ハロルド 第7章②:二人の時間

 夕暮れの訪れとともに、公園に飾られたクリスマスのイルミネーションが一斉に灯り始めた。

 赤や緑の光が雪に反射して、幻想的な雰囲気を作り出している。


 ハロルドとトリアは肩を寄せ合うように歩いていた。

 冬の冷たい空気の中、寄り添う二人の距離は以前よりも少しだけ近い。

 それでも、時折触れ合う指先に、お互いの胸が大きく跳ねるのを感じていた。


 「なんだか夢みたいだね」

 トリアが小さく呟いた。その声には、まだ信じられないような戸惑いと幸せが混ざっている。

 「ハロルドと私が、こうして…」


 ハロルドも同じ気持ちだった。

 「妹」から「恋人」へ――その変化は突然のようで、でも自然なものだった。

 長い間探していた答えにようやく辿り着いた、そんな感覚が胸に広がっていた。


 「俺も…まだ夢を見てるみたいだ」

 ハロルドは少し照れたように微笑む。

 

「でもな、これが現実なんだって、こうして隣にいると実感できる」


 二人の間に漂うのは、これまでにない温かさと心地よい緊張。

 雪が静かに舞い降り、イルミネーションの光が二人を柔らかく照らしていた。


 「そういえばさ」

 ハロルドは少し照れながら切り出した。


 「俺が初めてお前の誕生日にやったもの、覚えてるか?」


 「覚えてるよ!」


 トリアの目が輝く。


 「ハロルドが作ってくれたオルゴールでしょ?今でも大切にしてるんだよ。毎晩寝る前に聴いてるの」


 その言葉に、ハロルドの胸がじんわりと温かくなった。


 「実はあの時から…」


 彼は空を見上げ、雪が落ちるのを見つめながら続けた。


 「お前が笑ってくれるのが嬉しくて、いろんなものを作ってたんだ。気づかなかったけど、きっとその時から俺は…」


 ふと言葉が途切れた瞬間、トリアがそっとハロルドの腕に頭を寄せた。

 言葉には出さなくても、その仕草に想いの全てが込められていた。


 「ハロルドの作るものには、いつも優しさがあるよね」


 トリアが静かに言う。


 「私、その優しさがずっと好きだったよ」


 その言葉に、ハロルドは思わずトリアを強く抱きしめた。

 冬の冷たい空気の中で感じる彼女の温もりが、胸を締めつけるような幸福感を与えてくれる。


 イルミネーションに照らされる公園の中で、二人の影が長く伸び、やがて一つに重なっていく。

 遠くから、クリスマスの鐘の音が風に乗って聞こえてきた。


 「もう、こんな時間…」

 トリアが少し名残惜しそうに呟いた。

 「帰らないと、きっとマキシマスとキャシディが心配するよ」


 「ああ」

 ハロルドも立ち上がった。

 「そうだな。そろそろ暗くなる頃だし」


 二人は肩を寄せ合いながら、孤児院への帰り道を歩き始めた。

 いつもと同じ道のりなのに、今日は特別な空気が流れている。

 時折触れ合う手に、お互いの心が跳ねるのを感じながら、二人の頬は赤く染まっていた。


 「なんだか不思議だね」

 トリアが微笑む。

 「毎日一緒に帰ってる道なのに」


 「ああ」

 ハロルドも照れたように頷く。

 「でも、今日からは違う。俺たち、恋人どうしなんだ」


 その言葉に、トリアは顔を真っ赤にして俯いた。

 ハロルドは思い切って、何気なくそっとトリアの手を握った。

 小さな頃から知っているその手のぬくもりが、今は特別な意味を持って二人の心に伝わる。


 孤児院の門が見えた時、ハロルドは立ち止まった。


 「トリア」


 彼は真剣な表情で言う。


 「明日からも、ずっとこうして一緒にいよう」


 「うん」


 トリアは嬉しそうに頷いた。


 「約束だよ」


 二人は小指を絡ませ、互いに微笑み合った。

 トリアはそっとハロルドの頬に唇を寄せ、柔らかくキスをした。

 ほんの一瞬の出来事だったが、二人の心臓は大きく高鳴った。


 「ただいま!」


 玄関を開けると…


 「メリークリスマス!」


 子供たちのはしゃぎ声とマキシマスたちの笑顔が二人を出迎えた。

 いつもと変わらない、ささやかな日常。

 しかし、今日からその日常は、より特別な輝きを持つものになる。


 同じ屋根の下で過ごすこれからの時間は、今まで以上に愛おしく感じられるだろう――二人で未来を作っていく、その第一歩として。

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