第19話 新緑

「あ~、しんどいわ」


 五月。

 新緑の中を走る電車は、半袖を着た中高生で、ごったがえしている。


 ミキハちゃんが、グチをこぼす。

 わたしは、クラスの仲の良い面々と立って揺られる。

 新たに、レクラちゃんと、レミアちゃんが仲間入りした。


「だね。まぁ、明日は休みだし」


 わたしが、ついウッカリとそう言うと、


「えー、あったしバイトだし」


 ミキハちゃんが、ほっぺを膨らませる。


「あーしも!」


 かすみちゃんも、口を尖らせる。


「あー、そうだよね。この中で言ったら脱サラしてるのって、わたしだけ?」


 なんか、学生に戻った気分ですごしていたけど、みんなとは違うよね。


「あっ、私はCAをしておりましたので」


 レクラちゃんが、そう言うので、


「レクラさん、キレイだから似合っただろうな」


 身長も、スラッとしてモデルさんみたい。

 腰までの、サラサラロングヘア。


「ウフフ、そうでしょうか?」


 口元を手で隠して笑うレクラちゃん。


「うん、そうそう」


 なんだか、わたしとじゃ月とスッポンだね。


「レミもナースやってたよ。エラい?」


 割って入って来たのは、レミアちゃん。

 身長は、150あるかないかの可愛い女性。

 おかっぱで、メガネをかけている。


「レミアちゃんは、ナースしてたんだね」


 初めて聞いたようで、何度か、それとなく話していた。


「うん! レミはね、ゆーしゆーなナースだったのだー」


 腰に手を置いて、胸を張るレミアちゃん。

 電車の揺れで、よろつく。


「レミアさんって、この中で最年長ですもん

ね」


 そう、レクラちゃんが言うと、


「レクラちゃん。年齢なんてただの数字なのれすよー」


 人差し指を、左右に揺らす。


「うんうん、そうよねそうよね。レミアさんは、お休みの日はどうしてるの?」


 と、聞かなくていい事をわたしが聞くと、


「レミはね、ぬいぐるみにゴハンを食べさせたりしてるよ」


 なんとも、メルヘンなことを言って誤魔化すレミアちゃん。


「レミアちゃん、それマ?」


 かすみちゃんが、真顔でつっこむ。

 ダメよ、イジったら。


「うん、マジだよー」


 ニッコニコのレミアちゃん。


「アハッ、かわいいなぁ」


 なんか、こういうノリも悪くないなぁ。


「いや、き───」


 なにか、アファエルが悪態をつく気がしたので、


「アファエル」


 アファエルの、脇腹をえぐるわたし。


「ぐふッ………ちょっ、おま」


 痛みから、中腰になるアファエル。


「アファエルどうしたの?」


 レミアちゃんが、心配そうに言う。


「あっ、いやイイんだ。朝食ったの出るかと思った」


 声が、震えるアファエル。


「それは大変! 薬が欲しかったら、いつでもレミに言って!」


 大きな肩掛けバッグを、手前に持って来るレミアちゃん。


「あっ、うん。大丈夫だよレミアさん」


 なにを出されるか、たまったもんじゃないので、丁重に断るアファエル。


「そうなの?」


 開いたバッグを、閉じるレミアちゃん。


「大丈夫大丈夫」


「レミアちゃん、こいつ頑丈だから心配いらないよ」


 わたしが、そう言うと、


「アトラフィルさん?」


 わたしを、睨み付けるアファエル。


「わたしも、なにかバイトしないとな」


 話を、そらすわたし。


「そんなに、余裕ない感じ?」


 レクラちゃんが、聞いてくる。


「うん。OL時代の蓄えがね」


 まぁ、アファエルの追っかけをしていたってのもあるけど、ゲフンゲフン。


「そう。私は、ブランド品をけっこう買っちゃって、蓄え自体がなかったり」


 さすがに、CAさんだけあるわね。


「えーっ、大変じゃない」


 それで、電車で通学してるんだね。


「うん。レミアちゃんは、ナースしてたからだいぶ貯まってたんじゃない?」


 レクラちゃんが、聞くと、


「………アハハ」


 苦笑いするレミアちゃん。


「貯まってないみたいね」


 これは、なにかありそう。


「色々あってねー」


 笑って誤魔化すレミアちゃん。


「まぁ、ナースも色々あるわな」


 ナースは、ナースでモテそう。


「そーなのだよー」


 また、明るさが戻るレミアちゃん。


「レミアちゃんって、最初誰も近付けないぞって空気出してたけど、話すと案外イイ人だね」


 入学当初は、うつむきがちで人を睨んでいるようだった。


「そーお? レミちゃんエラい?」


 ニヤリと、笑うレミアちゃん。


「エラいエラい」


 レミアちゃんの、頭をなでてあげるわたし。


「エヘヘーッ」


 はにかむレミア。


「かわいいヤツだのー」


 なでまわす。


「エヘヘーエヘヘー」


 変な感じになるレミアちゃん。


「なんなんだ。朝っぱらからよう」


 アファエルは、冷ややかに見ている。


「なーに、アファエルもイイこイイこして欲しいの?」


 わたしが、手招きすると、


「ケッ、いるかよそんなの!」


 シッシッとするアファエル。


「うるさいなぁ!」


 座席に座って、伏せていたさわちゃんが目を覚まして言う。


「あっ。さわちゃん、起きちゃった?」


 なんか、悪かったわ。


「もう、辻堂に着いたのですの?」


 と、聞いてくるので、


「いや、まだよ。着いたら起こしてあげるからね」


 やんわりと、また眠るよう促すわたし。


「フン。お願いしますね!」


 さわちゃんが、また伏せる。


「はいっ」


「態度の悪いヤツ」


 悪態をつくアファエル。


「アファエル。なにか、言いまして!?」


 アファエルを、睨みつけるさわちゃん。


「いいえ、なんにも言ってませんが」


 苦々しく言うアファエル。


「あら、そう」


「ハイハイ、ごゆっくりとお休みくださいませ」


「………」


 また伏せるさわちゃん。


「アファエルと、仲がイイよね?」


 レクラちゃんが、そう言うと、


「あー、そう見える?」


 ふてくされるアファエル。


「アファエルの親戚なんだよね?」


 たまらず、わたしがそう言うと、


「えーっ、どことなく似てると思ったら」


 と、レクラちゃんが口を滑らせるので、


「「似てねぇ」」


 と、声をそろえるアファエルと、さわちゃん。


「いや、似てるって」

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