ハロルド エピローグ②:復興に向けて

 研究室の窓から、柔らかな陽光が差し込んでいた。

 机に向かうハロルドの前には、街の未来を描く設計図が広がっている。

 周囲には試作機や計算式が書き込まれたメモが無造作に積み重なり、彼の情熱がそのまま形になっていた。


 その机の片隅に、一枚の古びた写真が立てかけられている。

 そこには、若かりし頃の両親の笑顔が映っていた。

 シャドウベインによって失われたその命は、ハロルドの胸に深い痛みと新たな決意を刻みつけていた。


 「ハロルド?」

 扉が静かに開き、トリアがそっと顔を覗かせた。

 彼女の手には温かいお茶と、心のこもった手作りのサンドイッチが乗っている。


 「また仕事に没頭してたわね?」

 トリアは微笑みながら、机の上の散らかった図面に目をやる。


 「すごいね、こんなにたくさんの設計図が全部新しい街のためのものなんて」


 ハロルドは一枚の図面を持ち上げ、熱を込めて語り始めた。


 「ここに浄水施設を作って、安全な水を街中に供給する。それから、発電施設もこの地域に。持続可能なエネルギーを使えば、もっと効率よく街を動かせるんだ。」


 語るハロルドの目は、生き生きと輝いていた。

 それは、単なる技術者としての情熱ではなく、平和な未来を築くための確固たる信念だった。


 トリアはそっと彼の肩に手を置いた。


 「きっとご両親も誇りに思ってるわ。あなたのその技術が、みんなの幸せを作ろうとしているんだから」


 ハロルドは机の上の写真を見つめた。

 「両親の死の真相を知った時、誓ったんだ。二度とこの街に犯罪組織の影を落とさせない。安心して暮らせる街にするって」


 「私たちの力でね」

 トリアは写真を見つめるハロルドの隣で、静かに言った。


 「もう二度と、誰も大切な人を失わないような世界を作りましょう。」


 そのとき、ドアが勢いよく開いた。

 「よう、ハロルド!」


 明るい声が研究室に響く。クインシーだった。

 彼の手には、資料か何かが詰まった大きなファイルが握られている。


 「またコツコツやってんな!」

 軽快な足取りで入ってくるクインシーの後ろから、ロイとユージーンが現れた。


 「新しい施設の計画が議会で承認されたぞ」

 ロイが頷きながら言う。


 「シルヴェスターの推薦が大きかったらしい。お前の設計はこれから正式に採用される」


 「本当ですか!」

 ハロルドの目が見開かれる。


 「もちろん」

 ユージーンはエレガントに肩をすくめる。

 「私の完璧な調整も一役買ったということさ」


 「仲間って最高だな!」

 クインシーが大げさに笑い、ハロルドの肩を叩いた。

 「よし、今日はお祝いだ」


 トリアがサンドイッチを研究室のテーブルに並べながら笑う。

 「お昼にしましょう。頑張った皆のために、特製のランチよ」


 仲間たちはテーブルを囲み、それぞれの席に着いた。笑い声と冗談が飛び交い、陽光がその光景を優しく包んでいる。


 トリアはふと、小声でハロルドに囁いた。

 「ねぇ、幸せ?」


 ハロルドは彼女の手を取り、しっかりと頷いた。

 「ああ。こんなに幸せなことはない」

 彼はトリアを見つめて微笑む。

 「お前とならどんな夢だって叶えられるさ」


 「私もよ」

 トリアの頬が赤く染まる。

 「これからも、ずっと一緒にね」


 研究室に響く笑い声と、窓から差し込む陽光。

 その外では、新しい街が少しずつ形を成していく。

 そしてその街は、かつての傷跡を超えて人々が紡ぐ希望となり、未来という名の空に果てしなく広がっていく。


fin.

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