タロットカード
「あっ」
ロバの姿をした悪魔、サミジナがにやにやと笑っている。太った蛇のような悪魔、ヨナルデパズトーリもニタニタ笑いをしていた。
それを見ながら、俺は地獄から抜け出すことを考えていなかったことに思い至る。
「おい、どうする、紗季?」
情けないが、紗季に頼ることしかできない。
そう言うと、紗季は深々とため息をついた。さすがにこれは呆れられても仕方ないか。
「お前は地獄を抜け出した経験があるはずでしょ。何を言ってるんだか」
心底呆れたような物言いだ。
そんなことを言われても俺にはそんな記憶もないし、実感もない。
「しょうがないのね。でも、手筈はもうできているのよ」
そういうと、地面に魔法陣を描き、呪文を唱える。すると、魔法陣の中心に石が現れる。
ただ、この石は何の変哲もない、どこにでもあるもののように見える。
「これでどうするんだ?」
俺が尋ねると、空間が捻じれるような感覚に襲われる。これは召喚されているのか。
「これは本当にただの石。目印よ。これを私が召喚した時、地上で待っているオノスケリスが私たちを召喚することになっていたの」
なんと、そんな取り決めが……。言ってくれればいいのに。
しかし、これなら問題ない。俺たちは瞬く間に地上へと戻る。
「あらぁ、そんな手を使うんだ。あの子、人間なのに手段を択ばないねぇ」
サミジナの悔しがるような、面白がるような声が聞こえてきた。
◇ ◇ ◇
地上に戻ると、紗季は青白い顔になり、真っ先に洞窟の隅へと向かっていった。なにやら、
「なんだ、どうして急に体調悪くしたんだ?」
俺が疑問を口にすると、オノスケリスがニタニタと笑う。そして、ニタニタ笑いのまま、こう言った。
「悪魔でもないのに召喚なんてされたら、ああなるんですぅ。あははっ、私、あの子がどれだけのたうち回るか、楽しみに呼んだんですよぉ」
なんて性格の悪い。こいつ、本当に人間か。いや、悪魔だった。
しばらくして、紗季が戻ると、青いシルクの布を広げる。その上にカードを展開した。
これはタロットカードか。だが、その絵に描いてあるのは見知った絵柄ではない、独特なものだった。どのカードにクリーチャーが描かれているのだ。
「オラクル!」
そう言って、カードをめくる。
一枚目は太陽のカードだった。その顔は陰陽を現しているようだったが、その光線は粘液のような触手のような不気味な動きを持っている。
「これは調べたとおりね。標的の悪魔はねちっこくてしつこいけど、公正な取引を望むやつね。悪魔の公正なんてたかが知れてるけど」
二枚目は悪魔のカード。下を向いている。逆位置というやつだな。大仰な悪魔というよりは小悪魔というべきデザイン。歯を剥き出しにして挑発するようなポーズをとっている。
「暴力の暗示。それがまかりとおる場所……」
三枚目は塔のカード。塔というより巨大な壁に見えた。そこには悶え苦しむ顔が浮かんでいる。
「最悪のカードね。でも、これで向かうべき場所はわかった。行くよ」
そう言うと、紗季は立ち上がり、タロットカードをしまう。
「え? え?」と俺は戸惑うが、走り始めた紗季についていくしかなかった。
洞窟から外に出る。気がつけばもう夕方。地獄に行っている間に一日が終わろうとしている。
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