ハロルド 第6章②:直接対決
寒気を帯びた夜風が、路地裏を吹き抜ける。
緊張感に空気が張り詰める。
街灯の光が二人の間で揺れ、不規則な影を地面に落としていた。
「…どうしたんだよ、ハロルド」
クインシーは普段の軽い調子を装おうとしたが、その声は明らかに引き攣っていた。
「そんな怖い顔して、何かあったのか?」
僅かに震える全身。
不自然な作り笑い。
すべてが、追い詰められた者の仕草だった。
「…今の会話、何だったんだよ?」
ハロルドがゆっくりと歩み寄る。
クインシーが視線を逸らす。
街灯の光に照らされた横顔が、影と光の境界で揺れている。
ハロルドは一度歩みを止めた。
そしてさらに一歩、前に踏み出した。
「クインシー、お前…本当に俺たちの仲間なのか?」
静かな声が、夜の闇に響く。
「それとも…シャドウベインのスパイ、なのか?」
その言葉が空気を切り裂いた瞬間、クインシーの表情から作り笑いが消え失せた。
代わりに浮かんだのは、苦悶に満ちた表情。何か言い返そうとして、言葉が喉に詰まる。
「黙秘は肯定ってことでいいのか?」
ハロルドの声が冷たく響く。
「ずっと俺たちを騙して…トリアを、みんなを、俺を!」
「黙れ!!」
クインシーの叫び声が、闇にこだまする。
「お前に何が分かる!俺だって、好きでこんなことしてるわけじゃない!」
これまで押し殺してきた感情が、その声に溢れていた。
拳を握りしめる手が大きく震え、目元が潤んでいく。
「シャドウベインを裏切ったら俺は始末されるんだ!組織を裏切ったら…そうしたら俺はもう…!」
「いつまでシャドウベインの奴隷でいるつもりなんだ!」
ハロルドも怒りを爆発させた。
「クインシー!お前はそれで本当にいいのかよ!」
その瞬間だった。
クインシーの瞳の中で、何かが弾けた。
彼は咆哮を上げながら、ハロルドに向かって突進してきた。
そしてハロルドは確かに見た。
クインシーの頬を伝う、抑えきれない涙を。
その涙には、彼の抱える全ての苦悩が詰まっていた。
シャドウベインへの恐怖、仲間への罪悪感。
そして何より、自分自身への嫌悪。
「俺には…!」
殴りかかるクインシーの声が震える。
「俺にはもう…!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます