第4章④:作戦準備
作戦決行まであと三日に迫った日の夜。
両チームの全員Nexusの作戦室に集合していた。
部屋の中央に鎮座する装置「RCSJ」――鉄道制御システムジャマー。
3つに分かれた本体の冷却装置が静かに唸りを上げ、システムは待機状態を保っている。
「これが完成したRCSJです」
ハロルドは装置のメインパネルの前で説明を始める。
「輸送列車のセキュリティシステムに干渉してロックをかけ、緊急ブレーキを作動させるとともに武装を無効化します」
ロイが装置を見上げながら問う。
「稼働に必要な条件は?」
「三カ所からの電源供給が必須です」
ハロルドが設計図を広げる。
「RCSJは広範囲にジャマーを展開するため大量の電力を必要とします。この三点の電源を同時に接続して初めて本体が起動する仕組みになっています」
「設置の所要時間は?」
ニコラスが質問を投げかける。
「最低でも3人、10分はかかりますね」
ハロルドは真剣な表情で答える。
「一カ所でも接続が失敗すれば、起動できません」
「ハロルド、この手順書のここの記述は合ってるの?」
トリアは確認しながら尋ねる。
「合ってる」
ハロルドは明瞭に答える。
「三つの電源を同時に接続しないといけないからな。順番を間違えちゃだめだ」
ユージーンが作業台に詳細な地形図を広げる。
「ここを見てくれ。RCSJの設置場所は、上空からの監視の死角になるこのポイントになる」
クインシーは部屋の隅で壁にもたれて腕を組み、皆の動きをじっと見つめていた。
しかし、彼の心は全く別の場所にあった。
作戦と任務、組織への忠誠心と仲間たちへの思い。
それらが頭の中で入り乱れる。
いったい何をぐずぐずしている?
今すぐこの奇襲作戦をシャドウベインに報告すべきだ。
それこそが彼の任務であり、組織にとって正しい行動だ。
でもそれはトリアやハロルド、仲間のみんなを裏切ることになる。
もし裏切れば、この作戦の全てが終わる。
でも裏切らなければ、組織は裏切り者として自分に死を宣告するだろう。
葛藤の重圧に、クインシーの心臓は激しく鼓動する。
なぜ決断ができない?
どうしてこんなにも難しいんだ?
奇襲計画を組織に報告するならもう今しかない。
それなのに――
「ねえクインシー、大丈夫?顔が真っ青よ?」
トリアが心配そうに尋ねる。
クインシーははっとトリアを見つめた。
そして内心の動揺を隠すように、軽く手を振ってみせた。
「大丈夫さ、俺に任せとけって」
トリアはユージーンにも確認した。
「ユージーンさん、向こうの警備はどうなってるんですか?」
「当日は全区域に2分間隔で巡回があるよ」
ユージーンが応じる。
「だから設置までの10分間の時間を稼ぎ出すのが、ロイとニコラスの役目だ」
部屋の奥では、ニコラスが武器の最終チェックを行っていた。
一つ一つの装備を丁寧に確認し、不具合がないか入念にテストする。
「ニコラスさん、装備の確認はどうですか?」
トリアが声をかけると、ニコラスは無言で親指を立てた。
ハロルドがメインモニターに新たなデータを映し出す。
「装置の設置と起動が成功すれば、列車は完全に停止します。シャドウベインの技術者でも、システムの復旧には相当な時間がかかるはず」
「ハロルド、すごいね」
トリアは心から感心した様子で言う。
「大丈夫、きっと成功するよ!」
RCSJのテスト電源が投入され、装置が静かに息づくように振動する。
制御パネルに青白い光が灯る。
「よし」
ロイが全員に向かって声を上げる。
「明日から最終調整に入る。設置担当はみな協力してシミュレーションを開始してくれ」
いったん言葉を切った後、ロイは皆を見渡した。
「三日後の深夜、我々は裏社会最大の犯罪組織に挑む。機器の故障も、人的ミスも、一切許されない」
「ロイさん」
トリアが決意をみなぎらせる。
エステルと出会ったあの日から、トリアは今まで以上に積極的に作戦に関わり、貢献を心がけるようになった。
「必ず成功させましょう!」
緊張感が作業場を満たす。
時計の針は容赦なく進み、決行の時が刻一刻と近づいていた。
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