えちゃってるのよー」
人差し指を、クルクル回すレミアちゃん。
「レミアちゃんが、普通っていうのは置いといて」
つっこむかすみちゃん。
「にゃんでよー」
「ギャルメイクが、コワいのかな?」
ほっぺを、膨らませるかすみちゃん。
「なんか、肉食獣みたいだからではないですか?」
横から、ミキハちゃんが言うと、
「このやろう。年下のくせに!」
ミキハちゃんの、ツインテールを掴んで、バイクのように、ふかすかすみちゃん。
「いやーん、あったしのツインテがぁ」
叫ぶミキハちゃん。
「うりゃあ、うりゃあ」
ふかしまくり。
「暴走してる。暴走してるわ」
レクラちゃんが、実況する。
「うわっ、トラック入って来た」
ふと、レミアが校門の方を見ると、トラックがゾロゾロと入ってくる。
「なに、そっちでも暴走が!?」
ミキハちゃんの頭を、クイッと回すかすみちゃん。
「あー、悪い。言ってなかったけど今日からジェットモービルが増えるぞ。よろこべ」
着地した、亀崎教官が言うと、
「えーッ、そうだったの?」
驚く生徒たち。
「やったー。これで、ちゃんとレース形式で授業が出来るわ」
今まで、2機を授業に、1機を予備にしていたので、待ち時間が長かった。
「うれしい。うれしすぎる」
「むしろ、おせーし。4月から用意しろし」
かすみちゃんが、悪態をつく。
「ねぇねぇ、レミが名前付けちゃダメ?」
レミアちゃんが、なぜか名前を付けようとする。
「そんなの、ダメに決まってるだろ」
つっこむアファエル。
「え゛ーっ」
両手を口にやり、涙目になるレミアちゃん。
「かすみちゃん。そんなに言ったら、レミアちゃんが泣いちゃってるわ」
と、レクラちゃんが言うが、
「いや。本当は泣いてねぇだろ」
ジッと、レミアちゃんを見るかすみちゃん。
「………エヘッ。バレちゃいましたか」
ペロッと、舌を出すレミアちゃん。
「えっ、私としたことが、すっかりダマされましたわ」
レクラちゃんが、顔を押さえる。
「レクラさん、お人好しだね」
そう、わたしがつっこむと、
「よく、言われますわよそれ」
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