ハロルド 第6章:真の友情

ハロルド 第6章①:暴かれた秘密

 今日も作戦会議が行われている、チームTRANSCENDAの作戦室。

 中央の大型モニターにはシャドウベインに関する最新データが映し出され、その青白い光がメンバーの表情を照らし出している。


 「シャドウベイン本拠地の警戒は、こちらの想定より遥かに厳重だ」

 ロイが腕を組んで地図を睨む。

 「正面からの突入は無理だろうな、何か策を考えるべきだ」


 議論が続く中、ハロルドはクインシーの様子が気になっていた。

 ここ最近ずっと様子がおかしい彼の表情が、今日は一段と曇っている。

 その顔には、どこか深い影が差しているように見えた。


 時折、モニターに表示される施設の図面に目を向けるたび、クインシーの指先が震える。

 誰も気付いていないであろうその仕草に、ハロルドは昨日とは違う違和感を覚えた。

 追い詰められた獣のような、そんな印象さえ感じられる。


 「セキュリティの死角を突きましょう」

 ハロルドがキーボードを叩き、モニターの表示を切り替える。

 「裏口がいくつかあります、そのどれかに警備の隙があるかも…」


 ふと、クインシーが顔を上げる。

 その目に浮かぶ複雑な感情を、ハロルドは見逃さなかった。

 何かを言いかけて、けれども飲み込むような仕草。

 それは明らかに、ここ最近のクインシーとは違った。


 会議が終わり、夜の街が静寂に包まれる頃。

 ハロルドは機器の電源を落としながら、ふとモニターに映るセキュリティカメラの映像に目を留めた。

 クインシーが建物の裏口に向かう姿が映っている。

 まるで重い足枷を引きずるような足取りだった。


 直感がハロルドを突き動かした。

 急いで残りの電源を落とし、クインシーの後を追う。


 月明かりのない夜道を、ハロルドは息を殺してクインシーの後を追う。

 街灯の明かりを避けながら、できるだけ物陰に身を隠して進む。


 心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、親友の後ろ姿を見つめる。

 クインシーの肩には、余裕といったものが全く感じられない。

 どこか焦っているような心の内が、その足取りからも伝わってくる。


 クインシーは人気のない路地に入っていった。

 古びたビルとビルの隙間に、黒いスーツを着た男が待っていた。

 ハロルドはビルの陰に身を潜め、二人の会話に耳を澄ます。


 「遅い」

 男の冷たい声が闇に響く。


 「申し訳ありません」

 まるで怯えるようなクインシーの声。

 ハロルドの知るあの陽気な声は、完全に消え失せていた。


 「作戦会議が長引いて…」

 「言い訳は必要ない。上からの催促が来ている」

 男の声が厳しく切り込む。


 「ハロルドの件は?」

 「もう少しだけ時間を…」

 クインシーの声が震える。


 「もう猶予は与えられない。24時間以内に結果を出せ。さもなければ…分かっているな?」

 ハロルドの背筋が凍った。


 その時、ハロルドは足元にあった小石を蹴ってしまった。

 小石が転がるカラカラという微かな音が、あたりに響く。

 男は瞬時に姿を消した。


 残されたクインシーが、ゆっくりと振り向く。

 街灯の淡い光の中、親友の瞳は鎖に縛られたような暗い光を宿していた。

 ハロルドの知るクインシーの瞳とは、まるで違う表情を見せていた。


 「ハロルド…」

 クインシーの声が、夜風に揺れる。

 二人の間に重い沈黙が落ちる。


 もう、隠し事は終わりだった。

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