地雷女子・東雲雛菊
俺の複眼が遠い場所、今ではない時間を映していた。
レストランで女の子たちがペチャクチャとお喋りをしている。俺もあまり行かないちょっと高めのレストランだった。
テーブルにはステーキやサラダ、クラブハウスサンドなど、ちょっと高めのレストランの中でも、まあまあ高めの料理が並んでいる。サラダもちょっといいサラダだ。
その中心にいるのは、オノスケリスと同様に、地雷系ファッションの女子だった。前髪をパッツンにしてロングの黒髪がなびく。ただ、アクセントなのか、ピンク色のメッシュがところどころに入っていた。下唇に嵌められたピアスが印象的だ。
その表情は自信に溢れていて、そのせいか、ほかの女子たちよりもカリスマを持っているように見える。
「みんな、遠慮しなくていいからね。ここは私が奢るから」
そう言って、にこりと笑った。
彼女のカリスマは、彼女自身ではなく、彼女の金銭から溢れ出ているものなのだろうか。お金を持っているから自信に満ちているのだろうか。
周囲の女子たちは次々に彼女へのお礼と称賛を浴びせる。正直、俺には全員似たように見えた。ゴシック系のファッションの女の子たちだ。
「
「
名前が聞こえてきた。この地雷女子の名前は東雲雛菊なのだろう。
そんな時だ。レストランに二人の女の子が入ってきた。二人はまっすぐに東雲たちのグループに近寄ってくる。
「すみません、遅れました。それにごめんなさい、妹を振り切れなくて、付いて来ちゃったんです」
二人の女の子には年齢差があった。一人は高校生かそれより少し上くらい。もう一人はそれよりも幼い。小学生だろうか。
「あはは、いいよいいよ。それよりさ、私たちに協力してくれるっての本当よね」
東雲が鷹揚な笑顔を見せ、その中にプレッシャーのある言葉を含ませる。
これは断りにくくさせる作戦でもあるのだろう。
「あ、はい、もちろん。けど、あの、妹もいるんで、あまり無茶な……あの、売りとか、そういうのは……」
女子高生がそう言うと、東雲は笑った。
「はははっ、心配しないでも、そんなのやらないよ。
私たちがやってるのは親切な人がお金を払ってくれるのを仲介するだけ。バックには確かな組織があるの。だから、安全にお金を稼げるのよ」
そう言う東雲を女子高生は見つめる。
いや、見ているのは東雲本人ではない。
彼女の持つブランドもののバッグ、仕立ての良く素材のしっかりした衣服。それに着飾った貴金属や宝石の数々。女子高生を魅入らせたのは金の匂いだった。
持ち物だけじゃない。東雲の通った鼻筋、二重の瞼、目の大きさを強調する涙袋、それに豊かなバスト。そのどれもが整形手術によるものに思える。それにどれだけの金額がかかることか。
「お姉ちゃん……」
女子小学生が姉に対して、不安げな視線を送っている。それに対し、女子高生は苛立った視線を送り、黙らせようとした。
だが、東雲が小学生に興味を抱く。
「ふふ、可愛い。ねえ、この子、何ていうの?
こういう子にもいい仕事があるのよ」
女子小学生の名前を聞く。おずおずとした様子で、女子小学生は答えた。
「わ、私は
その名前を聞いた時、俺はハッとする。
この桐里という小学生には見覚えがあった。
以前に複眼で桐里の姿を見たことがある。
それは紗季のランドセルに傷をつけ、罵詈雑言を書き込んだクラスメイトの一人だった。それもその主犯格、リーダーとして、子供たちを煽っていた女の子だ。
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