第3話 地獄の三大派閥

肉巻きおにぎり

 昨日はすっかり仕事をサボってしまった。

 俺は恐る恐る出社する。しかし、誰も俺のことなんか気にしている様子がない。


 総務の女の子の前を過ぎ、タイムカードを押す。昨日の日付を見ると、退社の押印がなされていた。サービス残業を4時間。いつも通りの退社時間だった。

 誰かが代わりに押してくれたのか? それとも間違えて押してしまった人がいるんだろうか。

 なんにせよ、ラッキーだな。ひとまず事務処理については考えなくていいのかもしれない。怒られたら、その時に考えよう。


 自分の席につく。PCを起ち上げて、仕事の進捗を確認した。

 あれ? なんか終わっているぞ。


「あのさ、ここのやつだけどさ、誰かやってくれたのかな?」


 隣の席の女子社員に尋ねた。質問した内容に関しては、彼女と共有した作業している部分がある。

 すると、女子社員は怪訝な表情をした。


「それだったら、大炊さんが自分でやってたじゃないですか」


 どうやら、自分でやっていたらしい。少なくとも、そう思われている。


 はてと考えた。

 そういえば昨日、紗季はサボりなんて気にしなくていいと言っていたな。

 これは紗季がコピーロボット的なものを作って、上手いこと仕事を終わらせてくれたんだろうか。たぶん、そうだ。


 やれ、安心した。落ち着くと、ふと思い出した。

 会社に来るまでの道すがらで食べ物を買っていたんだった。肉巻きおにぎりだ。宮崎料理の店があり、その店先でお弁当なんかと一緒に売っている。

 今日は昨日の分の仕事までしなくちゃいけいないと焦り、どうせ昼飯に行く暇もないだろうと思ったので、買ってきたのだった。


「おう、大炊おおい旺太郎おうたろう。美味そうなもの持ってるじゃないか」


 背後から声がした。郷間ごうま乂摩かるまさんだった。

 朝から聞きたくない声だ。

 見ると、郷間さんだけでなく、隣の女子社員も俺の肉巻きおにぎりを見つめている。


「それ、美味しそう。お肉が海苔の代わりになってるんですね。どんな味なんですか? 食べてみたいです!」


 そんなに美味そうかな。二人の様子を見ていると、なんだか自分で食べる気がなくなってきた。

 肉巻きおにぎりはちょうど二つだ。それを二人に差し出した。


「食べます?」


 すると、二人は受け取る。


「気が利くじゃないか」

「ありがとござます!」


 むしゃむしゃと肉巻きおにぎりを食べた。渡した直後にその場で食べている。

 二人とも腹が減っていたのだろうか。それとも、肉巻きおにぎりがそんなに食欲をそそるのか。


 肉巻きおにぎりなんて言っても、表面を焼き肉が巻き付いているだけだ。それも冷たくなっているし、美味いっちゃ美味いがそこまでじゃないだろう。それに肉よりもご飯のほうが多いから、ぶっちゃけ、すぐに微妙な感じになる。

 だというのに、二人は一心不乱に食べているのだ。変な人たちだな。


 そう思っていると、急に視界が歪み始めた。いや、俺自身が揺らいでいるのだ。

 これは召喚か。こんな朝っぱらから? 俺はやれやれという気分を持ちながらも、次元を超えていた。

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