ハロルド 第8章④:世界を救う祈り

 漆黒の闇が世界を覆い尽くそうとするその瞬間、ハロルドとトリアの握り締めた手から、信じられないほどの光が溢れ出た。

 それは、二人の深い愛と信念が生み出した奇跡だった。


 「ハロルド」

 トリアの声が確信に満ちる。

 「この力は…」


 「ああ」

 ハロルドは頷き、彼女をまっすぐ見つめる。


 「俺たちの想いが、一つになったんだ」


 純白の光がトリアの全身を包み込む。

 その輝きは、30年前にABYSSを封じたセレスティア光の聖女・クララが発した光と同じだった。

 トリアの中に流れる聖女の魂が、いま再び、彼女を希望の象徴として輝かせていた。


 一方、ハロルドの「MECHA FIREBALLメカ・ファイアボール」もトリアの輝きに呼応するように反応を見せる。

 7つのビットが眩く輝き、光と共鳴するかのように動き出す。

 それは、二人の絆が込められた、皆の最後の希望だった。


 「この世界には!」

 ハロルドが力強く叫ぶ。


 「まだ希望がある!」

 トリアの声が重なる。


 「Hi-NRG ATTACKハイエナジー・アタック!」

 

 二人の声が同時に響いた瞬間、その力は完全に一つとなった。

 ハロルドの7つのビットが広がり、トリアの白い魔力がその輝きをさらに増幅させていく。


 そして7つのビットは1つに融合し、闇の中ですら希望を感じさせるほどの神々しさを放ちながら、不死鳥の姿に変わった。

 光の翼が闇を切り裂きながら突き進むと、ABYSSの

巨躯に大きな亀裂が走る。


 「消えろ!全ては無に帰すのだ!」

 ジャンカルロの絶叫が響き渡る。


 その声に呼応するかのように、ABYSSの放つ闇の波動は再び激しさを増す。

 闇の波動は津波のように押し寄せ、ビル全体が震え、周囲の空間が歪み始めた。


 巨大な触手が闇の中から現れ、光を飲み込もうと蠢く。触手が振り下ろされるたびに、床が砕け、天井が崩壊していく。


 「トリア!」

 ハロルドが叫ぶと、トリアは顔を上げて力を振り絞った。

 「負けない…私たちは絶対に負けない!」


 その瞬間、光の不死鳥が輝きを増し、ABYSSの中心部へと突進した。

 突撃の勢いに連動して、瓦礫を浮遊させるような光の波が広がる。


 「なんだと!?」

 ジャンカルロの表情が歪む。

 「こんな力が…!」


 不死鳥の翼がABYSSを貫き、巨大な闇の塊を完全に破壊した。

 その瞬間、空間全体が爆発的な光に包まれ、世界が震えるような振動が響き渡った。

 ついにABYSSが消滅したのだ。


 ABYSSの消滅により、激しい衝撃波が空間を満たし、最上階が傾き始めた。

 建物全体が激しく揺れ、シャドウベインの本拠地は崩壊を始めた。

 ジャンカルロは言葉もなく飲み込まれていった。


 「FIRE SHIELDファイアー・シールド!」

 ハロルドは再びビットを戻すと、7つをそれぞれに展開し、球体状の光の盾を作り出す。

 盾はチームメンバー全員を包み込んだ。


 「お願い、耐えて…!」

 トリアは声の震えを懸命に押し殺しながら、全身全霊の魔力をハロルドの光の盾に注ぎ込む。


 「まずい、このままでは…!」

 シルヴェスターが叫ぶ。瓦礫が容赦なく光の盾に降り注ぐ。


 超高層ビルが轟音と共に崩壊してゆく中、光の盾に包まれた仲間たちは、輝きの中でふわりと浮き上がった。

 それは、まるで奇跡のような光景だった。

 光る球体はゆっくりと、地面に降りていった。


 やがて、全ては静寂に包まれた。

 漆黒の空に、夜明けの光が差し始める。


 「終わったんだね…」

 トリアの声が小さく響く。疲れ切った体が、ハロルドの胸に寄り掛かる。


 「ああ」

 ハロルドは優しく彼女を抱きしめた。


 「俺たちの力で、未来を…守れたんだ」


 二人の周りに仲間たちが集まってくる。誰もが疲労困憊していたが、その表情には確かな希望が宿っていた。


 「ハロルド、トリア」

 シルヴェスターが静かに語りかける。


 「お前たちは、クララの想いを…しっかりと受け継いでくれた」


 クインシーは感極まった表情で、二人を抱きしめる。


 「お前たち、マジですごいよ…」


 朝日が地平線から昇り始め、その光が戦いの跡を優しく照らしていく。

 その光は戦場を染め、瓦礫の中からのぞく一輪の花が、これからの世界を予感させていた。


 ハロルドはトリアの手を強く握り、微笑みながら語りかけた。


 「これからだ。俺たちの未来は、まだ始まったばかりなんだ」


 「うん」

 トリアは疲れた顔に、幸せな笑みを浮かべた。


 「私たちの力で、平和な世界を作っていこう」


 戦いは終わり、新しい夜明けが訪れた。

 チームTRANSCENDAのメンバーは、互いに支え合いながら、希望を胸に凱旋の途についた。

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