ハロルド 第7章:告白(クリスマス ver.)

ハロルド 第7章①:告白

◇ ◇ ◇


 -- 前書き --

 基本的に本作には、特定の季節を設定していません。

 ですが、本日(投稿日)12月24日はクリスマス・イブ、そしてハロルド告白回でもあるため、ハロルド第7章の描写をクリスマスバージョンにさせていただきました。

 このバージョンは約1か月間の限定公開を予定しており、それ以降は本来のバージョンに書き換えます。

 このささやかでロマンチックなクリスマスイブ企画に、どうかお付き合いいただければ幸いです。


◇ ◇ ◇




 凍てつく冬の午後、公園のベンチで、ハロルドはトリアの横顔を静かに見つめていた。

 幼い頃から見慣れていたはずのその顔が、今では胸を締め付けるほどに愛おしかった。


 雪がしんしんと降り積もり、木々についた氷の結晶が淡い光を反射して輝いている。

 澄んだ空気の中、どこか遠くから聞こえる鐘の音が、クリスマスの訪れを告げていた。


 「ねえ、ハロルド」

 トリアが微笑みながら振り返る。


 「覚えてる? 孤児院で一緒に星を見た夜のこと。あの時、あなたが私に星座を教えてくれたんだよ」


 その言葉に、ハロルドは少し照れたように笑みを浮かべた。

 白い息が空に溶ける中、二人で夜空を見上げた日の記憶が蘇る。

 寒さを紛らわせるために、ぎこちなく星座の話をした自分と、それを嬉しそうに聞いてくれたトリアの笑顔が思い出される。


 「あれ、本当は星座の名前なんてほとんど知らなかったんだ。お前が寒そうにしてたから、何か話さなきゃって思っただけ」

 ハロルドが少し照れながら言うと、トリアは柔らかく笑った。


 「あの夜のこと、今でもはっきり覚えてるよ。たしかオリオン座だったよね。冬の星座の話」


 ハロルドはその言葉に頷きながらも、心の奥で静かに湧き上がる感情を感じていた。

 降り積もる雪が静けさを際立たせ、遠くで灯るイルミネーションが淡く輝いている。


 『お前、いつまでトリアを妹だと思ってるんだ?それはもう、恋だろ?』


 クインシーの言葉が頭をよぎる。

 ずっと気づかないふりをしていた感情が、今や胸の奥で大きく脈打っている。


 「どうしたの?」

 トリアが心配そうに顔を覗き込む。


 「なんだか遠いところを見ているみたい。」


 その言葉に、ハロルドは我に返った。

 トリアの澄んだ瞳を見つめる。

 嘘をつくことなどできない――彼は決心した。


 「トリア」

 深く息を吸い、彼はゆっくりと口を開いた。


 「あの夜、俺が話してたこと覚えてる?」


 「もちろん。『これがオリオン座だ』って自信満々に言ってたけど、実際は全然違ってたよね」

 トリアの笑い声が、冷たい空気を温めるように響いた。


 「俺、あの時はただ、お前が喜んでくれればそれでいいと思ってた。でも今は、それだけじゃなくなったんだ」


 ハロルドの声が少し震えた。


 「お前の笑顔を見たい。お前を守りたい。そんなことばかり考えるようになってた」


 トリアは静かに頷いた。その仕草には、幼い頃から変わらない優しさが滲んでいる。


 「俺は、お前と一緒に未来を作りたいんだ。妹だなんて思ってない。お前が俺にとって、何より大切な存在なんだ」


 雪が舞い落ちる中、遠くから聖歌隊の歌声が聞こえてくる。

 その響きが二人を柔らかく包み込んだ。


 トリアの瞳が驚きに揺れ、次第に涙が滲んでいく。

 そして、震える声で口を開いた。


 「私も…ずっとあなたを見てた。あなたが何かに夢中になるたび、私もその隣にいたいって…そう思ってた」


 トリアは声を詰まらせながらながら続けた。


 「でも、いつも前を見ているあなたは、私には遠い人に思えて…追いつけないって、ずっとそう思ってた。」


 彼女の頬を涙が伝う。


 「でも…こんな気持ち、隠しきれないよ。私も…あなたのことが好き。もう遠い人だなんて思わない」


 ハロルドはそっと彼女の手を取った。

 その小さな手の温もりが、まるで心に春をもたらすかのように伝わってくる。


 「俺はここにいる。」


 その言葉に、トリアはたまらず顔を覆って幸せの涙を流した。

 雪の中、ハロルドはその胸に彼女を抱き寄せた。


 「これからは二人で歩いていこう。」


 イルミネーションの光が二人を包み込み、静かに舞い降りる雪が、まるで二人を祝福するかのように輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る