第5話 戦闘デビュー
俺がこの世界に転生してから数年の歳月が流れた、と思う。
この世界では誕生日の概念が薄く、成人の儀と呼ばれる催しが開かれる周期でみんな一歳ずつ歳をとると言うようにカウントしている。
今の俺は前世なら毎日学校に通い帰ってからも遊ぶ体力が有り余っていた小学生くらい。
魔法を使う腕は相当に上がったと思う。
この日俺はある決意をミリアに話していた。
「ロティス。本気なのね?」
いつになくミリアが真剣な表情で俺を見つめる。
「うん。俺はコントラクターになる」
その目にしっかりと向き合って答えた。
「あなたはまだ8歳。そんなに早く決めなくてもいいのよ?確かにロティスの魔力を操る才能はすごい。正直天才と呼ばれてもおかしくないわ」
でも、と少し言い淀む。
「でも、8歳なんて本当に早い。早すぎるくらいよ?」
それでも本当になるの?と念を押された。
「それでもだよミリア。俺は強くなりたい」
俺の目から何を感じとったのか深く息を吐くミリア。
でもそれは決してため息なんかじゃなく、ミリアの決意を固めるものだった。
「わかった。何がロティスをそこまで駆り立ててるのかは聞かないけれど、強くなりたいなら私が鍛えてあげる!コントラクターになる前に私からの合格をもぎ取ってみなさい!」
こうして、ミリア先生によるロティス育成計画がスタートした。
とは言っても俺があの日目覚めてから多分1年ほどした後の3歳になる頃にはこの世界で魔力と呼ばれる存在を明確に知覚していたし、自分でどうにか動かせないかと試行錯誤していた結果、魔力を動かし魔法を使えるようになっていたため、主に体の動かし方などの訓練になった。
「ロティス!すぐジャンプしちゃダメ!飛んだら着地するまで次の動作ができないでしょう?」
「ロティス!戦闘中は目の前のことだけを考えているようじゃダメ!常に二手三手先を考えて動くのよ」
ミリアは想像以上に熱血指導者だった。
だが、だからこそ効果の高い、質の良い訓練が出来た。
さらに俺は同時に魔力を扱うことも忘れない。
体に魔力を纏わせる身体強化魔法、各属性魔法の単調にならない使い方などを日々考え、訓練し続けた。
俺が訓練を始めて1年が経つ頃にはいつの間にかエモニも加わり、3人で訓練するようになっていた。
エモニいわく、ミリアと俺を2人にしておくのは危ない気がするとの事だった。
まだ言葉も話せない頃から面倒を見てもらっているのに、一体何が危険なんだろうか……。
◇◇◇
そんなこともありながら訓練を続け10歳になる年。
「こうやって毎日朝からロティスと訓練するようになってもう2年だね」
「うん。いつもありがとうミリア先生」
「ふふっ。先生も楽しかったけど、そろそろかしらね」
「え?」
「合格よ、ロティス。今のあなたなら相当のイレギュラーに遭遇しない限り、大抵のことには対処できる実力があるわ」
「やったね!ロティス!」
「ああ、これでまた一歩成長できる」
ようやくミリアからコントラクターになる許可が降りた。
ゲーム上で俺が死ぬまであと5年と少し、実戦経験を積みながら強くなるしかない。
朝からエモニと2人で月の街ギルドを目指して歩く。
「ロティス!ついにだね!」
「そうだな!とりあえずは登録試験をしっかりと突破しないとな!」
「うぅ……私大丈夫かなあ?」
「大丈夫さ。ミリアのスパルタ訓練にも音を上げずに付いてきたんだ!」
「う、うん!ロティスが言うなら私も自信を持ってみる!」
「おう!その意気だエモニ!」
俺たちの顔はギルドでは知れ渡っている。
それもそのはずでこの街でいちばん強いコントラクターであるミリアの子とその弟子だからである。
「あら、今日は2人だけ?珍しいわね」
ギルドの受付嬢が俺たちを見かけて話しかけてきた。
「はい。今日は登録試験を受けようと思って」
「はいはい……え?なんて?……お姉さんよく聞こえなかったかも。もう一回言ってもらえる?」
