第8話 ダンジョン探索

 ゲートをくぐる。


 やはり何度見ても異様な光景だ。

 赤黒い空に毒々しい色をした草木に花々。

 空気ですら色がついているかのように思える。


 絶望勇者の世界では、ダンジョン=魔族の領地のような扱いで、勇者であるエモニは行く先々でそのゲートを通ってそこに住む魔族を勇者魔法でボッコボコのギッタギタにしていた。


 ダンジョンは小さな別世界のような場所で、横の広さは大きいものでも地球の孤島一つ分程度。歩いて回り切れる程度の広さだ。

 どのダンジョンも縦に階層が分かれており、最深部にはそのダンジョンを統べる魔族が住んでいる。

 

 ちなみにこのダンジョンは全部で5階層、魔族伯爵ストイの屋敷が最深部にあったはず。

 

 ゲーム内ならば、勇者覚醒イベントの後すぐにエモニによって蹂躙されるダンジョンであるため、まだ未攻略ダンジョンのはず。

 今の実力ではどうやっても5階層にたどり着く前に死んでしまうだろうが、今の限界を知っておきたい。

 そう思った俺はダンジョン探索をしてみることにした。


◇◇◇


 ミリアは街のお偉いさんの護衛依頼を終えて家に帰って来た。

 本当なら、帰るのは明日の予定だったがロティスに早く会いたい一心で2日かかる道のりを1日で帰って来たのだった。


「たっだいま~!ロティス~帰ったよ~」


 しかし、いくら待てども返事がない。

 

「あら?出かけてるのかしら?」


 ミリアは近くに住む親切な家族、エリアさんの家を訪ねた。


「エリアさん、こんにちは!ロティス来てませんか?」


「あら、ミリアちゃんこんにちは。今日はうちの子が熱だしちゃってねぇ。ロティスは朝様子を見に来たっきり見てないよ」


「そうですか……」


 ロティス、どこに行っちゃったのかしら……。


 ミリアはロティスを捜し歩くのだった。


◇◇◇


「アイツはハイコボルトだな……クラス3相当の魔物か。手合わせにはちょうどよさそうだ!」


 ダンジョンの探索を始めた俺はオークやコボルトなど普段から倒している魔物を冷静に魔法で処理しながら、1階層の奥の方まで進んできていた。


 そして下りの階段の前に立つハイコボルトと対面していた。

 ゲームなら階層主、とかそう言ったところだろうか?


「せっかくだし、不意打ちはせず真正面から戦ってみよう」


 そう考えて足音や気配を隠すようにかけていた身体強化魔法を解除する。

  

「GUGYAAAAAAAA!!」


 ハイコボルトが俺を視認し、雄叫びを上げた。


「よし!いくぞ!火属性中位魔法『カークス』!」


 普段は森ということもあり中々使うことの難しい火属性の中位魔法を放つ。


 人一人くらいなら簡単に飲み込めるほどの火球がハイコボルトを襲う。

 がしかし、ハイコボルトは右手に持っていた大きな剣で俺の魔法を振り払った。


「おお、あの剣もしかして魔法耐性付きか?」


 魔法耐性……魔核やダンジョンで取れる特殊な材料を加工して作られた武器や防具には魔法に対する何らかの効果を持つことがある。

 その一つが今言った魔法耐性だ。

 この魔法耐性はその名の通り、魔法に対する抵抗力を持ちこのハイコボルトのように魔法にぶつけることで魔法を消すことなどができる。


 もちろん、素材によってできる範囲には制限があり、得意な属性と言うのもあったりするのだとか。


 絶望勇者の世界では勇者魔法という他の力の介入を許さない圧倒的な魔法があったため死に設定となっていたが……。


 俺が感心している間もハイコボルトが待ってくれるわけではない。

 強靭な足で地面を蹴り、急接近しておもむろに剣を振るった。


 あの剣に魔法耐性がある以上、障壁魔法や土属性魔法による防御は難しい。

 そう考えた俺はとっさに回避行動をとって、ハイコボルトの攻撃を避ける。


「ゲームじゃ死に設定だったが、実際に相手にすると厄介だな魔法耐性。これはどうだ!水属性中位魔法『テティス』!」


 大岩を砕くほどの勢いの水魔法が再びハイコボルトを捉える。


 しかし、剣を盾のようにしたハイコボルトは俺の水魔法を正面から受けきって見せた。


「水魔法の方が通りはよさそうだが……もう少し圧縮するかどうにかしないと通らなそうだな」


 さすがはクラス3相当のハイコボルトだ。


 改めて奴の顔を見ると口角を吊り上げ、煽っているように見えた。


「この野郎、たったの二度魔法を止めたからって調子に乗りやがって!」


 ハイコボルトの攻撃をよけながら、攻略方法を考える。

 さっきの手ごたえからして、水属性の上級魔法をぶち込めば倒せそうだが、ここまでくる間にも大分魔法を使っている。

 この状態で上級魔法を使って、もう一匹こいつと同じレベルのハイコボルトに遭遇してしまいでもしたら最悪死ぬし、逃げてもゲートの外までハイコボルトを連れて出ることになってしまうかもしれない。

 魔法が十分に扱えない状態ではコボルトやオークでも十分に危険だ。


 だとすると隙をついて中位魔法を叩き込むか、まだ不慣れだが圧縮を試すかの二択だ。


 ハイコボルトが大きく剣を振り上げた瞬間、俺もそれに合わせて大きく後ろへ飛びのく。

 するとまだ近くではないがオークの群れが見えた。


 こいつは隙を見ている暇はなさそうだ。

 覚悟を決めて一度深く息を吐きだし呼吸を整える。


 あいつの剣ごと、魔法耐性ごと貫けるくらい固く強く圧縮しろ。

 

「水属性中位魔法『テティス』!」

 普段よりも少し長く溜めをつくり、水の球を握り拳程度のサイズまで圧縮する。

 そしてそれを再度こちらへ向かってくるハイコボルトに向けて射出した。


 身体強化魔法無しではとても目で終えないほどの速度で打ち出された水の弾丸は、とっさに剣の腹で受ける体制を取ったハイコボルトの剣を打ち砕き、そのままみぞおち付近に突き刺さる。


「GAGYAAAAAAA!!!!」


 先ほどの雄叫びとは違う悲痛の叫び声をあげ、ハイコボルトを吹き飛ばした。


「チッ、まだやり切れるほどではなかったか……だが、剣さえなければ!水属性下位魔法『ウェーパ』!」


 細かい針のようにした無数の水魔法を使ってぐったりとしていたハイコボルトにとどめを刺す。

 最後には悲鳴も上げることなく、塵となっていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


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