第7話 三つの作戦 ⑤ stay K
[連絡ありがとう。一部始終、配信で見てたわよ。大変だったわね]
俺がひとまずアリサにメッセージを送ると、二分もしないうちに返信が来た。
[アリサなら真美堂まで戻ってきてるわよ、私がフォローしておくから大丈夫。ルークくんの公演も決行みたいだし、会場のロビーで待ち合わせしましょ]
そうか、真美堂はここからすぐだもんな。どこにいったかと思ってたが、エリカのところなら何事もないだろう。俺は「了解」とだけ返信すると、サクラのチャンネルについたコメントをざっとチェックする。[サクラちゃん最強!!!][アリサ大佐は今日も健在][y12oMK:サクラちゃんお見事][アリサちゃん無理とか可愛すぎる][ブシドー・サクラが剣を選んだのは良い選択だった][Fujimoto.Mama:急に出てきてびっくり、アザーズ! 二人ともお疲れさまでした。]……数が多すぎで全部に目を通すのは諦めた。
自衛隊と地球防衛連合軍が到着する頃には、ムカデアザーズはとっくに塵となって消え失せていた。サクラはやや落ち込んでいるものの、冷静に軍の人たちに状況を説明している。それにしても防衛軍のヘリから渡辺大佐が飛び出してきた瞬間、警察も自衛隊の人もみんなギョッとして最敬礼してたな……なんとなくそんな気はしてたがこの人めちゃくちゃ偉い人なんだな。
「見ていたよサクラくん、素晴らしい燕返しだったぞ! 空手よりも凄みが増しているんじゃないか!?」
「はい……でも、アリサさんを怒らせてしまいました」
「怒った? アリサくんが? 何故だね?」
「アリサさんの指示に従わなかったので……」
「何だ、そんなことか!」
渡辺大佐は顔を輝かせてがははと笑った。……これはっ、「オッサンの良かれと思って余計な発言」が炸裂する前に止めないといけない流れか!?
「大丈夫だサクラくん、アリサくんはサクラくんがもがっ」
「……大佐、失礼、それ以上はいけません」
「もがががもが」
「他バレはダメです、絶対」
飛び出しかけた俺の目の前で、がはははと大笑いした渡辺大佐の口を、大佐の部下っぽい人ががぼりと塞いでずりずりとどこかに引きずっていった。この前ヘリコプターに乗せてもらった時に見た人のような気がする。サクラは連れ去られる大佐をキョトンと眺めていたが、やがてまた肩を落としてため息をつく。俺は自衛隊の人が吹っ飛ばされた車の撤去をしているのを横目に、サクラの隣に並んだ。
「……サクラ」
サクラは何も言わない。俺は頭をガリガリと掻いて言葉を探す。
「お前はさ。倒せると思ったから行ったんだろ? 早く倒せばそれで済むって」
「……うん」
サクラを見上げると、いつもの綺麗な横顔が、ムカデアザーズが暴れていたあたりをじっと見ていた。
「すごいことだぜ? 誰にだって出来ることじゃない。アリサは出来ると思わなかったからやらなかったんだ」
「……うん。サクラは、倒せると思ったから倒した。それだけ」
サクラは独り言のように呟く。
「でも……それで、アリサちゃんを怒らせちゃった」
「怒ってねえって」
「……無理って言ってたよ」
「大丈夫。あれは怒ってたんじゃないから」
「……そう?」
「そうだって」
オッサンの俺の言葉は、中学生のお前の心にどれくらい響くかな。そんなことを考えながら、でも俺は笑うくらいしかできない。サクラは俺の方を見ると、少し寂しそうに笑い、またため息をついた。
「サクラは、レグルスを倒すために強くなったつもりだけど……それだけじゃダメなんだね」
「……駄目ってわけでもないと思うけどな」
「うん」
「……アリサ、今は真美堂にいるらしい。ルークの公演には来るってエリカが言ってるから。気になるならそん時に謝ればいいさ」
「……うん」
サクラはそれきり何も言わず、自衛隊が車を撤去していくのをじっと眺めていた。
渡辺大佐から解散の許可が出て、俺たちはルークの公演会場のセカイ座まで移動することにした。大した距離ではないので大通りを歩いていく。道すがらの商業ビル壁面の大きな広告に、アリサの写真がでかでかと貼られていた。金髪に赤いドレスの、いつも笑顔の魔法少女。だが広告のアリサは微笑まず、真っ直ぐな眼差しをこちらに向けていた。
アリサは、アリサのために、可愛い。 ──stay K
真美堂コラボのコスメの広告のようだ。アリサのすぐ横に口紅やらパレットやらが品よく置かれている。カメラの前ではキメ顔を崩さず、会議では自分のランクに固執して、……サクラの前だとつっけんどんになってしまう、世界最強の魔法少女。その彼女が微笑まず、真摯な眼差しで見つめている。今までのアリサを見ている限り、あのムカデアザーズくらいなら余裕綽々で勝てるだけの実力はあるだろう。けれどアリサは戦闘よりも安全と避難を優先して、そこにいる人たちに呼びかけた。大丈夫、勝てる、みんな助かる。あたりの空気が一瞬にしてポジティブなものに変わって──俺は正直、初代魔法少女カグヤが現れた時のことすら思い出した。
少し前の俺なら、この広告のキャッチコピーを見て「魔法少女様は自信満々でよろしいこった」とでも毒づいただろうか。シールドを張って両手を震わせ、それでも「大丈夫!」と言ったアリサ。お前はお前のために可愛いっていうなら、お前はあの時、誰のために必死に笑ってたんだ?
俺が立ち止まってしまった横で、サクラも足を止めてアリサの広告をじっと見ている。
「……大丈夫だって。アリサは怒ってないよ」
「……うん」
俺が声をかけても、サクラは小さく頷くだけだった。
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