第29話 ロティス帰還

「なあ、ユメ」


「なんじゃ、ナル」


 視界の悪い森の中、傍から見れば一人で何かと話しているおかしなやつに見えるだろうこの状況。

 だが、俺の思考はそんなことを気にしていられるほどの容量はなかった。


「もうすぐ森を出て、街なんだけど俺があの6階層に居てどのくらい経ってる?」


「む?分かっておらなかったのか?そうじゃな……さしずめ3日程度と言ったところかの」


 やはり、ユメと話し込みすぎていたようだ。

 空刃を使ってからは最速でここまで来たが3日。

 ……と言うことは本格的にミリアとエモニがまずいことになっている可能性が高い。


「ユメは姿を変えられるんだよな?」


「無論じゃ。今のように姿を消すことも一度見たものにであれば姿を変えることもできるぞ」


 よしっ!ユメほどの力で変えた姿ならバレないだろうし……。


「じゃあ、ロティスの姿になってくれ!」


「む?なぜじゃ?」


「いや、まあ……ほら!俺って姿が二つあるけど実際は一人だろ?でもそれがバレるとまずいんだよ。な?」


「ううむ……まあ、よかろう。ワシも自分の足で歩いてみたいしの」


 ほっ……よかった。

 あとはナルの姿でミリアとエモニに直接会わなければ、問題はないだろう。


 ◇◇◇


「で?ロティスはいつ帰ってくるの?」


「あ、いや~それは……あはは、そろそろ?だったり?」


 頼むロティスくん。早く、一刻でも早く帰ってきてくれ。

 私はこのままじゃ、ストレスで死んでしまうよ。


 ギルドマスターのそんな心情が届いたのかものすごい速さで人伝に連絡が届いた。


「おいっ!こんな時間に見慣れねぇ奴と銀髪の子供が街に帰って来たらしいぞ!」


「おっ!噂をすれ……」

「ロティスっ!!!無事なのね!?」


「あっ、ミリアちゃんちょっと待っ――」


 ギルドマスターの制止も甲斐なく、ミリアは街の入口に向けて走り出していた。


 ◇◇◇


「ほう。ここがロティスの住む街か」


 街に入る少し前にユメにロティスの格好になってもらい、ナルの姿になった俺とロティスの姿になったユメの二人で街に戻って来た。


「ああ、ここは月の街だ。いいところだろ?でも、今はナルだぞ?」


「おっとそうじゃったな。ここは活気がある。暗いのに賑やかじゃ」


 酒場や民家から聞こえる声を聞いたユメが楽しそうにしている。

 そんな様子のユメを見ているとなんだか自分のことのように嬉しくなってきて、この街の説明をしようとゲームの知識を呼び起こす。


「ああ、人口もそこそこ多いのに、犯罪も少ないし――」

「ロティスっ!!!!!!!」

「へ?」


 俺が攻略本で読んだ月の街の概要テキストを思い出していると、とてつもない勢いでユメ(ロティスの姿)に飛びつく人影があった。

 

「あぎゃっ!!?」


「あ~ん、おかえり~私のロティ……ス?……あなた、だれ?」


 飛びついて頬ずりをしようとしたミリアはすぐに異変を感じ取ったみたいだ。


「む?貴様こそ何者じゃ!!無礼にもワシにタックルをかましてきおって!」


 ユメはユメで何事かと構えている。

 

「私のロティスの恰好をしておいて……そんなおかしな話し方は許さないわ」


「おかしな話し方じゃと!?貴様こそ、そんな気取った態度で何様のつもりじゃ!」


 早々にバチバチと火花を散らすユメとミリア。


「待てまて二人とも。一旦落ち着いてくれ」


 いきなり収拾のつかない事態になりそうな空気が醸し出され始めたため、ミリアの前では喋りたくなかったが仕方なく、口を開いた。


「その声……その恰好は別人に見えるけど……ううん、変装の魔法なのねロティスっ!良かった!!」

「な!まだワシとの話は終わっていないぞ!」

 

