ハロルド エピローグ:復興に向けて

ハロルド エピローグ①:平和な日常

 柔らかな光が公園を照らし、穏やかな時間がゆっくりと流れる。

 ハロルドとトリアは、並んで歩きながら、あの激しい戦いを静かに思い返していた。


 「ねえ、ハロルド」

 トリアがふと立ち止まり、空を見上げた。

 「覚えてる?あの日の空。暗くて、重くて…まるで嵐のようだったよね」


 ハロルドも空を見上げた。

 かつての戦いが脳裏に蘇る。

 ジャンカルロ、そしてABYSSと対峙したあの日。


 暗雲に覆われ、絶望が押し寄せた空の記憶。

 けれど、今この空にはこの手に取り戻した安らぎがあった。


 「確かにな」

 ハロルドは微笑みながら頷く。


 「でも、この空の下に立っていられるのは、俺たちが一つになって戦ったからだ」


 二人は自然と足を向け、公園のベンチに腰を下ろした。

 遠くから子どもたちの声が聞こえる。

 笑い声、追いかけっこをする小さな足音、その光景に、トリアの目が優しく細められた。


 「なんだか懐かしいね」

 トリアが微笑む。

 「私たちもあんなふうに無邪気に遊んでたよね」


 「ああ」

 ハロルドは柔らかい表情で答える。

 「お前が転んで泣いたら、俺が背負って帰ったっけな」


 「もう、それを言うなら!」

 トリアは軽く笑いながら、振り返った。

 「ハロルドが工房で真っ黒になって帰ってきた時、いつも私が着替えを持って行ったでしょ?」


 二人は同時に笑い出した。

 幼い頃の思い出が、今の安らぎをいっそう深く感じさせる。


 ハロルドは、そっとトリアの手を取った。

 「あの頃は、お前のことを妹みたいに思ってた。でも、今は…」


 言葉が途切れる。けれどその想いは、手に伝わる温かさと共に、十分に届いていた。


 「うん」

 トリアは頬を赤らめながら、ハロルドの手をぎゅっと握り返した。


 「私も、あの頃はハロルドのことをお兄ちゃんみたいに思ってた。でも今は、もう違う」


 二人の間に流れる空気が、言葉よりも雄弁に互いの想いを語っていた。

 その静かなひとときを、遠くから響く賑やかな声が切り取った。


 「おーい!」


 振り返ると、仲間たちの姿があった。

 クインシー、ロイ、ニコラス、ユージーン、そしてシルヴェスター、皆が笑顔で近づいてくる。

 手には花束や小さな包みが握られていた。


 「こうして平和な時間を過ごせるのも、お前たち二人のおかげだ」

 ロイが微笑む。


 「まったくだな」

 クインシーは特大の花束を差し出した。


 「これからは幸せになるのが、お前たちの仕事だぜ」


 ユージーンは上品に会釈し、ニコラスは少し照れくさそうに微笑んだ。

 シルヴェスターは静かにトリアを見つめた。


 「お前は本当に立派になったな。セレスティアとして、そして一人の女性としても」


 その落ち着いた声に、トリアの瞳が潤んだ。

 シルヴェスターは小さな包みを差し出した。


 「これは、マキシマスとキャシディからお前たちへの言付けだ」


 ハロルドが包みを開けると、中には一組の揃いの指輪が入っていた。


 「お前たちの新しい人生への祝福だ」


 二人は目を見合わせ、笑みを交わした。

 戦いの日々を共に過ごした仲間たち。

 その祝福の輪の中で、二人の心は確かに結ばれていた。


 ハロルドはトリアの肩を抱き寄せ、静かに言った。

 「これからもずっと、一緒だ」


 トリアは頷き、微笑んだ。

 「うん。ずっと」


 遠くで子どもたちの声が響き、大切な仲間たちの笑顔が温かな時間を彩っている。

 それは、命を賭けて嵐のような戦いを越え、絶望に足を取られながらもようやく掴み取った、何ものにも代えがたい平和だった。

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