第21話 王都サンシャインギルドの『ナル』
「そう、今日から二人は少しの間依頼を休むのね?」
俺たちはミリアにギルドが騒がしくなりそうで、年齢的にも悪目立ちしかねない俺たちは依頼を休むことを伝えた。
「まあ、そうね……まだ11歳だものね……よそから強い人が来るとギルドの連中は喧嘩を売ったりするだろうし巻き込まれてもいいことはないからね」
……俺、これから喧嘩を売られるのか。
「分かったわ!でも、一人でも魔法の訓練をすること!あとエモニちゃん!」
「何?ミリアさん?」
「私が居ない間にロティスとデートしたりしちゃダメよ?エモニちゃんも一人で戦えるようにならなきゃなんだし、ずっと一緒に居るんじゃなくていろんな人と訓練してみるのもいいかもしれないわね!」
「え~それってただミリアさんが嫉妬するからでしょ?」
「そうだけど?悪い?」
今日も今日とてミリアとエモニはいつも通りだ。
「ミリア。そろそろ時間じゃない?今日はなんなんだっけ?」
「今日は王都からここに帰ってくる貴族のご息女の護衛とお迎えね……向こうでコントラクターを雇えばいいのに……」
最近のミリアはこうした貴族の無茶な依頼を一人でこなしている。
ミリアが気に入られてるのもあるだろうが、多くの場合は権力の強くなるコントラクターを依頼と言う形で使えるという体面を作りたいのだろう。
「それはまた、大変だね。すぐに俺達もクラス5になって代われるようになるから!」
「そうだね!何時までもミリアさんの弟子じゃいられないしね!すぐに追い抜くから!」
「ふふっ、ありがとう二人とも。でもそんなに気にしなくて大丈夫よ?私がこの街を出ていくって言えばあいつら手のひら返しに何でも言うこと聞くようになるから」
そう言うミリアの表情は強かだ。
さすが10代でクラス5に昇格した実績を持つコントラクター。
世の歩き方をよくわかっている。
「じゃあ、行ってくるわ!明後日には戻ると思うけど、くれぐれもデートしちゃダメよ!」
「もう!分かったって!ミリアさんも気を付けてね!
「行ってらっしゃいミリア!」
こちらに軽く手を振ると、早く依頼を終わらせると言わんばかりに猛スピードでミリアは走っていった。
◇◇◇
「ロティスは今日はどうするの?」
ミリアが走って行ったあと、朝食の後片付けをしながらエモニが聞いてきた。
「うーん、ミリアもああいってたことだし、久しぶりに一人で魔法の訓練でもしてようかな……」
「そっかぁ……」
露骨につまらなそうな声を出すエモニ。
だが、すまない。
今日から俺は王都から派遣されてきたコントラクターとしてダンジョンの調査をしなければならない。
「じゃあ、私も家の手伝いとかしながら、訓練してよっと」
「それじゃあ、ミリアが帰ってくる明後日にお互いに成果を見せ合うってどうだ?」
魔法とは一日二日で見てわかるほどの変化が起きるものではない。
だが、この場合は目的はそう言うことではない。
「ほんと!?明後日ね?約束だよ?」
「おう!じゃあ明後日な!」
約束と言う行為自体に意味があるのだ。
その証拠にエモニは数分前とは比べ物にならないほどやる気を出している。
「うん!絶対びっくりさせてあげるから!」
そう言ってエモニは家を出て、自宅へ帰って行った。
◇◇◇
さて、一芝居始めようか……。
俺は指輪の特殊能力を発動する。
ギルドマスターに貰ってから、練習として一人で隠れて何度か発動させ、姿を安定させておいたコントラクター『ナル』としての格好に変装する。
イメージしたのは前世の自分。
身長176㎝、死ぬ前は結構痩せてしまっていたが、俺の記憶にある自分の身体は大学生の頃のもののため、結構いい体をしていると自分でも思う。
髪は俺の銀から黒に、そして少し長めにした。
服装はいい物が思いつかなかったので、真っ黒なコートにしておいた。
そこまでの変装を終えると、気配を隠すように身体強化魔法を発動してギルドに向かった。
あたかも街の入口から歩いてきたかのように気配を出していき、ギルドの扉を開ける。
「お、おい。あれって」
「ああ、あいつが王都から来たっていう……」
「ほう。まあちょっとはやりそうだな……」
ギルドへ一歩足を踏み入れた途端、いつもは飲んだくれている奴らの品定めをするような目線があらゆるところから飛んできた。
「ギルドマスターはいるか!王都からの調査員が来たと伝えてくれ!」
俺はそんな視線を受け流しながら、力強い声で呼びかける。
「はいはい、ここに」
すると、まるでゴマを擦るように手をこするギルドマスターが現れた。
「あなたがここのギルドマスターか?」
「はい、私が月の街ギルド、ギルドマスターのアインと申します」
向き合ってお互いに少し口元をほころばせると軽く握手をする。
「私は王都サンシャインギルドから来た調査員ナルだ。ここにいるコントラクターにも世話になることがあるかもしれん。よろしく頼む」
なるべく争いごとは避けたいと思って、こういう言い方をしてみたがあまり効果はなかったようだ。
「おいおい、ギルドマスター。そいつにダンジョンを調査させていいのかよ!?」
「こっちはよろしくしてやる義理はないんだがな」
「そうだぜ?あそこは俺達のナワバリだ!」
「そもそも本当にクラス4なのかよ?」
感じの悪い笑みを浮かべるコントラクターたち。
ミリアの言う通り本当に喧嘩を売られているようだ。
まあ、相手がその気ならサクッと分からせてやった方がいい。
「確かに、お前たちの疑問はもっともだろう。だが、私としても仕事の邪魔をされては困る。ここで実力を示そう。誰か相手になってくれるものは居るか?」
俺がそう言うと、月の街ギルドのコントラクターたちは顔を見合わせ合う。
「俺が行くぜ!」
そんな中真っ先に一人のコントラクターが自ら志願してきた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
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