第24話 疑惑

 俺の足元で赤黒く光る見たこともない紋様。

 その魔法陣は圧倒的な魔力を放ち俺をその場に縛り付ける。


「クソっ……動けないっ……」


 俺のその姿を見ると満足したようにグレムリンはこと切れた。

 そしてグレムリンの死がまるで何かのトリガーであったかのように強い光を放つ。


「な、なにが起こっているんだ!?」


 不気味な光に包まれる。

 そしてその独白を最後に俺の見る景色は一変した。


 ◇◇◇


「ここは……」


 強い光に飲まれたあと、視界が開けるとそこは見たことのない景色の空間だった。

 とても気分のいい景色ではない。

 どこもかしこも不気味で空気も淀んでいる。

 1階層で見た毒々しい花や草木が可愛らしく見えるほどの狂気的で冒涜的な空間が広がっていた。

 

「ダンジョンの中……だよな?」


 こんな異常空間はダンジョン内以外に考えられない。

 だが、こんな空間は絶望勇者のゲーム内でも見たことがない。

 さっきの魔法も何もかも、俺の知らないことが起きている……。


 異様な景色に圧倒されるも即座に周りの気配を探る。

 歪んでいるとしか表現出来ないような生え方をしている木々が立ち並ぶ森の中。

 周囲からは生物の気配は全く感じられない。

 

 ふと自分の身体を見下ろすと変装で作ったナルの姿から普段のロティスの恰好へ戻ってしまっていた。


「どういうことだ?この効果は解除するか誰かに見破られない限り、元に戻ることはないはずだが……。このおかしな空間で壊れたのか?」


 内心ではありえないと思いつつも思考を整理するために、一つひとつ言葉にして確認していた。

 

『壊れてはおらぬ。ただワシに貴様が見破られたというだけのことだ』


「!?」


 どこからともなく声が響き、後ろを振り返る。

 だが、振り返った先に声を発したであろう人や生物の影はなかった。


『ふふふ、無駄じゃろうて。貴様がワシを観測することはできない』


「誰だ!何を言っている!?」


 脳内に直接響くようなその声に俺は警戒心を最大まで上げて、同じように気配察知も最大出力で発動する。

 しかし、どれだけ出力を上げようとやはり生物や音を発しそうな何かの気配を探り当てることはできなかった。


『だから、無駄なことはよせ。……そうじゃのう。貴様、我が神殿を探せ。神殿を見つけることができたのなら貴様の質問になんでも答えてやろう』


「神殿だと?自分が神だとでもいうのか!」


『だからそれを確かめるために神殿を探せと言っておる。だが、そうじゃのう……せめてこの場所がどこかだけは教えておいてやろう。ここは光り閉ざす森ダンジョンの6階層じゃ』


「なっ!?6階層!?ふざけるな!光り閉ざす森ダンジョンは最深層が5階層のはずだ!」


 そう叫ぶも俺の言葉は虚しい静寂の中に消え、同時に脳内で響いていた音もなくなった。


「6階層?神殿?なにがどうなってるんだ?」


 突然の情報過多により頭がひどく混乱する。


「ふぅ……一旦落ち着いて情報を整理しよう」


 まず、1階層でグレムリンに遭遇・戦闘をした。

 周囲の魔物ごと上位魔法で薙ぎ払うも、グレムリンの最後のあがき、多分魔族の魔法によってここへ飛ばされた。

 そして、さっきの謎の声が聞こえてきて、神殿を探せと言われた。


 こんな感じだろう。

 しかし、もし本当にここがダンジョンの6階層だとするならば俺の実力ではあっさり死にかねない。

 そもそもここに魔物がいるのかどうかさえ分からない。

 俺の気配察知をかいくぐれる魔物がいたって全くおかしくないのだ。


「でも……ここを出る手掛かりを探すなら……神殿を探してみるしかないよな……」


 もし仮に階段を見つけたとしても、次の階層が5階層だった場合そこは魔族伯爵ストイの根城だ。

 ここよりも魔物の数は多いだろうし、魔族と遭遇しようものならそれこそ終わりだ。

 とりあえず見る限り森の中で、魔物の気配もないこの階層を調べてみた方がいいだろう。


 念のため気配を消して、なるべく音を立てないように行動を始める。


 ◇◇◇


 どれほど歩いただろうか。

 歩いても歩いても目に入ってくるのは形容しがたい形に伸びた赤黒い木々ばかり。

 隠密行動を心がけていたとはいえ、相当な距離を歩いたはずなのに一向に景色に変化がないように感じる。


 異様な雰囲気にも慣れてきたとはいっても異様なものは異様。

 ふと冷静になった瞬間に目に映ると気が狂いそうになる。


「くっ……」


 一瞬、視界がブレる。

 グレムリンとの戦闘で上位魔法を二発も使ってから、身体強化と気配察知をフルで発動させ続けていたためか、さすがに疲れが溜まって来ていた。

 しかし、こんな何もない空間で気を緩められるわけもなく、また身を隠して休める場所も見当たらない。


 だが、このままでは倒れてしまうか……。

 苦肉の決断だが、ここまで何とも遭遇していない。

 全神経を注いでの過剰な警戒は必要なかもしれない。

 そう判断した俺は一番近くの木の根元へ腰を下ろし、ゆっくりと全ての魔法を解除していった。


「はぁ……」


 大きくため息をつき、少し目を閉じる。

 身体が休まっていき、思考がクリアになっていく様を感じながら、ここに来ることになった経緯を改めて考え直す。

 グレムリンの転移魔法よりもっと根本的な……ダンジョンに入る前まで遡ってみると、急に思い起こされたのは先日のギルドマスターとの会話だ。


 俺がダンジョンに来るきっかけになったのはギルドマスターの依頼だった。

 今になって考えて見れば、魔核の色の違いを見抜き、ストイの斥候の話まで妙に魔族側のことに詳しすぎるような気がする。

 というか……なんで誰も5階層に行ったことがないはずなのにストイのことを知っていたんだ?

 

 それに、俺に貴重な能力付きである変装の指輪を渡して、一週間後から突然探索許可を……。

 入った先の1階層ではいるはずのないグレムリンとの遭遇、謎の魔法による転移……。


 今考えるとギルドマスターの行動にはいくつも疑問が浮かぶ。

 魔族のことを知りすぎているし、あれくらいのことで貴重な指輪を簡単に渡してきた意図も不明瞭だ。

 1階層で遭遇したグレムリンのことも含めて何かの計画だったかのように感じる。

 

 戻ったらしっかりと確認が必要だ。

 

 そこまで考えて目を開けた俺の視界に飛び込んで来たのは衝撃の光景だった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


狂気的で冒涜的な空間のイメージはクトゥルフ神話の発狂状態です。

直送直前とかぐらいの。


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