第1章⑧:チーム「BE-COOL」結成

 閉店間際のVelforia。

 先ほどの騒動で客のほとんどが帰った後のフロアは、どこか寂しげな空気に包まれていた。


 清掃スタッフが散乱したグラスの破片を片付けている横で、三人はVelforiaの支配人に感謝されていた。


 「本当に助かりました」

 支配人は深々と頭を下げる。

 「あなた方のおかげで、被害が最小限で済んだ」


 クインシーは得意げに胸を張る。

 その表情には、どこか企みめいたものが潜んでいた。


 「照れるなぁ。でも俺たちのチームワーク凄かったよね?ハロルド、お前とならいい相棒になれそうだぜ」


 「いや、たまたまだよ」

 ハロルドは照れくさそうに頭をかく。


 しかし、その表情には微かな自信も窺えた。

 工房での作業とは違う領域で、自分の判断力が役立ったという事実が、ハロルドの中で新しい自信となったのだ。


 「たまたまじゃないわ」トリアが優しく微笑む。

 「ハロルドって、本当に困ってる人を見ると、黙ってられないタイプでしょ?」


 「そう!それだ!」

 クインシーが突然、大きな声を上げる。

 「それだよ、トリア!」


 「え?」

 ハロルドとトリアが同時に首を傾げる。

 フロアの照明が暗くなり始め、掃除スタッフの姿も見えなくなっていた。


 「俺たち、このコンビネーションを活かさない手はないよね?」


 クインシーの目が輝きを増す。


 「ハロルドの冷静な判断力と俺のアクション。これって正義の味方にピッタリじゃない?」


 「は?正義の味方?」

 ハロルドは半ば呆れたように言う。

 「お前、歳幾つだよ」


 「いいじゃん!」

 クインシーは二人の反応も気にせず、勢いよく続ける。


 「今日から俺たち三人で、チームBE-COOLビー・クールの結成!」

 「BE-COOL?」


 トリアが困惑した表情で繰り返す。

 その響きは、どこか子供っぽくも聞こえた。


 「そう!常にクールであれ!BE-COOL!」

 クインシーは得意げに説明する。

 「かっこいいだろ?このネーミングセンス!」


 「はあ?」

 ハロルドは開いた口が塞がらない。

 「お前、本気でそれかっこいいと思ってんの?」


 「もう、ハロルドったら」

 トリアが思わず吹き出す。

 「でも、なんだか楽しそうじゃない?」


 「トリア、お前まで…」

 ハロルドは溜め息をつこうとしたが、どこか楽しそうな表情を隠せない。


 「よーし、決まりだな!」

 クインシーは二人の反応を肯定的に解釈したようだ。


 「これからは俺たちBE-COOLで、この街の平和を守るぞ!」


 真夜中のVelforiaに、クインシーの声が響く。

 ハロルドとトリアは呆れながらも、なぜか微笑んでいた。


 半ば強引に、しかし不思議と自然な形で、三人の新しい活動が始まった。

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