第3話

その日は随分と寝苦しかった。特段暑かった訳ではない。ただ胸騒ぎがしてなかなか寝付けずにいた。隣を見てもマシロは居ない。トイレだろうか...?妙に気になり探しに行くことにした。


「あすの天気です。〇〇県では雨の予報です。傘を持ってお出かけください...」


 テレビがついたまま...。また消し忘れかとリモコンを手に取ろうとした時、ふと鼻を掠めた、嫌な匂い。生臭い鉄の匂い。事切れた命の匂い。


 「えっ?」


 父が死んでいた。腹を包丁で刺されて死んでいた。なぜ、誰がこんな...。マシロ...マシロはどこにいる?父を殺したやつがまだ近くにいるかもしれない。探さなくては。キッチン、お風呂場、洗面所、それから母の部屋に私たちの部屋...。全部探したけれど、そのどこにもマシロの姿はなかった。


今は午前2時。こんな時間に外へ行くなんていつもなら考えられない。外...?ベランダは見ただろうか。酷く高鳴る心臓を押さえつけながらベランダへ繋がる窓を開ける。


「あ、ミツキ。眠れないの?ホットミルクでも作ろうか〜?」


 顔に鮮血を付けたままこちらへにへらとほほ笑みかけるましろが居た。


「そのほっぺの血...どうしたの?いや、それよりも、父さんが殺されてて!怪我は無い?犯人がまだいるかも...。早く逃げよう!」


 「???何言ってるの?逃げなくたって大丈夫だよ。」

「なんで?!このままじゃ私たちだって危ないかもしれないんだよ?」


 「うん。だって父さん殺したのアタシだし」


 は?マシロが父さんを殺した?なぜ?あぁ、いや。なぜじゃないか。


「そっか...。それなら良かった。いや良くはないんだけど、でも強盗とかじゃなくて良かったよ」


 「驚かないね?ビックリするかな〜って思ってたんだけど」


「驚いてるよ!でも、なんて言うか、自業自得なのかなって。だってマシロにばかり暴力振るってたし、怒鳴りつけるし。いくらマシロが母さんに似てるからって、マシロにぶつけるべきじゃないものをぶつけてたから」


「それより怪我は無い?どこか痛いところとか...」


 「そっか〜......うん、大丈夫だよ。ちょっと腫れてるけど冷やせばすぐ治るよ」


 ”ちょっとまってて”冷凍庫に入っているであろう保冷剤を探しに行く。マシロはどんな思いで父さんを刺したのだろう。あぁ、それよりも


「はい、これで冷やして」


 「ありがとう」


 これからの事を考えなければ


「ねぇマシロ。これからどうしようか」

 「うーん、とりあえずお風呂入ろ!最近入れてなかったし」


「これからの行動を聞きたかったんだけど...まぁいいか」


 「湯船に浸かって体が暖まれば良い考えも浮かんでくるよ」


 まぁそういうもんだろう。マシロがお風呂へ入っている間に食事でも作ろう。父親のせいでまともに食べられていなかったから。これからは自由に使える。諸悪の根源は取り除かれた。ならば私たちは自由になれたのだ。

さぁ何を食べようかな。マシロは何が食べたいだろう。冷蔵庫の中にはあまり材料は入っていないけれど、それでも楽しみだった。久々のまともな夕飯だ。これだけ楽しみなのは久しぶりだった。食べ終わったらどうするか話し合おう。マシロがいるならどこへ行くことになってもきっと楽しいだろうから。

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