第6話 合格

「はい!ということで合格おめでとうございます!お二人は今日から依頼請負人コントラクターとなりました」


 あっさり終わってしまった登録試験のあと、とんぼ返りしてきた月の街ギルドで俺とエモニはクラスの証明証となるバッジを受け取っていた。


「ほんとに私も貰っちゃっていいのかな……結局コボルトを見つけたのも倒したのもロティスだったし」


「大丈夫ですよエモニちゃん。正直なところロティスくんの身体強化魔法について言っている時点でその辺のクラス1~2のコントラクターよりは強いですから」


 エモニの言葉に登録試験を担当してくれたギルドの受付嬢が昼前から飲んだくれているコントラクターの男たちを指さしながらそう言った。


「おいおい、ミナちゃ~ん。そんな小さな女の子が俺より強いってことはないだろうよぉ?」


「そんなことあると思いますよ?タイガさん」


 なぜかエモニを間に受付嬢と飲んだくれコントラクターに火花が散っている。


「ロ、ロティス……どうしよう……」


 う~ん、そうだなぁ。

 確かにエモニの実力は間違いないと俺も思う。

 だが、この自信のなさは有事の際に大きな問題につながってしまう可能性がある。


 よしっ!決めた!

 

「エモニ、あの人倒せると思うか?」


 俺は受付嬢と言い合いをしているタイガというコントラクターを指しながらエモニに質問した。


「えっ!?あの人に?む、無理だよ。だって私の二倍くらいの身長だよ!」


 確かに筋骨隆々という言葉が似合いそうな大男だ。

 

 でも――

「じゃあ、俺とあの人だったらどっちが勝つと思う?」


「それは……ロティスが勝つ」


 少し迷いを見せたが明確に俺が勝つというエモニ。

 こう思ってくれることは嬉しいが、これが依存になってしまってからでは対処ができない。


「なら、エモニにだってできるんじゃないか?あの受付嬢のお姉さんも言ってただろ?俺の身体強化魔法についてこれてるだけでも十分すごいって」


「……うん」


「よし!ミナさ~ん!」


 エモニが頷いたことを確認するとすぐに言い合いをしている受付嬢を呼ぶ。

 すると呼ばれたミナさんだけでなく、言い合いをしていたタイガや周りで見ていた他のコントラクターたちの視線も一斉にこちらに集まった。


「エモニがやっぱり自分の実力も証明したいってことで、そのタイガさんと戦うって言ってます!」


「え!?」


「「「「「おおおおおおお!」」」」」


 エモニはどうして!?という顔を向けていたが、それ以上にギルドは盛り上がってしまい今更何も言える雰囲気ではなくなっている。


「嬢ちゃん、言うな~」

「コントラクターならそのくらいの自信は大切だろ!」

「やれやれー!」

「あんな小さい子にもなめられてるタイガって……」


 登録試験を受けに来たと言った時以上の盛り上がりを見せるギルド内。

 聞こえてくる声にはただの煽りからエモニに感心する声、タイガへの嘲笑までがあった。


「いい度胸じゃねぇか。いくらあのミリアの弟子とは言え俺に勝てると思ってるのかぁ!?」


 その声が聞こえてか、はたまた俺の発言で完全に頭に血が上っているのかは分からないがタイガは予想通り乗って来た。


「そこの銀髪のミリアの息子と二人がかりでかかって来られても俺は余裕だぜ?」


「それはないよおじさん」


 俺とエモニの二人でも余裕だというタイガに先ほどまでおどおどしていたエモニが急に佇まいを正しはっきりと言い返す。


「あぁん?」


「ロティスならおじさんを倒すのに左手だけで十分」


「ははっ、嬢ちゃん世界は広いんだぜ?できないことは言うもんじゃない」


「ロティスはすぐにミリアさんも超えるってミリアさんよくそう言ってる。そんなロティスができないはずない」


「嬢ちゃん、それはお世辞ってもんだ。まあ、子供には難しい話か」


「……分かった。そこまで言うなら私がボコボコにしてあげる。私なんかロティスの足元にも及ばないけど、そんな私に負けたらおじさんがロティスに勝てるはずはないから」


「お~言うじゃないの嬢ちゃん。いいぜ、相手になってやる」


 受付嬢との間で散っていた火花がなぜかエモニとタイガの間に移っている。

 ……こんな展開は完全に予想外だぞ。

 まあそれでもエモニが戦う気になってくれたのなら目的は達成か。


「エモニちゃんも本当にやる気みたいですね。わかりました。ではギルドの演習場へ移動してください」


 エモニとタイガを筆頭にギルド内で飲んだくれていた大勢のコントラクターがぞろぞろと演習場へ移動する。


「それでは勝負内容は有効打を先に当てた方が勝ちということでよろしいですか?」


 受付嬢のミナさんが勝敗のルールを確認する。


「ああ、構わないぜ」


「私も大丈夫です」


「では――」

「ちょっと待ってくれミナちゃん。俺は身体強化魔法だけでいいぜ」


 タイガが明確に手を抜くと言っている。

 有効打を先に当てた方が勝ちというルール上どうやっても離れていても攻撃可能な魔法の方が有利だろうにそれを使わないと言っているのだ。

 ニタニタと人の悪そうな笑みを浮かべながら挑発的な態度を止めないタイガにエモニも反応した。

 

「では私は土属性下位魔法のみで大丈夫です」


「ほぉ……ずいぶんと余裕だな嬢ちゃん。自分から手札を開示するなんて」


「はい、余裕です」


「なぁっ……チッ、まあいい!目にもの見せてやる!」


「では改めて、試合開始!」


 お互いに煽り合って始まったこの勝負だったが、その内容は終始圧倒的なものだった。


「行くぜ!身体強化――」

「土属性下位魔法『ガンジュ』」


 ほぼ同時に魔法を発動した両者だったが遠距離攻撃魔法を使ったエモニの魔法の方が先に着弾する。


「このくらいの魔法、打ち砕いてやる!」


 強化された拳でエモニの土の弾丸を弾こうとするタイガ。

 しかし……


「なっ!く、砕けねぇ!なんだぁ!この土はぁ!!?」


 そのままエモニの弾丸に徐々に拳が押し返されていく。


「なっ、くっ、お、おいっ!どうなってやがる!」


「その泥団子はロティスが作り方を教えてくれたの。つまり私とロティスの絆の堅さそのもの。おじさんの拳ごときに砕かれるはずがない」


「は、はぁ?絆の堅さ?なにがどうなって――」

「土属性下位魔法『ガンジュ』」


「ガハッ」


 一発目の弾丸はなんとか払いのけたタイガだったが崩れた体勢では二発目をもろにくらってしまいそれが有効打となった。


「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」


 たった二発の魔法で勝負を決めて見せたエモニに観衆は大いに盛り上がる。


「登録したての子供のコントラクターがクラス2のコントラクターに勝ったぞ!」

「さすがミリアちゃんの弟子だな」

「この子より強いっていう銀髪はどうなってやがるんだ?」


「ロティスっ!私勝てたよ!」


「おう!だから言っただろ」


「うん!さすがロティス!」


「少しは自信ついたか?」


「うーんまあ、少しはついたかも!」


「そっか。なら良かった!」


 こうして中々に騒がしい俺達の登録試験は無事?終了した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも面白い、応援したいと思っていただけたら☆☆☆評価、レビュー等していただけると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る