第6話 カグヤとアマツキ ⑤ やっぱり最下位サクラ
「大体の話の流れはつかめたな、諸君。アマツキ適性評価のため、勝手だが君たちの配信動画をAIカグヤに取り込み、八項目で評価させてもらった。そのチャートを今から各人のスマホに送るので受信するように」
渡辺大佐が言いながら自分のスマホを何か操作する。すると全員のスマホが一斉に振動やら着信音やらを鳴らした。俺のスマホも鳴ったので見てみると、「魔法少女適性評価結果受信 ダウンロードしますか?」と表示されている。はいを選択すると受信が始まり、数秒もしないうちに終わった。それを開くと、スライドデータにレーダーチャートが記載されたものがずらりと並んでいる。
「評価項目は優美さ、フィジカル、魔力適正、知性、感受性、表現力、視覚的魅力、協調性だ。これらは天羽家がアマツキを継承で重視された項目をAIカグヤが整理・抽出したものだ。各項目高評価が十、低評価が一の十段階評価だ。スライドは成績順に並んでいる」
俺は話半分に聞きながらスライドをざっとスクロールしていく。一番上はもちろんアリサ・ピュアハートで、チャート面積が大きく形もほぼ円形だ。さすがトップ魔法少女だぜ。
「適性評価は世界中の魔法少女に対して行われたが、このデータには二本所属の魔法少女のみ抜粋して掲載している」
魔法少女は世界中で二千人はいるもんな、全員を一か所に集めるわけにもいかないし、アリサが有力候補一位なら、日本の魔法少女から試すのは効率がいいってことなんだろう。周りは自分のチャートを探しているのだろう、うわーやらきゃーやら騒がしい。
……それにしても、優美さ、感受性、視覚的魅力ねえ。戦闘要員としての魔法少女の評価にそんなパラメータが必要なのか? もともとは伝統の舞を継承してきたって言うから、その舞を受け継ぐための基準をそのまんま持ってきたって感じがするな。渡辺大佐とかはそのへんは検証しなかったのか? AIのいうことを鵜呑みにしてるだけじゃ駄目なんだぜ、手品だってAI満載のネオマジックは杓子定規だって俺は思っている。それにしてもサクラのチャートはどこだ……俺は予感がしつつずっとずっとスクロールしていく。 ……あった、ブシドー・サクラのチャート。
円形のグラフエリアに対して、斜め右上に向かう角のようなグラフだ。角の頂上はエリアをはみ出していて見えない。他のところは数値が小さくて、中央の方にちんまりと円形があるかないか。ひょろ長いごぼうが枠を突き出ているみたいなチャートの形になっていた。
「……やっぱりぃ……」
サクラのチャートをスワイプしても、それ以上下にスクロールされることはなかった。サクラのチャートが一番下、つまりこの評価とやらでは一番下ってことだ。数字知りたいか? まさかのフィジカルが十を突き抜けて二十! 魔力適性が六。あとは感受性が三、優美さと協調性が二、表現力と視覚的魅力が一。動画をもとに解析をかけたってんなら、初期の配信のそもそもサクラが移ってない奴も取り込まれたってことなのか? それにしてもフィジカルが突き抜けてるのは予想していたが、上限の十を通り越して二十って! そのへんは柔軟に評価してくれた点では有難いが、評価点合計ではきっちり十点分しか加算されていなかった。ちっ、ケチなAIだぜ。
「サクラ、おい、お前ドンケツだってよ」
「うん」
隣のサクラは、スマホをすっすっといじりながら適当に答えを返してくる。
「別にいい。サクラにアマツキは必要ない」
「必要ないって、お前、強くなりたいって言ってたじゃねえか。アレめちゃくちゃ強そうな伝説の武器だぞ? お前が持ったらメッチャ強くなるぞ? それでみんなを助けられたらめちゃくちゃ良くないか?」
「いらない。サクラ日本舞踊苦手だし」
「いや日本舞踊じゃなくて、あれを武器にして戦うって話だよ」
「武器は刀にするって決めた。だからいらない」
「お前なあ……」
俺が呆れて何と説得したものかと言葉を切った時に、あれ、とサクラは目を見開いた。
「ミラクル☆ナオがいる」
「はっ!?」
俺はギョッとしてスクロールをさかのぼる。行き過ぎてアリサ・ピュアハートまで行ってしまい、もう一度目を凝らしながらゆっくりとスクロールし──
「マジか!? マジで!?」
思わずでかい声が出てしまった。魔法少女ミラクル☆ナオの適性結果、八項目八十点満点中、四十六!
