第28話 【Side:こじらせ女子】 ロティスはどこに?後編

 私が走って向かった先はもちろんこの街のギルドだ。

 

 ギルドならば、誰がいつどんな依頼を受注したのかを確認することができる。

 もし、またロティスが……。


 またよくない想像が頭をよぎって、全身に悪寒が走る。


「大丈夫、大丈夫。きっと、オークとかで試し打ちしてるだけよ……」


 ◇


「ロティスくん、ですか?ここ二日くらい依頼を受けには来ていないですね……お家に居ないんですか?」


 ギルドに入ってすぐ、ミナさんのところに駆け寄ってロティスの一番最近受けた依頼を聞いたがこの二日間ではなかった。

 ロティスが依頼を受けてない……!?


「ほ、本当にロティス、来てないの!?」


 ここなら手掛かりが得られると思っていただけに、思わず受付の机に固く握った拳を叩きつける。


「ミ、ミリアさん!?どうしたんですか?」


「そんなわけないじゃない……おかしいおかしいおかしい。いや、そうよ!きっと上級魔法の訓練がしたくて、ちょっと離れた街の外まで行っているんだわ!」


「ミリアさん?上級魔法って……どういう?」


「こうしちゃいられないわ!迎えに行ってあげないと!」


「ちょ、ちょっとミリアさん!?」


 ミナさんの話を聞かず、すぐにでもギルドを飛び出していこうとしたが、予想外の声に呼び止められた。


「ミリアちゃん、ちょっといいかな?」


「ギルドマスター……すみません。私、今急いでいるんです」


 ギルドマスターには昔からとてもお世話になっているけれど、ロティスのことと比べたらいくらでも切って捨てられる関係だ。

 こんな状況で体面を気にしていられるほど私は落ち着いていなかった。


「まあ、そう焦っても事態は変わらないさ。そもそも依頼を受けてないのであれば、ロティスくんの居場所に手掛かりはないのだろう?キミのことだ。普段魔法の訓練をしていた場所は確認済みなんじゃないのかい?」


「――ッ。」


 それはその通りだった。

 今日の帰り際にいつも訓練していた場所には先んじて寄ってきていたし、もう一つ普段から使っている場所は先ほどまでエモニちゃんと使っていたのだから、手掛かりはない。


「実は私に一つ思い当たることがあるんだよ。でもここではなんだから、私の執務室で。どうかな?」


 なんでギルドマスターが、ロティスの行先に手掛かりを?

 そう言えば、あの日……指輪のことで色々聞き忘れたけど、ロティスは結構長い間ギルドマスターと話していた。


「……分かりました」


 ◇◇◇


 「ミリアさん……ロティス……」


 一人取り残された私は、力なく二人の名前を口にしながらその場にへたり込んでいた。

 

 ミリアさんが飛び出していったあと、私もすぐに追いかけようと思った。

 でも、あの時の力が頭をよぎったら、足がすくんでしまった。


 それにもしロティスが依頼で遅くなっているのだとしたら、二人よりも弱い私が行って余計に迷惑をかけてしまうんじゃないかと思ってしまった。


「そういえば、あの力を使った後、変な声が……」


 ミリアさんの恐ろしさで封印していた記憶だったが、あの時間違いなく不思議な声は聞こえていた。どうして忘れていたんだろう?


 あの不思議な声の人はロティスのことも知っている様だった。

 

「もしかしたらあの声の人なら……ロティスの行先も知っているかも!」


 突然閃いた新しい発想に目の前が開けた気分になる。

 早速聞いて……


「でも、あれ?どうやって話したんだっけ?」


 たしかあの力を……。


 あの時の声と話すため、私の試行錯誤が始まった。


◇◇◇


「それで、手掛かりと言うのは?」


 ギルドマスターに付いて、執務室までやってきた私は体面のテーブルに座って早々本題を切り出した。


「まあまあ、落ち着いて。そうだ、帰ってくる間に魔物と戦った?」


 焦ってはいたが、ギルドマスターの話しを聞いているとなんだか本当に落ち着いてきた気がする。


「何匹か、ショートカットしている間に出てきた魔物は倒しましたけど……それが何か?」


「実はね……これ、見て欲しいんだけど」


 すると対面に座ったばかりのギルドマスターはまた立ち上がり自分のデスクの方へ行くと小さなショーケースのような入れ物を持って戻って来た。


「これは……魔核、ですよね?これがどうかしたんですか?」


 見せてくれたケースの中には、クラス1から3までの魔核がまるでグラデーションのように入っているが、普段見ているものと特段違いがあるようには見えなかった。


「……ああ、そうだったのか」


「?ギルドマスター?」


「いや、何でもないよ。それよりこの魔核、実はそれぞれ少し色が違うんだ」


 何だか含みのある言い方をするギルドマスター。

 だが、それ以上にそのあとの話しが気になった。


「魔核の色が?私には普段と同じ色に見えますが……」


 そう言いながらもう一度ショーケースを確認するも、やはりいつもと同じクラス1を示す水色、クラス2の青緑色、クラス3の緑色、クラス4の黄緑色のものにしか見えない。


「まあ、私は伊達に長いことギルドマスターをやっていないからね。毎日毎日魔核の買取りをしていると段々わかるようになってくるんだよ」


「そうなんですか。それで……この魔核にはどんな違いが?」


「実はどれも少しずつ色が濃いんだよ。これがどういうことか、ミリアちゃんは知っているかい?」


 まさか……!

 そう言えばロティスを助けたあの日にロティスが基準クラス以上の魔核が取れる魔物について、話していたことを思い出す。


「ダンジョンブレイク!?」


「そうだね、でも今回はきっと違う」


「え?」


 また、部屋を飛び出していきそうになっていた私の耳にギリギリでギルドマスターの声が届いた。


「階段の守護者、あれが倒されたんだよ」


「なるほど……階段の守護者が………………え?」


 いったい誰が?階段の守護者を倒せる人なんてこの街には私以外……!

 

「そう、ミリアちゃんの想像通りだ」

 

「まさか、あの時ロティスはダンジョンから帰ってきたところだった!?」


「まあ、そう言うことなんだろうね。だからきっと今回もダンジョンの調査に行ってるんじゃないかな?王都のサンシャインギルドからきたコントラクターも居たし、一緒に行ってるとかさ」


「王都から?……そいつ女じゃないでしょうね?それとクラスは?私より強いのかしら?」


「ははは、大丈夫男の人だったよ。名前はナル。クラスは4だったかな?でもかなり強かったよ」


「へぇ……いい度胸じゃない。私のロティスを勝手につれて依頼に行こうだなんて。帰ってきたら目にものを見せてやるわ」


「……ま、まあ、ほどほどにしてあげたら?もしかしたらロティスくんが付いていったのかもしれないし……って聞いてないか」


(ごめんねロティスくん。あとは自分でなんとかしてよ。そのあとはキミの質問になんでも答えてあげるからさ)



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


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