第1章④:初めてのクラブ体験
ネオンの光が夜を切り裂き、通りに溢れるリズムがビートを刻む。
人々のざわめきが交じり合い、街全体が巨大なスピーカーのようだ。
ハロルドとトリアは、活気に満ちた通りを不安げな足取りで進んでいた。
「ここ…だよな?」
ハロルドが地図を見ながら呟く。
二人の前に現れたのは、「Velforia」と書かれたセルリアンブルーの大きな看板が目立つ建物だった。
壁全体を覆うLEDスクリーンには、流れるような幾何学模様が絶え間なく映し出されている。
重低音が建物の中から漏れ、まるで大地そのものが脈打っているように、地面を震わせていた。
「私たち、なんだか場違いな感じがするけど…」
トリアが心細そうに呟く。
周囲には、派手な服装に身を包んだ若者たちが列を作っていた。
煌びやかなドレス、ハイヒール、きらめくアクセサリー。
一方、ハロルドとトリアは質素な服装のせいで逆に目立っていた。
二人とも、居心地の悪さを隠せない。
「でも招待状があるから、大丈夫…なはず」
ハロルドはポケットから招待状を取り出し、自分に言い聞かせるように呟いた。
入り口のセキュリティは、一瞬二人を値踏みするような目で見たが、何も言わず招待状をスキャンした。
「通って」
そっけない声と共に、扉が開く。
中に入った瞬間、轟音と熱気が二人を包み込んだ。
レーザーライトが空間を切り裂き、巨大なスピーカーから放たれる重低音が心臓にまで響く。
フロアでは、若者たちが音楽に合わせて激しく踊る熱狂的な光景が広がっていた。
照明が刻一刻と変化し、空間を渦巻くような動きに包み込む。
ストロボが光るたびに、踊る人々の表情が一瞬だけ浮かび上がる。
群衆の動きは波のようで、激しくステップを踏むたびに、汗ばんだ肌が光を反射して弾ける。
空気は湿り気を帯び、熱が肌にまとわりつく。
人々の熱気が混ざり合い、息苦しいほどのエネルギーがあたりに満ちている。
「ハロルド…!なんだか暑いよ…」
トリアが声を上げるが、音楽にかき消されてしまう。
バーカウンターでは、華やかな服装の男女がカラフルな飲み物を片手に談笑し、スマートフォンで自撮りを楽しんでいる。
フロアの端にはVIPエリアへの階段があり、黒服のセキュリティが鋭い目で監視している。
そこを上がっていく、ブランドのスーツや煌びやかなドレス姿の人々が目を引いた。
ゴールドのロープで仕切られたVIPエリアには、シャンパンの泡が揺れる高級グラスを手にした人々が、非日常的な世界を作り上げていた。
「なんか、すごい場所だね…」
トリアが壁際で息を整えながら呟く。
「喉が乾いたな。せっかく来たんだから、何か飲もうか」
意を決して、二人はバーカウンターに向かった。
カウンターに立つバーテンダーは、二人のぎこちなさを見て、何も聞かずに微かに笑った。
「お待ちください」
彼はフルーツジュースとシロップを使い、鮮やかな色合いのドリンクを手際よく作り出した。
「こちら、ノンアルコールのトロピカルカクテルです」
そう言って二人に差し出された飲み物は、鮮やかなオレンジと赤が層を成し、グラスの縁にはパイナップルの飾りが添えられていた。
「これ…お酒じゃないんですよね?」
トリアが首を傾げると、バーテンダーは軽く頷いた。
「お客様にはこちらの方がいいでしょう」
二人はそのプロフェッショナルな対応に少し安心しながら、カラフルなドリンクを受け取った。
「美味しい…!お酒みたいだけど、これってジュースだよね」
トリアが笑顔で言うと、ハロルドも一口飲んで頷いた。
「クラブの飲み物って、こんな感じなのかな?」
彼の言葉に、二人は顔を見合わせて笑った。
しばらくして、二人はカウンターを離れ、人混みを縫うようにフロアの奥へ進んだ。
「こういう場所、意外と楽しいかも」
そう言ってトリアはハロルドに笑いかける。
初めてのクラブ体験はまだ戸惑いに満ちていたが、少しずつ二人の緊張もほぐれていった。
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