第1章③:トリアの同行

 孤児院は朝を迎えようとしていた。

 質素ながら清潔に保たれたこの施設は、マキシマス夫妻の献身的な運営により、現在では数十人の子供たちの家となっている。


 ハロルドは疲れた足取りで自分の住む棟に戻ってきた。

 夜通しの作業で体は重く、頭の中では招待状の文面が繰り返し響いている。


 階段を上がり、二階の廊下を曲がろうとした時、パタパタという足音と共に、愛らしい声が聞こえた。


 「あれ、ハロルド? こんな朝早くからどうしたの?」


 トリアが寝ぼけ眼で立っていた。

 薄いピンク色のパジャマ姿で、長い髪は寝癖で少し乱れている。

 彼女は小さな欠伸を漏らしながら、不思議そうにハロルドを見つめた。


 「あ、トリア。ちょうどよかった。ちょっと話があるんだ」


 ハロルドは少し言葉を躊躇う。

 トリアとは幼い頃からずっと一緒に育ってきた。

 ハロルドは彼女を実の妹のように思っており、危険な話に巻き込むことには躊躇いがあった。


 しかし、この好奇心を刺激する話をトリアに打ち明けられずにはいられなかった。

 二人は廊下の窓辺に腰掛けた。朝日が二人の横顔を優しく照らしていた。


 ハロルドが昨夜の出来事を説明し始めると、トリアの表情が徐々に変化していく。

 眠そうだった瞳は次第に真剣さを帯び、警戒の色が浮かんできた。


 「ちょっと…それって危ないんじゃないの?」

 トリアの声は明らかに心配そうだった。


 「確かに銃の改造依頼自体は珍しくないだろうけど、でも今回のは違うよ。深夜に来た謎の依頼者に、見たことのない特殊な技術って…それに怪しい招待状まで。全部普通じゃないよ、ハロルド」


 「わかってる」

 ハロルドは静かに頷く。

 「でも、行ってみたいんだ」


 彼は窓の外を見つめながら続けた。


 「あの改造銃の技術水準は、普通じゃない。その正体を知りたい。そしてその世界がどんなところなのか、俺の腕が本当に通用するのか、この目で確かめたい」


 ハロルドの瞳には強い期待と好奇心が宿っていた。

 トリアはその表情をじっと見つめ、しばらく考え込んだ。

 朝日が少しずつ高度を増し、廊下に差し込む光が眩しくなっていく。


 「もう、ハロルドってば。いつもそうなんだから」

 やがてトリアは深いため息をついた。


 「面白そうな技術だって聞いたら、すぐに飛びついちゃう。本当に危なっかしい」


 その表情には、兄のように慕うハロルドを、危険な場所に一人では行かせないという強い意志が浮かんでいた。


 「わかったわ。でも条件がある」

 彼女は真剣な眼差しでハロルドを見た。


 「私も一緒に連れて行って。誰かがあなたの背中を守らなきゃ、でしょ?」


 それから、彼女は少し声を落として付け加えた。


 「それにハロルドのことが心配なの。こういうとき、一人だと絶対に深入りしすぎちゃうんだもん」


 その言葉に、ハロルドは一瞬言葉を失った。

 しかしすぐに、優しい笑顔が彼の表情を満たす。

 幼い頃からいつも互いを気遣い、支え合ってきた。

 いまこの瞬間も、そんな二人の絆を感じた。


 「ありがとう、トリア。じゃあ、一緒に行こう」


 朝日が二人を包み込むように輝いていた。

 階下からは、他の子供たちが目覚め始める気配が聞こえ始めていた。

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