第4章⑥:トリア覚醒

 トリアは無線で戦闘の音を聞いていた。

 手が震え、冷たい汗が背筋を伝う。

 最初の銃声が響いた時、トリアの体が跳ねるように反応した。


 「くっ!」

 ロイの苦痛に満ちた呻き声。

 シャドウベインの精鋭部隊の攻撃が、彼を捉えたのが分かる。


 「ロイさん!」

 トリアは無力感に胸が締め付けられる。

 その直後。


 「ぐあっ!」

 ニコラスの悲鳴が続く。

 まともに銃撃を受けたような悲痛な声だった。


 「相手は想定以上の戦力だ、このままでは囲まれる!」

 ユージーンの声が焦りを帯びる。


 仲間たちの苦痛の声が無線を通して次々と届く。

 銃声、悲鳴、苦痛の叫び。

 全ての音が、トリアの心を深く抉っていく。


 「私のせいだ…」

 トリアは膝をつく。


 「私が弱いから…私に力がないから…」


 無線から聞こえる激しい銃撃戦。

 仲間たちの、歯を食いしばる音と荒い息遣い。


 「私がここで、何もできないから…」


 涙が頬を伝い落ちる。


 その時、トリアの心の最深部で、何かが響き始めた。

 まるで遠い記憶の中の鐘の音のような、清らかな響き。

 トリアの体の芯が、不思議な温かさを帯び始める。


 「この…感覚は…?」


 温かさは徐々に広がり、やがて体中を駆け巡るような感覚に変わっていく。

 指先が光を帯び、長い髪が静かに揺れ始める。


 「お願い…!」

 トリアは両手を胸の前で強く握り締める。

 「私に力を…仲間を守る力を!」


 その瞬間、トリアの中で何かが弾けた。


 体が宙に浮かび始める。

 純白の光が彼女を包み込み、その髪が後光のように大きくなびく。

 いままでにない感覚が、トリアの全身を貫いていく。


 「この力は?私の中に、ずっとあったの…?」


 意識が拡がっていく。

 まるで世界が違う色で見え始めたかのように、全てが鮮明に感じられる。


 仲間たちの存在が光となって明確に見えてくる。

 彼らの傷、彼らの痛み、全てが手に取るようにわかる。


 「守りたい…あの人たちを、絶対に!!」


 トリアの声が変容していく。

 幾重もの声が重なり合うような、清涼な響きを帯びていく。


 「や…め…て------!」


 その叫びと共に、光の波動が四方へと広がっていく。

 夜空を切り裂く眩い光の渦が巻き起こり、虹色の光の帯となって列車まで伸びていく。


 トリアの意識は更に拡がり、仲間たちの傷までをも感じ取る。

 光が傷に触れると、まるで最初から存在していなかったかのように消えていく。


 「な、何が!?」ロイの困惑した声。

 「傷が、消えていく…」ニコラスの驚き。

 「…!」ユージーンの息を呑む音。


 光は更に輝きを増し、防壁となって仲間たちを守る。

 敵の銃弾は、まるで見えない壁に阻まれるかのように、全て弾かれていく。


 「行けるぞ!」ロイの声に力が戻る。

 「おう!」ロイとニコラスの息の合った動きが、敵の陣形を切り裂いていく。

 「援護する!」ユージーンとハロルドがその隙を突いて敵に発砲する。


 皆の猛攻が、残った敵を制圧していく。

 やがて戦いの音は収まり、夜の闇に静寂が戻った。


 その時、突如としてトリアの体から力が抜け始めた。

 目の前が霞み、意識が遠のいていく。


 「あ…」


 かすかな声と共に、宙に浮かんでいた体がゆっくりと地上へと降りていく。

 長い髪がベールのように揺れ、瞳から光が消えていく。


 「みんな…無事で…よかった…」

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