第25話 神殿の刀
全ての魔法を解除して目を開けた俺の視界に映ったのは、何かの骨や剣や鎧など朽ちることのなく遺留したものとその中に忽然とたたずむ神殿だった。
「……あ、……は?」
理解のできない状況に開いた口が塞がらない。
ふと自分が背もたれにしていた木だったものに目をやると、それは鋼板のメイルプレートのような鎧の一部だった。
『ハッハッハッ!なかなか早く気が付いたのう。大方二日と言ったところか』
またも脳内に直接響くような声が聞える。
……待て、二日?
そんなに時間が経っていたのか?
『一人目のあいつは二年ほどかかったからのう。今度こそ本物の救世主と言うことか?』
「おい、いったい何を……」
『それより早く神殿へ来んか!』
その言葉に促され、俺は一体何段あるんだ?という疑問が思わず口をついて出そうな頂点の見えないほどの階段を昇り始めた。
◇
「おい……これ、どこまで続くんだ?」
ずっと歩いてばかりではさすがに気が滅入ってくる。
最初こそ、ここを昇り切れば何かしらの情報を得られると思い勇んでいた俺だが、先ほどまではひどく不快な気分にさせられる森の中を歩かされ、今度はどこまであるかわからない階段……ん?
嫌な予感がして、身体強化魔法を発動する。
そして強化された視界で視えたのは――
二十段程の階段の先にある神殿の本殿だった。
「クソっ今度は幻覚魔法かよっ!!」
無限に続いているとさえ思えたこの階段は幻覚魔法によるものだったようで、実際には大したことのない段数しかない。
俺は階段を昇っていると錯覚させられ、階段の一段目で足踏みを踏まされていたみたいだ。
『ハハハッ、もう一度同じ罠があるとは思わなかったか!』
こいつ……喋り方的にてっきり爺さんみたいな何かを想像していたが、この精神年齢……子供だな。
そんなことを考えながら俺はようやく神殿内へとたどり着いた。
◇◇◇
「来たぞ!お前は一体なんなんだ!」
外とは違って、壁や床の模様は複雑で神秘的な神殿の内部。
どこからの光か分からないが、神殿の奥で光を放ち目立っているなにかを目指しながら脳内に語りかけてくるヤツに話しかける。
『目の前におるじゃろう!』
目の前?俺の目の前にあるのは光源が分からない光だけ……と思いながらも眩い光の中に目を凝らしてみると、祭壇のような場所に寝かされた一振の刀があった。
「……刀?」
『そうじゃ!その刀は銘を
語尾から爺さんの姿を想像し、やり口からイタズラな子供の姿を想像していたが、目の前にすると声に音がついた。
この声の主は……のじゃロリだった……。
………………
………………
………………
「いや、なんで刀が喋りかけて来てんだよっっっ!!!」
のじゃロリの声が聞えた瞬間眩しかった光は何処かへ消えた。
……キャラブレしすぎていたせいでスルーするところだったが、のじゃロリ以上にこいつ刀じゃん。
何が起きてる??
緊張感や疑問などの一切が吹き飛ばされるような衝撃で俺の頭は?でいっぱいになった。
『貴様に最も縁深き姿になったのみ……貴様はこの不思議な剣を使うのじゃろう?』
そんな俺をよそにして冷静に語るのじゃ刀の言葉に、もう遠い昔のように感じられる前世の記憶が蘇る。
◇◇
刀を使う。それは確かにそうだ。
俺は前世では親父に刀を習っていた……いや、やらされていた。
ウチの魚谷精肉店がただの精肉店だったのに地元で有名だった理由はこの刀にある。
親父は刀鍛冶を職とする祖父の元に生まれて刀に触れながら生きてきたらしい。
だが、現代ではその刀を使うことなどない。
だからそんな親父が開発したのが刀術による肉の解体ショーだった。
どんな肉も大抵刃渡り20-30cm程の包丁で捌けると言うのに親父はそれを刀でやっていたのだ。
子供ながらに馬鹿げたことをと思っていたが、それが話題となりただの精肉店が有名になり売上も激増した。
そんなわけで将来精肉店を次ぐことを期待されていた俺にもバッチリ刀術は仕込まれているというわけである。
◇◇
懐かしいことを思い出しながら、改めて目の前の刀を見つめて、口を開いた。
「うん、お前が刀の姿をしている理由は分かったよ。でも違う、俺が聞きたいのはなんで刀が喋っているかの方で――」
『ええい!黙ってわしを手に取らんか!わざわざ口で説明せねばならんほど、貴様は間抜けなのか!』
……ここまで来たらなんでも答えるって言ったの君だよね?とは思ったが、これ以上混乱させられても対応し切れる気がしないので言われた通りに俺は夢幻刀陽炎を手に取った。
「おぉ、良い刀だ」
握った瞬間ズシリという懐かしい重さが手にかかる。
少し鞘から抜いて刃を見れば一目で業物と分かる程、洗練された仕事だ。
その刀身は薄く紫がかっており、どこか神秘的にも感じられる。
『そうじゃろう!そうじゃろう!このワシは極上の刀なのじゃ!』
俺の口からこぼれた刀への賞賛にのじゃロリ刀は嬉しそうにして少し刀身を揺らした。
刀を握る手に、ジンと温かい感覚が伝わってくる。まるで刀の感情そのものが刀身を通して訴えかけてきているかのようだ。
「なあ、のじゃ刀。そろそろ質問に答えてもらっていいか?」
『の、のじゃ刀とはなんじゃ!?ワシには夢幻刀陽炎という名が……』
「分かった分かった。お前は今日からユメな?で質問いいか?」
間違いなくこいつの感情は握った手から伝わってきている。このくらいの扱いがちょうど良さそうだ。
『む……ユメじゃと?……ワシをそんな気軽に呼ぶとは!?……まあ……そこそこ悪くは無い。よかろう。なんでも聞いてみよ』
どうやら俺に感情が筒抜けになっていることは自分ではわかっていないらしい。
悪くないとか言ってるけど、内心飛び跳ねて喜んでいるのはわかってるぞユメよ。
……と、そんなことより本題だ。
「まずは……そうだな。ここは6階層とか言ってたけどそれは本当か?」
とりあえず目先の問題はここの脱出だ。
そう考えた俺はさっきの質問の確認から入ることにした。
『なんじゃ?それは先刻も答えたではないか。ここは光り閉ざす森ダンジョンの失われし6階層じゃ』
「失われし?それはどういうことだ?」
『そのままの意味じゃ。ここは大昔に邪神により封印されたダンジョンの未踏破階層なのじゃ』
「邪神により封印?ここって元々魔族側の領地だろ?なんで封印なんてしたんだ?」
『それは……あまりにも血が流れすぎたからじゃの』
そう言うユメの声は寂寥を含んだ複雑な感情を表しているようで、聞いているだけの俺も少しさびしさを感じるようだった。
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あとがき
のじゃ
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