第2章②:待ち伏せと邂逅

 夜の闇に包まれた倉庫街の一角。

 チームBE-COOLのメンバーは、古びた倉庫の影にやってきた。

 辺りは塩とディーゼルの匂いが立ち込め、昼間の活気あふれる港の名残が漂っていた。


 「ここが取引現場か?」ハロルドが呟く。

 見えるのは空っぽの荷揚げ場と忘れ去られた貨物だけだった。


 トリアは緊張した面持ちで周囲を見回し「誰もいないみたいだね」と不安げに答えた。

 しかし言葉とはうらはらに、ハンチング帽とフロックコートの衣装の組み合わせが、チーム内で一番のやる気を体現していた。


 クインシーは表向きは自信たっぷりの笑みを浮かべ、クラブ用の高級革靴で水溜まりに突っ込んだ。

 そして「大丈夫さ、きっと俺たちが一番乗りなんだよ」としかめっ面で嘯いた。「たぶん」


 一方、チームNexusのメンバーはわずか50メートル離れた倉庫の陰に身を潜める。

 ロイの愛車「STORMBRINGERストームブリンガー」――カスタマイズされたポルシェ911 GT3 R――は即座に出動できるよう準備されていた。


 ロイは低い声で指示を出した。

 「ニコラス、北側をチェックしろ。ユージーン、通信は大丈夫か?」


 ニコラスは無言で頷き、すぐさま行動に移る。

 が、無防備な3人組の姿を見つけて唖然とした。

 「…見物人だな。素人のガキが3人、探偵ごっこでもしてるのか?」


 ユージーンは暗視スコープのサーマルイメージを確認した。

 「思わぬお客様だ。彼らがどう動くかわからない、作戦の続行は危険だ」


 だがその瞬間、暗闇の中でエンジンの咆哮が響いた。

 ヘッドライトが夜を切り裂き、黒光りするメルセデスAMG GTが姿を現す。


 メルセデスから3人の男が降り立つ。

 明らかに訓練されたプロだった。


 「ターゲット確認」

 ニコラスが低い声で報告するが、彼らもまたチームBE-COOLの姿を目撃した。

 そしてホルスターの銃に手をかける。


 「チッ!そうはさせるか!」

 ロイが飛び出す。


 ターゲットたちは一瞬眉を上げたが、すぐにメルセデスに飛び乗った。

 メルセデスのエンジンが轟音を上げ、タイヤがアスファルトを悲鳴のような音で削りながら加速した。


 ロイとニコラスはすでに動き出し、スムーズな動作でSTORMBRINGERに乗り込んだ。

 カスタムされた高性能エンジンが咆哮のような音を立てて目覚める。


 BE-COOLの3人もようやく事態に気がついた。

 「あっ、あいつら行っちまうぞ!」


 ハロルドはトリアの腕をつかみ、自分たちの車――中古のカローラ――に向かった。

 「クインシー、急げ!」


 「落ち着けハロルド、俺に任せろ。これでもドライビングテクニックにはちょっと自信があるんだぜ」

 「マリオカートのだろ!」

 カローラのギアが悲鳴を上げる音を聞きながら、ハロルドが怒鳴った。


 ロイは驚くほどの精密さと大胆さを兼ね備えたテクニックでSTORMBRINGERを操り、メルセデスとの距離を縮めていった。

 カーナビからユージーンの声が響く。


 「ターゲットは湾岸道を北東へ進行中。交通量は少なめ。400メートル先で迎撃可能」


 一方、チーム「BE-COOL」のカローラの中ではクインシーがハンドルと格闘しており、後部座席のトリアは安全ベルトにしがみついて青ざめていた。


 「左だ!左に曲がれ!」ハロルドが怒鳴る。

 「分かってる!」クインシーが叫び返すが、その手は白くなるほどハンドルを握りしめていた。

 危うく縁石にぶつかりそうになり、トリアが悲鳴を上げる。


 夜はまだ終わらない。両チームにとって、本当の試練はこれからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る