第4章③:エステルとの邂逅

 作戦会議を終え、トリアは外へと足を踏み出した。

 街灯が照らす道は静まり返っている。


 その時、突如として空気が張り詰めた。


 「…っ!」


 トリアの背筋を粟立つような感覚が走る。

 目の前の空間が歪むように揺らぎ、そこに一人の女性が姿を現した。


 漆黒のドレスに身を包み、新月の夜空より黒い瞳を持つ女性。

 ノクテリア闇の魔女・エステル。


 彼女はただそこに佇んでいるだけで、周囲の空気を支配していた。

 エステルの放つ魔女のオーラは目に見えるほどの強さで、夜の闇さえ押しのけるように輝いている。


 「…!」


 トリアは息を飲んだ。

 声を出そうとしても、喉が凍りついたように動かない。


 「セレスティアの転生体…」

 エステルの声は静かに、しかし確実にトリアの心を貫いた。

 「お前はまだ、何も知らない」


 「わ、私は…」

 トリアは必死に声を絞り出そうとする。


 エステルは一歩、前に踏み出した。

 その一歩に、全身が恐怖におののくような感覚に襲われる。


 「この程度の力で」

 エステルの瞳が鋭く光る。

 「お前に何ができる?」


 魔力の波動が押し寄せる。

 トリアは膝から崩れ落ちそうになる。


 「仲間たちを守れるとでも?」

 エステルの声には微かな憐れみすら混じっていた。


 その言葉に、トリアの心が震えた。

 ハロルド、クインシー。

 そして協力関係となったチームNexusのメンバーたち。

 大切な仲間の顔が次々と思い浮かぶ。


 「私は…私は…!」


 しかし言葉は続かない。

 エステルの圧倒的な存在の前で、自分がいかに無力か、痛いほど実感させられる。


 エステルは静かにトリアを見下ろした。

 「いま目覚めなければ、全てを失う」


 その言葉を残し、エステルの姿が夜の闇に溶けるように消えていく。

 魔力の波動が薄れ、凍てついた空気が元に戻る。


 トリアは両手で顔を覆った。震える指の間から、熱い涙が零れ落ちる。


 「強く…ならなきゃ」

 かすれた声で呟く。

 「このままじゃ…みんなを、守れないよ…」


 街灯の明かりが揺れる。

 トリアの心に、これまでにない決意が芽生え始めていた。

 仲間を守るため、自分はもっと強くならなければ。


 その胸の奥で、まだ眠りについたままの力が、エステルの呼びかけにかすかに反応していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る