第5話 サクラの不在 ⑧ サクラ復帰!!!
ボロボロの道着を着たグレイトマッスルサクラに、魔法少女服を着たオッサンの俺がおんぶされて空を飛ぶ。宇都宮まで十分くらいで着けるかも、とのことだ。
「サクラ! おい! テメェこら、散々既読無視してくれやがって!」
サクラの肩越しに見る街並みはみるみる雲の下になって霞んでいく。俺は風の音に負けないよう、サクラの首にしがみついて怒鳴った。
「一ヶ月以上何してたんだよ、危うくチャンネルが女装オッサンの筋トレ配信になるとこだぞ!?」
「……いろいろ、考えてた。魔法少女のこと」
「それはそーなんだろうけどよ!? さすがにまるっと既読無視はねえだろ!」
「家の裏の山に籠ってた。電波全然届かなくて、家に帰った時にまとめて見てた」
「そこでスタンプの一つも寄越せよお前はよぉ!」
「ごめん」
サクラは前を向いたが、俺を乗せた背中は楽しそうに小刻みに揺れている。
「それで……何してたんだよ、結局」
「……レグルスと戦った時、アリサちゃんがシールドを使ったり、ヒーリングができる魔法少女がいたでしょ。いろんな強さがあるんだなって、気が付いたの」
「おう」
「それで……サクラも空手だけじゃなくて、武器を使ったり、魔法みたいなことが出来れば、もっと強くなれるかなって。自分は何ができるかな、何が合うかなって、探してた」
「……おう」
「ナオが、魔法少女のアニメとかをいっぱい見ろって言ってたでしょ。だからストリーム配信で見れる奴をいくつか見てみた」
……俺の言うこと覚えてたのか。サクラが前を向いているのをいいことに、俺の口許がにやける。
「いろいろ発見があったよ。一人で戦う子もいれば、みんなで戦うチームもあって。チームには一人ずつに個性があって、役割分担してて……それで、魔法や武器を工夫して倒すでしょ。そういうのを見ながらずっと考えてた」
「そうか、魔法少女らしい魔法少女への第一歩だな」
「ナオが着てるみたいな服は、邪魔にしかならなそうだから着ないけど」
「着ないのかよっ!?」
「……ナオ、着てて邪魔じゃない? あちこち当たって」
「……邪魔です……」
「だよね」
またサクラの背中が揺れる。
「それで……二つ、方向性があると思った。一つは一人で何でもできるタイプ。武器を持って、シールドも出来て、ヒーリングも出来て……どんな状況にも対応できるような子」
「汎用タイプって奴だな」
「うん。それでもう一つが、チーム戦する子達の、一つの個性を突き詰めるタイプ。攻撃する子、サポートする子、作戦を立てる子、みんなで集まって敵を倒す」
「特化型だな」
「そう。それで、どっちがいいかなって思って。……シールドやヒーリングを使える子はもういるのに、今からサクラがそれを覚えても、あんまり意味はないなって」
「……おう」
背中越しに見える景色は都心の高層ビル群や電波塔を通過して、住宅街ばかりになってきた。
「だからやっぱり……サクラは、強くなろうと思った」
背中で聞いていても分かる、凛とした物言いだ。
「……おう」
こいつ今どんな顔してるんだろうと思いながら、俺は相槌を返す。
「レグルスには、魔法少女の誰も勝てなかった。でも多分、サクラが一番あいつに勝てる可能性が高い。だからサクラは強くなってアイツを倒す係なんだ、って思って」
「うん」
「空手だけじゃなくて、強そうな武器があるといいなって思った。レグルスも音の攻撃とかしたし」
「あれは耳痛かったよなあ」
「でしょ。那須与一もいいけど、遠距離射撃だから、たぶんレグルスとは相性が悪い。直接戦う時に、空手よりも強くなりそうな武器を考えて──その修行をしてた」
「……武器は割とあっさり決まったのか?」
「うん。昔から好きだしね」
サクラはさらりと答える。
「あとはまあ……心意気かな? いつも庶民の生活とか、幕府の行く末を考えているとか」
「……ん?」
「義に篤くて、悪い奴らは絶対成敗するとか。そういうの、魔法少女と一緒だなって。サクラもこうなればいいんだって、改めて気づかされた」
「…………ん?」
「ナオが言ってた決め台詞とかも……ちょっと、分かった気がした」
「……サクラお前、さっきから何の話をしてるんだ?」
サクラは何も言わずにもう一回俺の方を見た。俺のものすごい不振顔をじっと見ると、ニヤリと、完全に面白がっている顔で笑った。
「当ててみて、ナオ」
「ハァ?」
「ほら、もう着くよ」
