クインシー 第7章③:迫りくる刺客

 朝露が残る道をトリアと並んで歩きながら、クインシーは背後に漂う異様な気配を感じ取った。

 研ぎ澄まされた第六感が、凶兆を告げている。

 冷ややかな緊張が肌を刺した。


 「トリア、俺の後ろに下がって」


 クインシーは低く囁き、視線だけで周囲を確認する。

 瞬間、黒い影が木立の間から次々と現れた。

 黒装束に身を包んだシャドウベインの刺客たち。


 その動きは統率されており、隙がない。

 まばゆい朝の光の中で、彼らの存在は異質な闇を放っていた。


 「分かっているだろうな、クインシー」


 リーダー格と思われる男が一歩前に進み出た。

 その声は低く威圧感がありながら、機械のように無機質で冷たく、人間味が一切感じられない。


 クインシーは瞬時に体を動かし、トリアを背後に庇う。

 ナイフを構えながら周囲を見渡すと、黒装束の人数が徐々に増えていくのが見えた。


 「大丈夫だ、トリア。絶対に守るから」


 その言葉を口にした瞬間、トリアが彼の袖を小さく掴む。

 その仕草と袖の温もりが、クインシーに勇気を与えた。


 刺客たちは言葉を発することなく、影が忍び寄るようにゆっくりと包囲を狭めてくる。

 クインシーは今、自分たちが確実に追い詰められていることを悟った。

 だが、不思議と恐怖はない。

 守るべき存在を持つ者の強さが、彼の心を支えていた。


 「…来い」


 クインシーが短く言い放つと同時に、刺客たちが一斉に動き出した。

 彼らの連携は完璧で、無駄のない攻撃が次々と繰り出される。

 水平に振り抜かれた敵の刃が、クインシーの喉元をかすめる。


 クインシーはその攻撃を紙一重でかわし、返す刃で敵を切りつける。

 一人、また一人と倒れる刺客。

 だがその背後には、さらに多くの影が待ち構えている。


 その時、突如として空気が震えた。

 圧倒的な魔力の波動が広がり、刺客たちの動きが一瞬止まる。


 「退け。さもなくば容赦はせん」


 強烈な威圧感とともに、シルヴェスターが姿を現した。

 彼の周囲には目に見えるほどの魔力が渦巻き、刺客たちの放つ殺気を一瞬で押し返す。


 「シルヴェスターさん!」


 驚くトリアの声。


 「一人でやるつもりだったのか、クインシー」


 シルヴェスターが静かに言葉を投げかけるが、その目は刺客たちから一瞬も離れない。

 鋭い眼差しは、戦場のすべてを掌握していた。


 クインシーは短く頷くと、再び刺客たちに向かって刃を構える。

 シルヴェスターの放つ衝撃波が幾人かの刺客を吹き飛ばすが、彼らは怯むことなく即座に包囲を立て直す。

 その徹底した訓練と冷徹さが、クインシーの記憶を刺激する。


 「これが俺のいた世界か…」


 冷たい汗が額を伝う。

 彼らの攻撃は否応なく、過去の自分を思い起こさせる。


 「だが、もう戻らない!」


 叫びと共に、クインシーは再び動き出した。

 シルヴェスターの援護を得て、刺客たちの攻撃をいなし、隙をついて反撃を繰り返す。


 しかし、次々と現れる敵は尽きることがない。

 クインシーは汗に滲む手でナイフを握り直す。

 疲労が彼の動きを鈍らせ始めていた。


 「まだ終わらない!」


 それでも彼の瞳には、闘志がみなぎっていた。


 「絶対に守る…何があっても!」

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