 俺が喋った途端に、ユメを放ってこちらに飛びついてくるミリア。

 突然の変わりように不服そうなユメ。

 一秒で変装を見破られ、絶望する俺という奇妙な関係の構図になってしまった。


 ◇◇


「そうなの……ロティス。あなたの事情はよく分かったわ」


 街の入口で話し込むわけにもいかず、俺はギルドマスターに確認したいこともあったため、俺達はギルドマスターの執務室で話をしていた。


「なるほど……グレムリンに転移魔法ねぇ」


 俺の話を神妙な面持ちで聞くミリアとギルドマスター。


「のう、ロティス。なぜま――」

「何を興味深い……みたいなスタンスで聞いているのですかギルドマスター?これ、明確な規則違反ですよね?架空のコントラクターを創り上げ、サンシャインギルドの名前を使い、クラス2のコントラクターにダンジョンの探索をさせた。いったい何を考えているんです!?」


 いまだにロティスの姿のまま俺の隣に座っているユメが何かを言おうとするも、すごい圧のミリアに阻まれる。


「い、いや~それはだねミリアちゃん……」


 ユメが何を言おうとしたのか気になったが、ミリアがギルドマスターを詰めようとし始めたので、これでは話が長くなってしまうと思い会話に割って入った。

 

「ミリア、ごめん。あとでしっかり謝るし、ギルドマスターのことはいくら問い詰めてくれてもいいからちょっと俺に時間をくれない?」


「え?ロティスくん?」

「ロティス……わかったわ。でもその話は私にも聞かせなさい。いい?」


「うん、わかった。それでいいよ」

「え?え?聞こえてない?」


 あたふたとするギルドマスターを傍目に俺は聞きたかったことを確認し始めた。


 ◇


「まず、ミリア。あのダンジョンの最奥に誰がいるか知ってる?」


 ギルドマスターは魔族伯爵ストイのことを知っていた。これが常識的なことなのか異例なことなのかの確認のため最初にミリアに質問した。


「誰がいるか?さすがの私も行ったことのない場所に何がいるかまでは分からないわ」


「だよね。でもギルドマスターあなたは知っていた。これはなぜですか?」


 やはりミリアは知らないようだった。

 つまりギルドマスターは……


「……さすがだよ。まさかこんなにも早く気付かれることになるなんて」


 先ほどまでの冷や汗を流すような表情からは一変、パチパチと乾いた拍手をしながらギルドマスターは態度を百八十度変えた。


「ギルドマスター、いや、アイン。お前は何者だ?」


「くくっ……いいでしょう。聡いあなたには教えてあげましょう。私は魔将ヒルウァ様に使える魔族アインと申します」


「なっ!?魔将ヒルウァだと!?」


 想像以上の人物で、魔族であろうことは想定していた俺も驚きを禁じ得ない。

 だが、魔族が目の前にいるこの状況で驚いてばかりはいられない。


「ユメっ!!」

「承知しておる」


 俺がユメを呼ぶと、いつの間にかロティスの姿をしていたユメはそこにおらず、俺の腰に携えられるように刀が浮いている。


「おっと……大丈夫。別に危害を加えるつもりはないさ。でもさすがにバレるのが早すぎたね……」


「ちょ、ちょっとロティス?一体何の話を……」


 一人ついてこられていないミリア。珍しく動揺しているようだ。

 それでも、今の一瞬で身体強化魔法を全身にまとっているところは流石と言うほかない。


「ねえ、ロティスくん。参考までにどうして気が付いたのか聞いてもいいかな?」


 しかし、いつでも抜き打ちできるように刀に手をかけた俺と本気の身体強化魔法で臨戦態勢のミリアを前にしてもギルドマスター、もといアインは慌てたそぶりを見せない。

 俺は警戒を緩めないままに答える。

 

「おかしな点はいくつもあった。だが、明確な違和感は魔核の色を俺たち以上に認識していたことだ。俺達には魔核の少しの濃淡なんてわからないがあなたは見分けていた」


「くくっ、なるほど。やはりそれがミスでしたか……まあ、バレてしまったものはもういいでしょう」


 そう言うとアインはおもむろに手を振り上げ、まるで指揮を振るかの様に腕を振るった。

 すると慣れない魔力の動きを感じ取る。

 

 その瞬間、ガタッとなにかが崩れるような音がする。

 音のした方向に目を向ければ、ミリアが片膝をつくような体勢になっていた。

 その顔は驚きと苦痛によって歪められている。


「……ミリア!?」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


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