第31話 相性のいい二人

途中からエモニ視点に変わります。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「とりあえず、帰ろうか……」


 音もなく姿を消したアインにはもうどうすることもできなくなったため、ミリアにそう告げる。


「そうね……帰りましょう。……いや、やっぱり待ちなさい」


 ん?なんだかミリアの放つ威圧感が……


「その刀、なにかしら?」


「え、えーっとちょっと冒険中に見つけたというか……。なあ、ユメ?」


「そうじゃ、ワシとロティスは運命的な出会いを果たし、二人で協力して窮地を乗り越え、普通以上の繋がりを得たのじゃ!」


 ん~?ユメさん?それっぽいこと言ってますけど、それただの挑発……


「運命的?普通以上の繋がり?ねえ、ロティス」

「は、はい」


 ああ、まずいまずい。

 これを一番恐れていたのに……せっかく有耶無耶にできそうだったのに……。

 

「いくら依頼だったとしても、もうダンジョンには行っちゃダメって言ったわよね?」


「はぃ……」


「それにその刀、もしかしなくても魔剣の類よね?中身は女の子かしら?」


 魔剣?……そんなもの絶望勇者にはないんじゃ?


「おお、貴様!魔剣の存在を知っておるのか!まあ、ワシはそこらの魔剣とはレベルが違うがな!」


 ミリアの言葉にユメが自慢げに高笑いをする。


「今はあなたには聞いていないわ。それでロティス。女の子、なのよね?」


「な、なんじゃと!」

 ミリアにすげなくあしらわれたユメが不服そうな声を上げる。

 

 うん。……姿は見たことがないが、この声は女の子っぽい。

 ああ、でもここで認めたら……いや、認めなくてもユメが突然本来の姿に戻ったら……。


 俺がそんなことであたふたとしていると負けじとユメが口を開いた。


「ワシに決まった性別はない!主と認めた者の趣味が反映されるからの!!」


 ………………。


「「は?」」


 いやいやいや、まて、待ってくれ。

 俺にのじゃロリ癖はないぞ!

 ……いや、ユメが言っているのは喋り方のことじゃないのか。

 

「……ロティス?」


 ……ですよねぇ~。俺が理解できてもミリアにはわからないですよね。


「いや、待ってくれミリア。俺はまだユメの姿を見たことがないんだ。そしてこののじゃロリな口調はデフォルトっていうか……元々だったんだ!」


「む?確かにワシの姿を見せていなかったな。では今見せてやろうぞロティス!」


 ユメがそう言うと俺の腰の横で浮いている刀が震えだす。


「え、ユメ!頼む!今は良くないことになりかね……」


 俺の制止も虚しく、刀から強い光が放たれる。

 その光はだんだんと人の形をとっていく。


 姿を現した彼女は、朱色と金の縁取りが目を惹く和服に身を包んだ小柄な少女だった。

 その和服は色の割に派手過ぎず、どこか高貴な雰囲気を漂わせ、自信家な彼女の佇まいに見事にマッチしている。

 袖口からちらりと覗く小さな手を腰に当て、片足を軽く前に出しながら堂々とした態度で立つその姿は、イメージの通り「偉そう」の一言に尽きる。


「どうじゃ!ワシのこの姿は!!」


 小柄な体躯で精一杯に胸を張り、エッヘンと誇らしげに鼻を鳴らす。


 俺は前世でも決してロリ〇ンではなかったが、流石にこれは可愛いと言わざるを得ない。

 小さいころのエモニも可愛かったが、日本人としての感性が和服姿の幼女に大きなプラス評価をつけている。


 だが――


「ロティス?これが……あなたの趣味なの?」


 笑っているのに微塵も笑っていないミリアが、持ち前の圧力をフルに発揮して問い詰めてくる。


「いや、違うよ?」


「む……違うのか?」


 上目遣いで心なしか少し潤んで見える表情のユメ。

 グッ……。

 ユメ、そのあざとさは反則だぞ。


「違わないけど……」


「ふーん?違わないんだ?」


 ミリアはミリアで暴力的な笑顔のまま一切表情を変えずに近づいてくる。

 グフッ。

 ど、どうしろって言うんだよぉぉぉぉ!