「アマツキ、そんなに欲しいならナオがやりなよ、サクラより点数いいし」
「うるせー俺は魔法少女じゃねえ! すいませーん! すいませんカグヤさん、渡辺大佐ー!!!」
サクラが肩を振るわせて笑っているのを軽くどつき、俺はしゅばっと挙手しつつ立ち上がった。魔法少女たちが、渡辺大佐が俺の方を振り返る。
「あのっこれ! 何かの間違いだと思うんですけど! アシスタントの俺まで評定されてるっぽいんスけど!?」
「えっ? 本当か?」
渡辺大佐は不思議そうに首を傾げるとスマホをすいすいと操作し、あ、と声を上げた。
「本当だな。──カグヤ、紀伊國さんのデータが混入してしまったようだ」
[間違いおへんえ]
AIカグヤがほほほと楽しそうに笑った。
[サクラはんのチャンネル解析してたら、何や可愛らしい子がおるなあ思いましてな。あんまりにも可愛いかったさかい、贔屓させてもろうたんどす]
「なあんだ、そういうことだったのか! 早く言ってくれたまえ、カグヤ」
[ほほ、堪忍え]
「いやあのそう言うことじゃないですからっ!」
楽しそうに笑い合う二人を見て俺はバンバンと机を叩く。
「俺はっ! 紀伊国直虎日本男児三十二歳ですっ! スポンサー契約でこんな格好させられてますが男です、魔法なって一切使えないアラサーのオッサンですっ!」
[まあ……流行りの男の娘いうやつどすか? 面白うおすなあ]
「ちーがーいーまーすっ!!!」
[直虎いうたら井伊直虎と同じお名前どすなあ、せやさかい、男勝りなお嬢さんやったんどすか?]
「だから! 違いますってば! 俺はアシスタントなんです別々にしないで下さい! おいサクラも何とか言えよ!!!」
俺がぎゃんぎゃん喚いているのを横でニヤニヤしながら見ていたサクラは、あろうことかにっこり笑って見せた。
「ナオは可愛いよ。自信もって」
「うるせーくそサクラ何の自信だってんだよ!!!」
ズバーン!!!
俺のツッコミとほぼ同時にものすごい音が前の方からした。ギョッとした俺がさすがに口を閉じると、アリサ・ピュアハートが机に手をついてゆらりと立ち上がったところだった。後方の俺たち──いや、俺ただ一人をぎろりと睨む、ヒエッなんて鋭い眼光、射殺される!? アリサは般若のような顔をした後、ぐるりと前を向いた。多分同じ顔でAIカグヤを睨んでいるのだろう。
「話はもう分かったから! 早く審査して!!!」
[──あい分かった]
AIカグヤはまたしても微笑み、渡辺大佐も頷いた。俺は何となくアリサの剣幕に負けてしおしおと座り直す。大佐はポケットから電子キーを取り出すと、アマツキを乗せた台の傍らで何か操作をする。ぽーんと解錠音がすると、ガラスケースが分解され、車の窓のように台座の中にしまわれていった。
「審査は単純だ。アマツキに触れられるか。触れられたとして──何秒持っていられるか」
「……秒?」
立ったままのアリサが渡辺大佐を見てせせら笑う。
「そんなんでいいの?」
「……最初に試してみるかい、アリサくん」
大佐は嫌な顔をせずにアリサに微笑み返し、台座から数歩離れた。
「いいわよ、やってやろうじゃない」
アリサは言いながら、肩にかかる金髪ツインテールを後ろに払った。
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