笹垣紗季
ただ進むだけではない。上に登らなくてはならない。運動は得意なつもりだったが、それでも体力がいるし、神経も使う。
さらに、動くたびにダクトの薄い金属板がベコンベコンと音が鳴った。小学生一人を支えられるだけの頑丈さがあるものかどうかも疑問だ。
それでも、先へ進む。やがて、上に進むダクトが前方へ進路を変えた。
ようやく着いたんだ。
ガチャっガチャガチャ
渡されていた道具を使ってダクトの出口を開く。そうして、ようやく、部屋の中に入ることができた。
そして、それは目の前にあった。金庫だ。
「これさえ、これさえあれば……」
樹梨花は吸い寄せられるように金庫に向かっていく。ダクトを登るのに使った軍手をしまい、真新しい手袋を嵌めた。そして、言われたとおりに、ダイヤルを回す。
「
なんだか、変な連想をしてしまう。たまたま、クラスメイトの名前と似た番号なのだろう。そもそも、数字を当てはめること自体に無理があるし。
妙な妄想を抑えて続きのダイヤルを回す。
「
どうして、こんな数字で、あんな子の名前を連想してしまうのか。
いや、こんなのは妄想に過ぎない。
カチャリパカッ
金庫が開いた。そこにはギッシリと詰まった現金がある。
気がついたら、札束を手にしていた。パラパラとめくる。確かに現金だった。
夢中になり、その金を背負っていたリュックサックに詰め、それさえじれったくなり、自分のポケットにも現金を入れる。
パッ
急に部屋が明るくなった。電灯がついた。
「へっ?」
間抜けな声を上げる。
焦る。這いつくばるように部屋の隅に向かいつつ、隠れる場所を探した。
そんなことをしても無駄だということに気づけない。心臓がバクバクと動き、ただ逃げようということしか考えられなかった。
男の声がする。
「現金ってぇのはよ、魔力があるんだよなぁ。こうやって、小蠅を引き寄せるくらいにはなぁ。そんでよぉ、小蠅ってのはもっと大きな獲物を引き寄せるんだ」
まぶしい。けれど、次第に目が慣れてくる。
樹梨花は目の前は部屋に入ってきた男を見た。スーツをビシッと着こなす、威厳のある壮年の男性。その顔は見知ったものだ。
思い出す。男の名前は――。
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