野良悪魔

「おいおい、今日もサボってるのか。昨日、今日は学校行くって言ったじゃん」


 笹垣ささがき紗季さきに召喚された俺は周囲の様子を眺めつつ、そうボヤいた。

 場所はどこかの洞窟の中のようだ。周囲が土の壁で覆われている。


 紗季は魔力の籠ったリボンを首に巻き、水色のチェックがかかったポンチョを纏っている。その下には白いニットのセーターと黒いスカートを着ていた。

 相変わらず、靴下は赤と白の縞々。髪型はウェーブのかかったツインテール。


 そこで、ふと気づいた。


「あ、もしかして、紗季もコピーロボット使ってる?

 昨日さ、俺にも使ってくれたろ」


 それに対し、意味がわからないという風で「はあ?」と返事される。

 そうか。紗季はパーマンがわからないのか。世代が違うというやつだ。


「えーとさ、藤子不二雄のアニメでさ、小学生がスーパーマンになるヘルメットとマントがあって……、あ。スーパーマンって言っちゃダメなんだっけ」


 説明しようと思ったが、まるでまとまらなかった。説明下手過ぎか。

 前提の説明に躓いてしまって、コピーロボットの話ができない。


「だから、何の話なの。あのねえ、私が召喚したのは野良の悪魔がいるって情報があったからよ。出てきて、オノスケリス」


 紗季がそう言うと、彼女の後ろからひょっこりとモノトーンのゴシック調の衣装に身を包んだ地雷女子が現れる。オノスケリスが紗季の背後に隠れていたのか。そんな小さくないのにどうやって。

 ……いや、こいつは悪魔だ。気にしてもしょうがない。


 というか、野良の悪魔ってなんだ。悪魔って野生動物みたいなもんなのか。


「あ、えと、何て呼べばいいのかなぁ、旺太郎様……でしたっけ」


 おずおずとした様子でオノスケリスが話しかけてくる。

 というか、俺は様呼びされるようなもんなのか。正直、胡散臭いものを感じてしまう。


「俺のことは旺太郎でいいから。もともと知り合いなんだっけ? 悪いけど、覚えてないんだよ、すまんね」


 そう言うと、オノスケリスは不審げな表情を浮かべた。だが、すぐに取り繕ったような笑顔を浮かべる。


「あははっ、変なの。まあ、いいかなぁ。

 どうもですねぇ、この辺りに野良の悪魔がいるようなんですよぉ。悪魔王女の縄張りだってのにねぇ。だから、とっ捕まえて、踏ん縛ってはどうでしょうって、悪魔王女に進言したんですよぉ」


 ふわふわした口調だが、その物言いは物騒だ。縄張りなんてあんのか?

 しかし、なんで野良悪魔がいると判断したのかわからなかった。


「それってどうやってわかったの? やっぱり魔力を感じたとか?」


 俺が尋ねると、オノスケリスはけたけたと笑う。


「あはははーっ、魔力を感じるって何? それ、なんかのギャグですかぁ。笑えばいいのかなぁ。あはっ。

 一応言っておくと、聞き込みをがんばったから気づいたことなんですよぉ。人間に不可能な犯罪が行われてるかどうかなんて、ちょっと聞き耳立ててればわかるんですから」


 意外と地道な調査をしているようだった。

 オノスケリスはそんなことまでして紗季に仕えているというのか。意外というか、苦労人というか、案外、俺は結構楽なポジションなのだろうか。


「わかった? 私たちは悪魔を見つけて、その企みを暴かなきゃならないのよ」


 紗季が言う。

 だが、それだけでは俺にはよくわからない。


「いやいや、待てよ。それだけじゃ何もわからない。その野良の悪魔ってやつは何をやってるんだよ。教えてくれ」


 俺がそう言うと、紗季はため息をついた。そして、見下すような視線を送り、うんざりするような口調で言う。


「お前はもう見ているはずよ。その目は見透かす目。そうじゃないの?」


 その言葉を受けて、俺はまた複眼によって、時間と距離を超えた視界を得ていた。

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