第5話 居酒屋にて

「どうしたんだい? またケンカでもしたのかな?」


 プリムちゃんが、路上のナンパを避けながら、行き付けの居酒屋にたどり着くと、そこのおやじさんが、カウンター越しに話しかける。


「いえ、ケンカはしてないですけど、追い出されちゃって………」


 苦笑いするプリムちゃん。


「えー、なにか悪さしたんか?」


 笑いながら、つっこむおやじさん。


「そんなんじゃないです」


 首を横に振るプリムちゃん。


「そうかぁ。まぁ、ゆっくりしていきな」


 あまり、詳しく話そうとしないので、そっとしておくことにしたおやじさん。


「はい」


『メッセ!!!』


 不意に、スマートフォーンが鳴る。


「ケータイ鳴ってるよ?」


 思わず、おしえてあげるおやじさんだが、


「イイんです」


 カウンターテーブルに、伏せたままにするプリムちゃん。


「そうなのかぁ」


 腕組みするおやじさん。


「はい」


『メッセ!!!』


 立て続けに鳴るスマートフォーン。


「なんなの!?」


 仕方なく、メッセのアプリを開くと、


シュポ


『おーい、帰ってきてイイぞ』


シュポ


『早く帰ってこーい』


 などと、心にもないことが書かれているので、


「なによ。ジャマ者あつかいしたくせに」


 また、スマートフォーンを伏せて置く。


「心配してるんじゃないかな?」


 と、おやじさんが言ってくれるのだが、


「心配なら、ここまで来ると思います」


 とりあわないプリムちゃん。


「あぁ、ウワサをしてたら」


 居酒屋の引き戸が開いて、アファエルとわたしが入る。


「こんばんは」


 おやじさんに、あいさつするアファエル。


「いや今、話していたとこだよ!」


「おお、お前さんは!」


 居酒屋にいた、お客さんがアファエルの顔を見て気付く。


「あれだ、新人王の………」


 4人の男が、アファエルを見る。


「そうそう、なってったかな~」


 思い出そうとしているが、


「ここまで、出てりゅんだよ~~」


 目の横に、手をつける男。


「そこなら出てるだろ」


 つっこむ男。


「ガハハ、そうだ三浦選手!」


 やっと、思い出す男。


「あー、そうだ三浦アキ!」


 手を叩いて、よろこぶ男。


「思い出した、オレさあんたにフルベットして、勝たせてもらったんだ」


 どうやら、注目選手にしていたらしい。


「おー、すごいね」


 ハイタッチする男たち。


「ありがとよ、三浦さん」


 そう言いながら、ビールをおいしそうに呑む男。

 満面の笑みだ。


「………いえ」


 対称的に、顔色が暗いアファエル。


「なんで、最近出てないのォ?」


 デリケートな部分にふれる男。


「バカ!」


「えー、なんだよぅ!!」


 口を尖らせる男。


「知らねぇのか、謹慎」


 小声で、叱責する男。


「はぁぁ? なんだって謹慎」


 空気の読めない男。


「後で言うから、黙ってろって」


 つっこみを入れる男。


「おぉぅ、悪かったなあんちゃん」


 半笑いで、あやまる男。


「………いえ」


 話題を避けるアファエル。


「それで、レースにはいつ復帰するの?」


 また、ぶしつけなことを言う。


「………いえ」


「オレたちさ、三浦くんから流し買いするからさ」


 機嫌をとるつもりで、逆効果な男。


「また、レースはするんだよね?」


 しつこく聞く男。


「………いえ」


「まぁ、まだ日程は決まらないよね。悪かったね」


 ようやく、この話題にはふれたらダメだと気付く。


「………いえ」


「やっぱり、復帰を待ってる人がいるんだよ」


 わたしが、そう言うと、


「よぉ、ヘソ曲げてねぇで復帰しなよ」


 居酒屋の大将も言うのだが、


「………」


「おい、帰るぞ」


 アファエルが、プリムちゃんの手を引っ張ると、


「痛いって、お兄ちゃん」


 大げさに痛がるプリムちゃん。


「おう、妹ちゃんが痛がってるじゃねぇか」


 居酒屋の大将が、止めるのだが、


「帰るのか、帰らないのかすぐ決めろ」


 そう言って、プリムに詰め寄るアファエル。


「ちょっと、ご飯を注文しちゃってるのよ」


 大将に、視線をおくるプリムちゃん。


「そうだよ。ゆっくりしておきなよ」


 困り顔で笑う大将。


「うーん」


 わたしの顔を見るアファエル。


「お姉ちゃんも、食べて行こうよ」


 プリムちゃんが、わたしにも言う。


「そっ、そうよね。アファエ………アキさん」


 アファエルの背中を押す。


「うーん、まぁ………」


 しぶしぶ、カウンター席に座るアファエル。


「なにか、食べていくかな?」


「いや、オレは………」


 断るアファエル。


「せっかくだから、食べましょうよ。わたしが出すからさ」


 そう、わたしが言うと、


「それじゃあ、刺身盛り頼んでイイか?」


 ニヤッと笑うアファエル。


「うん。ジャンジャン頼んじゃってイイのよ」

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