第27話 【Side:こじらせ女子】 ロティスはどこに?前編

「ロティス~ご飯持ってきたよ!」


 休日として一日家の手伝いをして過ごした私は、一日修業をしていたであろうロティスに夕食の差し入れを持っていくことにした。

 ロティスは料理自体はできるのだが、どうにも肉料理に偏っている節がある。

 だから私は野菜をたくさん使った献立を選んで作って来た。


「ロティス~?いないの?」


 例のごとく、ロティスたちの住む家のドアノブに私が触れると魔法で鍵が開く。

 もう慣れてしまったけれど、この仕組み考えた人すごいなと思う。


 扉を開けて部屋に入ると全く人の気配がない。

 ロティスは変わっていて、部屋に入る前に必ず靴を脱ぐのだが、その靴がないことからもこの家に居ないことは明らかだった。


「なんだ……外に依頼受けに行ってるのかな?まあ、一人で行っていいよって言ったの私だし……」


 悪い考えを振り払うように首を振った。

 私は不安な感情を押し殺して、少し待ってみようといつの間にか三脚に増えたこの家のテーブルの椅子に腰を掛けた。


 ◇◇


 そこそこ時間が経過したと思う。

 窓から見上げる空は、すでに暗くなっており森の方では身体強化なしでは相当に見通しが悪くなっているはず。


「ロティス?帰って来るよね?」


 思わず、最悪が口から出てしまった。

 いやいやいや、あのロティスが私の前からいなくなるはずはない。

 そんなはず……。


 そう思おうとして私の頭に浮かんだのは、突然休暇を作ろうと言い出したロティスだった。


「私、何かしちゃったのかな……やっぱりあの力を使っちゃったから?あの時ロティスに怪我をさせちゃったから?どうしようどうしようどうしよう」


 ――っそうだ!

 あの日の出来事から今日までのロティスとの時間の回想を進めた私は気が付いた。

 約束したじゃないか!明後日に魔法を見せ合うと。

 きっとロティスはとっておきの魔法を準備しているんだ。

 うん、そうだ。絶対そう。間違いない。


「なら、こんなことしてられないよね!」


 私は勢いよく立ち上がり、ロティスたちの家を飛び出すと家の裏庭に走った。


 ◇◇◇


 そこから二日間は自分でもびっくりするくらいの集中力で魔法に向き合うことができた。

 とはいっても二日程度で何かが劇的に変化することはなく……。


「う~ん、あんなに大見得切ったけど、大して成長できなかったな……それより、ロティスと二日も会わないことなんて今までなかったから早く会いたいや。これはミリアさんが片道二日の距離を一日で走って帰って来たくなる気持ちも分かるなぁ……」


 私は身支度を整えて、ロティスたちの家に向かった。


「ロティス~魔法の成果発表しよー!!」


 今日は外から様子を窺うことなく、ドアを開けて部屋に入った。


「あれ?エモニちゃん?ロティスと一緒じゃないの?」


 ドアを開けて部屋に飛び込んだ私を迎えてくれたのはミリアさんだった。


「あ、ミリアさん!ロティスはいないんですか?」


「ええ、というか昨日から帰ってきてないっぽいのよね……」


「えぇっ!?一昨日ご飯持ってきたときもいなかったですよ!?」


「……エモニちゃん、何か知らない?」


 思わず素で反応してしまったが、そう言えばロティスに一人で依頼を受けて良いと言ったのは私だった。

 きっとロティスは依頼に行っているのだろう。

 そしてそのことはミリアさんにはバレたくないはず……!


「私たちミリアさんが依頼で出ている間、お互いに魔法を練習してその成果を今日見せ合おうって言う約束をしてたんです!だからロティスどこかでギリギリまで特訓してるのかも」


 嘘は吐かない。

 私程度の嘘を見抜けないミリアさんではないから。

 ただすべてを言わないだけで十分だ。


「そうなのね!ロティスは昔からすごい努力するから確かにギリギリまで特訓してるのかも。じゃあ、エモニちゃんもやろっか!」


「え?」


「ロティスと成果を見せ合うんでしょ?なら、びっくりさせてあげましょ!そう言えばエモニちゃんとは一対一で訓練したことなかったわよね。ロティスがギリギリまで頑張るならエモニちゃんも頑張らないと!」


「……はい」


 確かに成果と言うほどの成果を出せていない私はこの提案に頷くほかなかった。

 でも……ロティスと二人係でもあんなにきつかった訓練を一対一で……。


 それでも、頑張っているであろうロティスのことを思えば、私も頑張ろうと思えた。


 ◇◇◇


 帰ってきたらロティスが居なかった。


 これ自体にはそこまで驚かない。

 ロティスもコントラクターになった以上、夜通しの依頼を受けることもあるだろうから。

 それに私は依頼はエモニちゃんと二人で受けなさいと言ってある。

 一度はその約束を破ったロティスだけど、もう一度する子だとは思わない。


 だから、せっかく早く帰って来たのに……という不満はあっても、不安はなかった。


 でも、私が帰って来たからしばらくしないうちにエモニちゃんがやって来た。

 魔法の成果を見せ合うと言ってロティスを探している様子だった。

 

 そこで一つの違和感。

 一緒じゃないということはロティスは依頼を受けていない。

 じゃあ、いったいどこに?


 しかしこれについてはエモニちゃんが教えてくれた。

 どうやら二人はお互いに一人で集中して魔法を特訓して成果を見せ合うという約束をしていたらしい。

 昔からよく頑張るロティスのことだ。

 かけた時間だけ練度が上がる魔法だけど、二日程度じゃ大して変化はない。

 でもロティスならギリギリまで頑張って、本当に何かを掴めてしまうかもしれない。


 そう思ったから、すぐには探しに行かずエモニちゃんと夜まで魔法の特訓をすることにした。


◇◇

 

 そして辺りが暗くなり、夜に差し掛かった頃。

 休憩をはさみつつも朝から特訓をしたエモニちゃんをねぎらいながら家に戻った。

 そして、エモニちゃんと一緒に夕食の用意をしてロティスの帰りを待っていたのだけど……


「ねぇ、エモニちゃん。さすがにロティス、遅くないかしら?」


 先にそれを口に出したのは私だった。

 でも、流石におかしい。

 いくら魔法の特訓をしていたとしても、エモニちゃんとの成果の見せ合いの約束や私が依頼から帰ってくることは覚えているはずだ。

 ここまで遅くなったら、私たちが探しに出てしまうということくらいはロティスなら想像がついているはずなのに……。


「あの……ミリアさん」


 するとエモニちゃんが申し訳なさそうな顔で私を見ていた。

 その顔に酷く嫌な予感を覚えた。


「ごめんなさい……私がロティスに一人で依頼に行ってもいいよって、言っちゃったんです。どうしよう!?私のせいで、ロティスが危ない目に遭ってたら……!」


 ……ロティス?どうして?

 エモニちゃんの顔を見ればわかる。

 それはきっとロティスが強く望んだことなのだろう。

 だからこそ、私はショックだった。

 この間、ダンジョンの前で危ない目に……。


 そこまで考えた私は最悪の可能性を察知して、家を飛び出していた。


「え?ちょ、ちょっと!ミリアさん!どこにい――」


 だから、エモニちゃんの声は私には全く届かなかった。

 

「ロティスがこんなに遅くなるなんてありえない。危ない目に遭ったばかりなのに……どうして一人で。お願い……無事でいてっ!」


 走りながら私はその想いを口に出さずにはいられなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


長くなってしまったので二話に分けます。


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