前に向き直ったサクラの視線の先に、まだ米粒ほどだが青い点がいくつも見えた。配信で見た大量の青ミサイルがあたりを飛び交い、マルカが必死に逃げ回っているのが見える。他にも二人ほど魔法少女が駆けつけたようで、時々魔法っぽい攻撃をしているが、数が多すぎて焼け石に水のようだった。
サクラはぐんと飛行速度を上げた。マルカに近付くと彼女に迫っていたミサイルを蹴り飛ばして爆散させる。あのドロボウ一味みたいな三人がすかさずそれを発見すると、ギャースカわめきたてた。
「来たわね、ブシドー・サクラ! アタイはフェリナ!」
マゼンタピンクレオタードの女がなにかびしりとポーズを決める。
「ボクチンはグリン!」
「オレサマはガルン!」
ヒョロ黄緑とデブシアンもびしりびしりとポーズを決め──
『三人そろってコールム・ジェット3!!!』
なにか一緒に叫び、コバルトブルーの小さな欠片があたり一面にまき散らされた。魔法少女たちは何かの攻撃かとギョッとしたようだが、サクラは何のリアクションもせず、すく横のマルカの近くまで寄った。
「こらーっ無視するなでヤンスー!」
「アタイたちの攻撃を受けて見ろー!」
なんかギャーギャー喚いてこっちにミサイルが集中するが、サクラはそれらをノールック一撃で叩き落していく。
「助けに来ました」
「ぶっ、ブシドー・サクラさん!!!!!」
マルカは叫びながらボロボロと泣き出し、サクラはにこりと微笑む。
「マルカさん、人をもう一人乗せて飛べますか?」
「はっ、はい、飛べます!」
「ナオをお願いします」
「おっ? おう……うおっ!?」
サクラは俺を空中にぽんと投げ出した! ギョッとした俺がじたばたもがくが、すいとその後ろに回り込んでひょいと胴体を掴み、そのままマルカが乗ってるホウキの後ろ側にすとんと降ろした。
「おっ、お前っ、そういうのは先にやるって言ってからやれ!」
「ナオうるさい」
「あと背中のリュックからスマホ出してくれ! 自撮り棒も!」
「はーい」
……背中をガサゴソされてスマホと自撮り棒を持たされる。二つを急いでセットし、すぐさま配信をスタートした。
「みなさんこんにちは、ブシドー・サクラのチャンネル、アシスタントのミラクル☆ナオです!」
配信が始まるとサクラは満足げに頷き、集中砲火を浴びせて来るコールム・ジェット3をぎろりと睨んだ。
「サクラのことを待っていてくれた皆さま、大変長らくお待たせいたしました! われらのブシドー・サクラが、マルカさんや他の魔法少女を助けるために戻ってきましたぁー!」
[うおっ配信してる]
[マルカのとこだ!]
[y12oMK:サクラちゃん元気そうで良かった、ナオしっかりやれ]
[道着ぼろぼろになってない?]
ぴろぴろと通知が来る、マルカさんがミサイルを避ける、俺は自撮り棒の向きを工夫して、なんとかサクラが空中仁王立ちでコールム・ジェット3と対峙する姿をいい画角で捉えることに成功した。
「さあ、サクラ、当ててみろってんなら見せてくれ! お前の新しい武器!!!」
叫んだ俺の方を向いて、サクラがニヤリとイケメンに笑った。……ほんとに戦ってる時のこいつはカッコいいな!
鳴りやまない通知の中、サクラは右手を左腰のあたりに当て、弧を描くようにゆっくりと上に上げる。その手をもとのあたりに降ろした時──
一振りの威容な日本刀が、その手に握られていた。
「かっ……」
俺が、マルカが、他の魔法少女が。配信の視聴者が多分コールム・ジェット3までもが、その姿を見て息を呑み──
「刀ぁぁぁぁっぁああああああっ!!!?」
それぞれ、力の限りに叫んだ。
「サクラてめえ、武器って刀か!!!! マジかお前最強じゃねえか!!!!!!! みなさん見てますか刀です!!!! 拳一つで戦ってた俺たちのサクラが! とうとう武器を!!! 武器の中でも世界最強と言われる日本刀をっ!!!! 持ちましたぁぁぁあああああああっ!!!!」
叫び散らす俺をちらりと見て、サクラは更にイケメンに微笑むと、左手も刀の柄に沿え──
「参るっ!」
ちゃきりと、顔の横で構えて見せた!
===============
読んでいただきありがとうございます! カクコン10参加中です。
気に入っていただけたら評価・フォロー・応援よろしくお願いいたします!
↓ ↓ ↓
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます