第7話 秘密の特訓

 今日は1人でクエストに来ている。


 討伐対象はオーク、これをクリアすれば10歳でクラス2を達成できる。

 それ以上にミリアもエモニも居ない完全に1人の状態でのクエストに少しワクワクしていた。

 エモニの風邪は心配だが、前世で俺もあのくらいの時期はいろいろ風邪を引いていたし、両親も家にいる様だから俺が過剰に心配することはないだろう。


「さて、オークごときはさっさと倒して、今日は森の奥まで行ってみようか」


 オークの討伐は今の俺からすれば、大した難易度では無い。物心がついた頃から魔力を扱っていたおかげか10歳にして無理をすればではあるが、上級魔法を使うことが出来るほどの魔力量に達していた。

 この才はどうやら天賦のもののようで、いわゆる転生特典と言うやつなのだろうか。

 

◇◇◇

 

「風属性中位魔法『マルファス』!」


 3匹の群れで行動していたオークに向けて風の刃を放つ。

 

 そう言えば、この世界の魔法についている下位や中位、上位と言った部分は単に威力を表すもので名前部分が魔法の詠唱のようになっている。

 そのため、魔法の形は自由に変えられる。

 今回のように風の刃であったり、風弾のようにしたり、発動する形は自由自在なのだ。

 自由自在と言っても位が上がっていくことに魔法の影響範囲も大きくなるため、それを圧縮して扱うのはまた別の技術が必要であるそうだ。


 俺はサクッとオークを討伐すると、討伐証明となる青緑色の魔核を回収する。

 それからいつも以上に慎重に入念に身体強化魔法をかけて森の奥へと進んでいく。

 

 奥に進むにつれ、辺りはどんどん暗くなっていく。


「この辺りは本当に暗い――ん?」


 しばらく進むと急に視界が開け、眩しさに一瞬、目がくらんだ。

 視界が悪い森の中から突然現れた半径20m程の木も草も生えていない空間。

 森もストレスで禿げたりするのだろうか……なんて考えてみたが今はそれ以上に気になるものがある。

 その空間の中心にある白くモヤがかかった謎の存在。


「これがダンジョンの入口……いわゆるゲートってやつか」


 幸運なことに周りに魔物や人の姿はなかった。

 再確認の意を込めて、もう一度辺りを見回し、恐る恐るゲートに近づく。


 魔力の淀みとも言えるようなそれは俺を引きつけるような力があるように感じた。


「入って……みるか」


 本来クラス4以上しか入ることの出来ないゲート。

 しかしその危険性から周りに見張りのコントラクターやギルド職員がいることは無い。


 ちょっと、本当にちょっと入ってみるだけと自分に言い聞かせ俺は1歩足を踏み出した。


 突如視界がぐるぐると回り出す。

 ああ……俺はこの感覚を知っている。

 前世の最後の記憶。あの時の目眩と同じような感覚に襲われ思わず目を閉じた。


 しばらくして目を開けると、そこは先程いた森とは雰囲気が全く違う。


 言うなれば魔界のような雰囲気の場所だった。


「ここが、ダンジョン?」

 

 あわてて振り返る。

 そこには入ってきた時と同じような白いもやが滞留しているようだった。


 ミリアなど高ランクのコントラクターは行き来をしているが、俺の場合どんなイレギュラーが発生してもおかしくない。

 俺はもう一度ゲートを通り、同じ場所に戻れるかを確認した。


 結論から言えば、戻ることに問題はなかった。

 ただ、入った時以上の目眩に見舞われ、数分間座り込む羽目になってしまった。


 この目眩、ゲート酔いとでも呼ぼうか。

 この原因はなんだ?

 ダンジョンゲートの前で立ち尽くし、ゲート酔いの原因について考える。

 急な環境の変化に脳がおかしくなる?

 それとも魔力的な問題だろうか?

 はたまた別の理由か……。


 いくら考えても原因と呼べるものの正体は思い当たらなかった。


 だが、酔いならば克服する方法を一流ブラック企業マンだった俺なら知っている。


 勢いよく立ち上がり、もう一度ゲートを通り直ぐに戻る。

 また激しい目眩に見舞われるも足をとめずもう一度ゲート内へ、まるで体力テストの反復横跳びでもするかのような勢いでゲートへの出入りを繰り返した。


 酔いを克服する方法……それは慣れる事だ!


 もう何度出入りを繰り返しただろうか……。

 視界はおかしな色になっており、もはや見えているのかいないのかも分からない。


 だが俺は知っている。

 酔いというものは基本的に、ある一定のラインを超えれば途端に気にならなくなるということを。

 ありえないほどの体調不良を感じながらも、根気で足だけは止めずに動かし続けると、ついにその瞬間ときはやってきた。


 スっと視界が晴れる。

 妙なふらつきも、吐き気などの体調不良も一切が気にならなくなる。


 そうだ、この感覚。

 ここまでたどり着ければ、もう酔いを制御したようなものだ。


 前世では飲んだ後でも仕事ができるようにと必死に酒に慣れようとしたものだが、そんな経験も役に立つんだな……。

 こっちではすぐに慣れることが出来て良かった。

 

 ……飲み会の後オフィスに帰るの辛かったな。

 暗い闇の記憶が蘇ってきたが、今は10歳の少年ロティスだ。


 無理に飲んで忘れたいことも、無限に酒を飲ませてくる上司も存在しない。


 改めてゲートに向き直る。

 ゲート酔いを克服した今、俺を拒むものは何も無い。

 ちょっと、ちょっと探検するだけだから。

 もしかしたら強くなれるかもしれないし。


 そう自分に言い聞かせ、俺はもう一度ゲートをくぐりダンジョン内へ足を向けた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


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