地獄へと続く空洞

 気がつくと、俺の視界は複眼から離れている。

 紗季とオノスケリスのいる洞窟の中へと戻っていた。


 ん? 洞窟? なんで、こんなところにいるんだろう。


「やっと把握できたのね。まあ、いいけど。それで、なにがわかったか、教えてくれない?」


 紗季が冷ややかな視線を俺に送ってくる。

 しかし、その質問には答えにくかった。


「なんていうのかな、見たよ。

 リーダーは東雲しののめ雛菊ひなぎくって地雷女子だ。ははっ、オノスケリスとキャラ被ってるかもね」


 とりあえず、話しやすいことを言う。東雲のことは目の前の二人には関係ないから喋りやすい。


「かちーん。あの、心外なんですけどぉ。あんな人間とキャラ被りなんて……」


 意外にもオノスケリスは俺の物言いに腹を立てているようだった。関係ないと思っていたが、ここで因縁を作ってしまったのかもしれない。

 というか、オノスケリスは東雲の存在を知っていたようにも思う。


「ふーん、それだけ?」


 紗季が冷めたような言葉を浴びせてくる。その刺すような視線に俺は言葉を詰まらせる。


「あ、あとさ、桐里きりさと樹梨花きりかって子がいたよ。もしかして、紗季は知ってるかな」


 知ってるかな、じゃない。確実に知っている。俺はそれがわかっている。

 だというのに、胡麻化すような物言いをしてしまった。


「樹梨花……。そう、あの子ね。ありがとう、いい情報よ」


 紗季が返事をする。けれど、その意図するところは読めない。

 以前に、紗季は彼女たちいじめの犯人をも救いたいと言っていた。それは本心なのだろうか。

 もう一度、紗季の表情を窺うが、その真意を読み取ることはできない。


「それで、悪魔は? どんな悪魔が関わっていたの?」


 紗季が尋ねてくる。これには本当に言葉に詰まった。何も知らないのだ。


「そ、それは……わからない。あの東雲って子が悪魔って線は?」


 言葉に詰まり、とりあえずの予想を口に出した。

 すると、紗季は深々とため息をつく。


「そんなわけないでしょ。その子はただの俗物よ。

 ただ、彼女のバックについているのは悪魔。その正体を見極めなくちゃいけない」


 正論が返ってきた。これにはぐうの音も出ない。

 けれど、この口ぶりだと紗季には手があるのだろうか。


「なあ、何をするつもりなんだ。まさか、この場所、この洞窟が関係あるのかな?」


 そう質問すると、紗季はにっこりと、けれど、俺を見下したような目つきで言葉を返した。


「珍しくいい質問じゃない。そうよ、お前たちをこの場所に呼び出したのは意味があるの」


 俺が周囲を見渡していると、紗季はその奥を指し示した。


「悪魔のことがそう簡単にわかるとは思ってない。でも、確実にわかる方法ならある。この空洞は地獄に続いている。地獄の悪魔たちに直接聞きましょう」


 そう言われてその先を見ると、底知れない闇へとつながっている、そんな気がしてくる。おどろおどろしい気配がびんびんに伝わってくるのだ。

 俺たちは地獄に向かって歩きだしていた。

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