第22話 実力照明

 俺との対決に志願してきたその男はついて来いと言って、ギルドの演習場まで俺を連れて来た。

 

「俺はライ。もうすぐクラス3になるコントラクターだ!この俺がお前を試してやる!」


 向かい合うといきなり名乗り始める。

 ライと名乗ったこの男は最近俺とエモニに何かと対抗心を燃やしてくる相手だ。

 ゲームには一切出て来ない名前だが、たくさんいるコントラクターNPC一人一人に名前が付いたと思えばこういうキャラが居ても不思議ではない。


「そうか……だが私はクラス4。さすがにキミでは相手にならない」


「なっ!?んだとぉ!?この俺が実力不足とでも言いてぇのか!」


「ああ、そうだとも。もしキミがクラス3相当の力を持っていたとしても。私には及ばない」


「言ってくれるじゃねえか!」


「だから、私はこの左手一本で戦うとしよう。それから……」


 俺は自分の立っている位置を中心に踵で演習場に円を描く。

 肩幅程度の円の中に立ち、続けた。


「この円の中から一歩も出ないことを約束しよう」


「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」

「おいライ~!煽られてんぞ~!」

「片手+行動制限は流石に舐めすぎだろ」


 俺の発言にギャラリーは大盛り上がり。

 登録試験の日のエモニ対タイガ以上の盛り上がりだ。


「きっ、貴様ぁ……痛い目に遭わせてやるっ!!」


「はいはい、煽りはその辺で……判定はギルドマスターのこの僕がするよ」


 ヒートアップしすぎないちょうどいいタイミングでギルドマスターが口をはさむ。


「試合は有効打決着ルールでいいよね?」


 俺とライはその確認に同時に頷く。


「よしっ!じゃあ、早速。試合開始っ!」


 ギルドマスターの言葉と同時に素早い魔法が飛んでくる。


「先手必勝だ!火属性下位魔法『フラウ』!」


 ほう、なかなかいい魔法だ。

 俺やエモニに次いで実力を上げてきているだけはある。

 だが――

 俺は飛んでくる魔法に手を伸ばし、まるで握りつぶすように消し去って見せた。


「なっ!?貴様、いったい何を!?」


「キミごときの軽い魔法なんて、素手で十分なのさ」


 なんて言って見せるがタネはこうだ。

 相手の魔法をギリギリまで引き付けて、その魔法に対して相性のいい魔法を手にぶつかる直前で発動し相殺する。

 タイミングこそ少し難しいが慣れれば誰でもできる技だ。

 

「「「うおおおおおおぉぉぉ!!!」」」

「これがクラス4か」

「これはもしかするとミリアより……」


 ギャラリーは今の曲芸じみた技で大分俺を見る目を改めたらしい。

 しかし、目の前の男はそうではないようだ。


「ぐ、偶然だっ!くらえ!火属性中位魔法『カークス』!」


 今度は威力を重視した火属性の中位魔法を放つライ。


「ふむ、まあ確かにクラス3程度の実力はあるかもしれないな。だが……水属性下位魔法『テティス』」


 俺が軽く放った水属性の下位魔法がライの火属性中位魔法を撃ち破り、勢いそのままにライめがけて飛んでいく。

 

「なんだと!?中位魔法を下位魔法で!?クソっ!身体強化っ!」


 俺の水魔法がライの魔法を撃ち破ったことに、一瞬驚いたようだったがすぐに身体強化をして受けようとする当たり、本当に才能は有りそうだ。


 だが、だからこそ惜しい。

 そこまでできるというのに、俺の魔法の強度を見切れないとは……。


 決着……そう思ったとき。


「今だ!魔法耐性発動!」


 ライの右手中指につけられた指輪が光る。

 すると途端に俺の魔法の威力は減衰し、ライは俺の魔法を受け止めた。


 そしてそのまま俺へ反撃を狙ってきた。


 おお。あの指輪は特殊能力付きだったのか。

 それをこのタイミングで使ってくるとは……俺は少しライへの評価を改めた。


「どんなコントラクターだって、魔法発動直後は隙が――」

「風属性下位魔法『ヒュロス』」


 しかし、その程度では俺には届かない。

 

「嘘だろ!?片手だけでノータイム連射!?」

「おいおい、本当にクラス4なのか?」

「下位魔法であの威力って……」

「王都って、ミリア以上の化け物ぞろいだったりするのか?」


 

 俺は飛びかかってくるライを風魔法で吹き飛ばした。


「勝負ありっ!勝者は王都サンシャインギルドからの調査員、ナルだ!!!」


 

「「「うおおおおおおぉぉぉ!!!」」」


 

 終わってみれば、俺に対して敵対心むき出しだった月の街ギルドのコントラクターたちもしっかり俺のことを認めてくれたみたいだ。


 

「これでいいかな?私は早急に調査を始めたいのだが……」


 盛り上がりが落ち着いてきたところでそう口にする。


「ああ、あんたは実力を示した。俺達じゃ、束になっても敵いそうにねぇ」

「その通りだ。コントラクターの序列は実力がすべて。勝ったあんたに何か言うやつはいないさ」


「そうか……ではギルドマスター、ダンジョンへの入場許可を作っておいてくれ。後で面倒になっても厄介なのでな」


「はい、わかりました」


 それだけ言い残して、ギルドを後にする。

 街の出口の方へ歩いていると背後から名前を叫ばれた。


「コントラクターナルっ!!」


 街に響き渡るんじゃないかと言うほどの大声に思わず振り返った。

 

「なんだ?」


「お前は、どうやってそこまでの強さを……」


「それを他人に聞くようでは、お前は一生そのままだ。ライよ」


「なっ……」


 ライはその後も何かを言いたげにしていたが、俺はそれ以上は足を止めず、今度こそダンジョンに向けて歩を進めた。


 ◇◇◇


 いつもは騒々しいギルドの喧騒が今日は耳に入らない。


「なぜ、なぜだ!」


 ナルが街を出たあと、ギルドに戻ったライは酒を片手に憤っていた。

 しかし、憤りの対象はナルではなく自分自身だ。


「俺は今日まで一人で常に最善を尽くしてきたっ!なのに……なのに!」


 グイっとジョッキを傾け、中身を飲み干すとそれをテーブルに強く叩きつけた。


 あいつは本当に左手だけで一歩も動かず、しかも下位魔法だけで俺を完封して見せた。

 俺は奥の手である魔法耐性まで使って見せたというのに……。


「クソっ!!」

 

 あいつが去り際に放ったあの言葉が頭を離れない……。

 今日の酒は過去最低の味だった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


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