第23話 戦略と狂気
「さて、今度こそ張り切ってダンジョン探索と洒落込みますか!」
ギルドを出てからまっすぐにダンジョンに向かった俺はおよそ2時間ほどでこの前のダンジョンゲートに到着した。
今日はこのクラス4のコントラクター『ナル』としての姿があり、届け出も出しているため何の引け目もなく探索することができる。
今回は前回と同じ轍を踏まないように、入念に魔法・魔力に対する耐性を強化する魔法を自分に使った。
「よし、とりあえずは一層の魔物と端から戦っていくか!」
まずは前回も入った一階層の魔物と戦っていく。
ギルドマスターに頼まれる程度の実力はあるが、ハイオーククラスの魔物との連戦はまだきつい。
この依頼には特に期間を設定されていないため、俺の実力も高めつつ、ダンジョンを調べてねと言うギルドマスターの粋な計らいの意味もあるだろうと思っている。
いつも戦うコボルトやオークを狩りつつ、その魔核の色に変化がないかを確認する。
「うーん、確かにいつも会う奴らよりは強い気がするけど……色の違いは分からないなぁ」
ギルドマスターは魔核の色の違いを見て、俺が階段の守護者を倒したんじゃないかと疑ってきた。
実際には魔族の斥候の可能性が高いという結論になったが……階層における最も強い魔物を倒したことに間違いはなかった。
何か色を見分けるコツがあるのだろうか?
◇
なおも一階層の魔物を狩りながら魔核の色について考えていると、他の魔物とは気配の違う魔物を察知した。
「これは……また、厄介な……」
捉えた気配の方に目をやると、こちらの世界ではまだ見たことのなかった魔物の姿を三体分確認する。
「グレムリン……」
子供ほどの体格にどこか不気味な黒に近い紫色の翼を携えている。
さしずめ小さな悪魔といった印象のその魔物。
グレムリンはクラス2相当の魔物であり、単体での戦闘能力は高くない。
魔物同士を一体ずつ戦わせればきっとクラス1のコボルトの方が強いだろう。
しかし、奴らの厄介な点は下位魔法と一部の魔族の魔法までを扱うことができる点である。
魔族の魔法とはいわゆる聖神の泉のような聖神の魔法と逆のようなもの。
魔族特有の力だ。
確かゲーム上では、魔族の魔法を魔物にも使わせられないかという実験でほんの一部だが使えるようになった成功例がこのグレムリンだとされていた。
「三体なら……行けるか?」
とはいえ力の差は歴然。
過剰に意識するほどの強さではないはず……だが、問題は強さではない。
グレムリンはこの光閉ざす森ダンジョンには出現しないはずなのだ。
先日の魔族の斥候の件と言い、今回のグレムリンと言い確実に何かが起こっているのは間違いない。
このまま情報を持ち帰るだけでも、よさそうだが――
……今日のところはあいつらを倒してから、引き上げよう。
ギルドマスターなら持ち帰った魔核だけでも何かをつかむかもしれない。
他にも奴らの使う魔法や戦い方の情報を持ち帰って損はないはずだ。
出現しないはずの魔物がいることに若干の不安を覚えたが、その証明と厄介ごとを未然に防ぐことの方が先決だと考えた俺はグレムリンと戦闘することにした。
「とりあえず、一匹先手で落とす!土属性中位魔法『ヘカトン』!」
速さと鋭さを意識した魔法でグレムリンを不意打ちする。
「GUGYAAA!?」
俺の放った土の槍は一番手前側を浮いていたグレムリンに背中から突き刺さり、仕留めることに成功した。
他の二体は仲間がいきなり襲われたことで、驚いているがすぐに俺を見つけると魔法を撃ち返してくる。
火属性下位魔法か……。
冷静に相手の魔法を分析しながら、一つひとつ対処していく。
これまで戦ってきた魔物は、どんなに強い敵でも身体強化魔法以外の魔法を使ってくることはなかったため少し身構えたが、このレベルならば先ほど戦ったライの魔法の方が断然優れていた。
「土属性下位魔法『ガンジュ』!」
相手の魔法を躱しながら、翼をめがけて石礫を放つ。
グレムリンは弱いが、浮いている敵と地に足をつけて戦う俺では使える戦略の数が違う。
一体倒したとはいえ、まだ二対一。油断はできない。
そう思い、まずは相手の機動力を奪う戦略に出た。
しかし、この丁寧な戦い方がよくなかった。
俺の魔法がようやく一体のグレムリンの翼に命中し、落下させることに成功する。
その仲間を庇うようにもう一体のグレムリンが牽制用の大きな魔法を放ってきた。
けん制のためだけの遅い規模だけの魔法。
そう判断して、あっさりそれを躱す。
しかし、その魔法が地面にぶつかると大きな爆発音が鳴った。
「まさか……あいつの狙いは!?」
俺はとっさに気配察知の精度を上げ、周囲を探る。
すると嫌な予感通り、周りから魔物が寄ってきていた。
「チッ……面倒なことを! 土属性中位魔法『ヘカトン』!」
焦らず、火力、スピードともに安定した威力の中位魔法で撃墜した魔物にとどめを刺すと、一番魔物の気配が少ない方向へ走り出した。
「囲まれると厄介だ。数の少ないところを突破して追ってきたところを上位魔法で沈める!」
即座に戦略を立てて、実行に動く。
「風属性中位魔法『マルファス』!」
正面一帯を薙ぐように放ったその魔法は、寄ってきていたゴブリンやコボルトを一掃した。
「ここからなら、一掃できる!風属性上位魔法『ボレアス』!!!」
視界に収まるだけの魔物、全てを切り裂く風の刃を生み出し、放つ。
その魔法はこちらへ向かってくる魔物の胴と足を分け、その命を刈り取った。
「はぁ……はぁ……、全部やったか?」
さすがの俺もあの規模の上位魔法を発動すると目に見えて魔力を持っていかれる。
息を切らしながら、見える範囲に魔物が居ないことを確認――
「GUGYA!GUGYAAAAAAA!!!」
オークと思しき魔物の死体の陰から残り一体のグレムリンが顔を出し、何かを叫ぶ瞬間が俺の目に入った。
「まずいっ――」
直感的にそう判断して、身構えた俺だったがグレムリンの狙いは攻撃ではなかった。
「あいつ、あの体っ!そして、あの魔力はなんだ!?」
オークの陰から完全に体を出したグレムリンの姿を見て、思わず息を呑む。
確かに俺の魔法で致命傷を負っているにもかかわらず、その目は光を失うどころか妄執染みた狂気を感じさせる輝きに満ちている。
「いったい何をするつもりだ!」
身体から立ち上るグレムリンの魔力はこれまで目にしてきたどの魔物とも違う異質で不気味なものだった。
そしてその魔力は俺の足元に収束しているのを感じる。
「これは――魔方陣!?」
俺の足元にはゲームでも見たことのない魔方陣が展開されていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白い、応援したいと思っていただけたら☆☆☆評価、フォロー、レビュー等していただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます