クインシー 第7章④:光と影の覚醒
戦いは数時間にも及んでいた。
クインシーは極度の疲労困憊に追い込まれていた。
倒した敵の数はもう、何人かも分からない。
それでも相手は次から次へと湧いて出てくる。
息は荒くなり、足は鉛のように重い。
それでも歯を食いしばって刃を構え、敵に立ち向かう。
シルヴェスターもまた、多数の敵を相手に苦戦していた。
魔力はすでに切れ、多勢に無勢。
状況が悪すぎる。
「しまっ…!」
疲労で動きが鈍った瞬間、クインシーの右脚に敵の投げナイフが命中する。
クインシーはたまらず地面に膝をついた。
「クインシー!」
トリアの悲鳴が響き渡る。
「大丈夫か!」
シルヴェスターが駆け付けようとするが、敵に阻まれて容易に近づくことができない。
「やれ」
リーダー格の男の指示で、数人の刺客がクインシーに襲いかかる。
絶望かと思われたその瞬間。
トリアは無意識のうちに胸で手を合わせ、天を仰いでいだ。
その姿は、30年前の大災害時に降臨した
…愛する人を救いたい、彼を守るためなら何も怖くはない。
その一途な想いが、クインシーを救う勇気をトリアにもたらす。
「…クインシーを助けたいの!お願い、力を!」
ただひたすらに祈りを捧げるトリアの体から、純白の光が溢れ出す。
その光は真珠のように柔らかく、同時に太陽のようにまばゆく輝いた。
クインシーに襲いかかる刺客たちは光に触れて目が眩み、動きを止める。
「トリア…」
その時、クインシーの内側でも何かが反応を始めていた。
トリアから伝わる愛の光が、彼の心の奥深くに眠る能力を呼び覚ましていく。
それは長年のシャドウベインの呪縛によって封印されていた、クインシー本来の力だった。
愛する者を守りたいという強い想いが、愛した者の加護を受けて封印を解き放つ。
クインシーの瞳が鋭く輝きを増す。
彼の周囲の影が、まるで生き物のように動き始めた。
影は彼の意志に呼応するように形を変え、徐々に具体的な輪郭を描き出していく。
「
叫びと共に、無数の影の刃が冷たいオーラを放ちながら浮遊する。
刺客たちは光と影に包まれて動きを止めた。
だがその硬直は一瞬のこと。
再び統率の取れた動きでクインシーに襲いかかる。
「
影の刃がクインシーの意志のままに舞い踊る。
それらの一振り一振りが優美に弧を描き、刺客たちに次々と襲いかかる。
放たれた影の刃が敵を追尾し、正確に急所を突いていく。
刺客たちの連携は次第に崩れ始め、彼らの動きは次第に無秩序になっていった。
「お前たちには負けない!」
その声には、もはや迷いのかけらもなかった。
クインシーの中で、これまで彼を縛り付けていたシャドウベインの呪縛が完全に砕け散った。
守るべき存在を得た者の、揺るぎない意志がそこにあった。
「
クインシーは瞬間移動し、敵の死角に突然現れて容赦のない一撃を見舞う。
躊躇いのないその姿は、もはやシャドウベインの道具ではなく、戦士としての誇りを身にまとっていた。
「
幾千の刃が形を変え、影の波動が広がる。
闇の奔流が残された刺客たちを覆い尽くし、すべてを闇へと消し去った。
そこへシルヴェスターが最後の敵にとどめをさし、長きにわたる激しい戦闘は終わりを告げた。
戦場は静寂に包まれ、影の力は徐々に収束していく。
クインシーの周囲の空気が、穏やかさを取り戻していく。
「クインシー、よかった…!」
トリアはクインシーに寄り添い、その手で彼の手をしっかりと握る。
彼女の声には、安堵と疲労が混じっていた。
自力でセレスティアの力を引き出したトリアは、精神力を使い果たして今にも倒れそうだった。
クインシーは彼女の手を優しく握り返し、肩を抱いてその身を支える。
「大丈夫か、トリア」
トリアとクインシー、二人の覚醒した力は、彼らの絆をより強固なものにした。
それはただ戦うための力ではなく、互いを守り合うための確かな絆だった。
その様子を見守るシルヴェスターは、かすかに微笑んだ。
二人の成長を目の当たりにし、彼は若き世代に新たな希望を見出していた。
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