あれ、聞こえずらかったかな……。
もう一度息を吸い直しはっきりと言葉にする。
「登録試験を受けに来ました!」
「ええ!?」
驚愕の表情を浮かべる受付嬢。
それを見上げる俺はこの世界の女性はどんな表情をしても美人だなあと場違いな感想を持っていた。
「いくらミリアちゃんの弟子でも……だってあなたたちまで10歳にもなっていないでしょう?」
「今年10歳になるので大丈夫です!」
煩悩をかき消し、強い目で受付嬢を見る。
横ではエモニがおろおろしていた。
「はぁ……、あなたもそういう目をするのね。……良いわ。でも登録試験の内容は子供だからって加減したりしないわよ?それこそ命に関わるんだから!」
「もちろんです!よろしくお願いします!」
そう言うとギルド中から歓声が上がった。
「おうおう!あのミリアちゃんの息子だ!そうじゃないとな!」
「よく言ったぞ坊主!」
「隣の嬢ちゃんも頑張れよ!」
そうして俺たちは登録試験へと送り出された。
登録試験はクラス1指定の魔物を試験官の前で討伐して見せ、その手際や魔法の強さなどを試験官が判断するという形で行われる。
「では、今回の登録試験の対象となる魔物はコボルトです」
俺たちの前で試験内容を発表しているのは先ほどの受付嬢だ。
どうやらクラス2のコントラクターのようで、この世界の女性はみんな強いのかな?と思った。
「私も見守りますが危険と判断するまでは手を出しません。いいですね?」
「「はい!」」
二人そろって返事をする。
「では、試験を始めます。索敵から始めてください!」
俺たちは森へ入り、足音を殺しながら気配を探る。
「ロティス、わかりそう?」
「近くにはいなそうだが……ちゃんと確かめよう」
俺は身体強化魔法で全身の知覚器官を強化した。
!微かに物音が聞こえる。
「エモニ、こっちだ」
「も、もう見つけたの!?」
「いいから、行くぞ!」
「う、うん!」
ビンゴ!
音のする方に向かうと二匹のコボルトが歩いているところを見つけた。
「ロティスすごい!」
「しっ!もうここからは身体強化を忘れずに。俺が飛び出して注意を引くからその間にエモニは後ろから奇襲してくれ」
「わかった!」
そう言って身体強化魔法を発動するとエモニは音を立てないギリギリのスピードで走り始めた。
よし!行こう!
エモニが奇襲できそうな辺りまで進んだことを確認した俺は一気にコボルトに向かって距離を詰め、飛びかかり魔法を発動する。
「火属性初級魔法『フラウ』」
わざと目立つように魔法も火属性のものを使った。
「ガグアァァ!?」
二匹のコボルトが声を上げ、俺の方へ重心を傾ける。
「いまだエモニ!」
エモニに合図を出しながら後ろに大きく飛びのいた。
そうして、改めてコボルトを見て気が付いた。
コボルトは振り返ったのではなく、こちらに倒れてきていた。
「あれ?」
完全にコボルトが倒れ伏し、反対側の木陰から飛び出してきたエモニと目が合う。
「……ロティスの魔法で倒れちゃったね?」
「……え、え?」
……なんかコボルト死んでない?
「その反応をしたいのはこちらなのですが……まずはおめでとうございます。お二人とも合格で問題ないでしょう」
いつの間にか後ろに来ていた受付嬢もとい試験官に言われ、いつの間にか登録試験は終わってしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
ここからはまた大きく時間を飛ばすことなく書いていきます。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白い、応援したいと思っていただけたら☆☆☆評価、レビュー等していただけると嬉しいです!
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