 そのまま堂々巡りに陥ってしまい、魔族のことやその他もろもろ考えなければならないことはたくさんあるというのに、そちらを気にしている余裕がまるでない状況になってしまった。


 ◇◇◇エモニ視点


 「あの時の力、あれを使おうとしたら話しかけて来たよね?」


 ミリアさんがものすごい勢いでギルドへと行ってしまった後、追いかけようか私だけでも待っていようかと一人で悩み、結局私は待つことを選んだ。

 それでもやはり気になる物は気になるので、あの時の声に何か話しを聞けないか色々と模索している。


 そう言えば私、あの時どうやってあの力を使ったんだっけ?


「確か……ロティスがあのコントラクターに妨害されて、ハイオークの攻撃を……」


 思い出すだけで、お腹の底にドス黒い感情が湧き上がってくる。

 ゆるさないゆるさないゆるさない……


『おい!』


「!?」


『その力のことは忘れるという約束ではなかったのか?』


 頭に直接響くようなあの声が聞えて私は現実に引き戻される。

 一瞬何故か我を忘れていたが、目的は達成できた。


「あなたに話が聞きたくて」


『そなた、まさかそのためにこの私を謀ったのか?』


「いや、謀るとかそんな……。でもこの際なんでもいいんです!ロティスは、今ロティスがどこにいるのか教えてくれませんか!!」


『……それをそなたが知ってどうなる?もしあの子がどこか遠方に居たとしたらそなたはそれを知っても何もできないのではないか?』


「それは……そうかもしれないけれど……。でも!私にとってロティスは何よりも大事なんです!常に居場所を把握しておきたい、そこで何をしているのか知りたい、いや、ロティスのすべてを私は知っていたいんです!」


 自分の中にある思いを全てぶちまける。


『そなた……。それは……ただ、そなたの欲ではないのか?』


 声の主がなぜか引いている。

 どうしてだろう?

 

「でもみんなそうでしょ!好きな人のことは全部知っていたいし、知らないことがあると不安になるでしょ!!」

 

『そ、そう言うものなのか?』


「そうだよ!!!しかもここ三日も会ってないんだよ!男子三日会わざれば刮目してみよって言うじゃないですか!でも私はその三日で変わってしまう様子が分からないのが苦しいんです!だから早く、少しでも早く会いたいんです!それに私と同じだけの愛をロティスに向けている人がもう一人いて、その人は本当に単身で何の情報がなくてもロティスを探しに行っちゃうような人なんです!その人のためにもどうか!教えてください!」


(この娘……いや、言うまい)


『分かった分かった。だが、どうして私があの子の居場所を知っていると思った?』


「知らないんですか?」


 自分でもびっくりするほど低い声が出た。


『!知っている、知っているからその気を収めよ!……どうやら今はギルドに居るようだ。良かったな戻ってきている様だぞ』


「そ、そうですか……良かった。」


『では、私はそろそろ戻る。いいか?くれぐれもあの力を使おうとするなよ!今後は呼べばなるべく応じてやるから』


「ありがとうございます!でも、もう一個だけ。いいですか?」


 なんだか、この声の人の調子が変わった気がする。

 前からこうだったっけ?


『そなた……なかなか肝が据わっているな。まあ良い。申してみよ』


「ロティスが今までどこに居たのか。教えてもらえませんか?」


『それは……あの子に直接聞くと言い』


「そうですか……分かりました。それではまた呼びますね!」


『私の立場が……、まあいいだろう。だが絶対に応えられるとは限らないからな?』


「はい!」


(これ以上この娘と話していると飲み込まれかねん。なんなんだこの娘は……あの子も苦労するな。そういえば、これと同じだけの感情をあの子に向けるものがもう一人おると言っておったな……)


 エモニに話しかける声の主はロティスの胃が心配になった。


 ◇◇◇


「へくしょんっ!」


 ギルドからの帰り道。

 なぜか両腕をがっちりとホールドされながら歩いていると大きなくしゃみが出た。


「ロティス?大丈夫?小さい子の相手は疲れるわよね」


「なっ!誰が小さい子じゃ!!ワシは長きを生きる高名な夢幻刀かげ……」


「あ~はいはい。いいからいいから。大丈夫だよ。きっと誰かが俺の噂をしてるんだ」


「むぅ……ワシの扱いが雑ではないか?」


「ごめんって。でも俺は二人に仲良くして欲しいからさ」


「「それは了承できないかも/できぬ!」」


 なんでぇ……。

 フンっと二人で顔を反対側に向け合うミリアとユメ。

 息ぴったりじゃんと思ったが、口には出さないでおいた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


描写が長くなりすぎると思って割愛しましたが、ユメは黒髪で目は金色のイメージです。


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