第5話 サクラの不在 ④ 初代魔法少女KAGUYA
相変わらずサクラからの返信がなく、「ブシドー・サクラのチャンネル」はミラクル☆ナオがギャーギャー騒ぎながらバトルシェイクを飲んで筋トレをし、視聴者どもに罵詈雑言を浴びせるチャンネルと化した。こいつら絶対俺が男って分かってて女だ女だ言ってるに違いない、服がアレだってどっからどう見ても男だろうが。それでもPVが落ちないし、視聴者のコメントには必ずサクラに関するものもある。先日は那須与一サクラの配信を鑑賞しながらみんなで「ひいふっとぞ射切ったる!!!」をやった時は一体感すら感じられて楽しかった。
「サクラ、みんなお前のこと待ってるぞ」
俺は夕飯の唐揚げ弁当をキッチンで食べつつ酒も飲みつつ、横須賀基地襲撃の動画の中のサクラに向かって独り言ちた。お前が考える魔法少女ってやつは見つかったのか? 那須与一でも何でもいいじゃねえか、まずは出てきて、それからスポンサーとのすり合わせもおいおいだな……うーん……エリカのやつ「サクラちゃん、顔は美人系だしあれだけスタイルいいんだもの、絶対似合うわ! アンタが責任もって説得しなさい!」ってうるせえんだよなあ……成功すれば金一封だとか、失敗したら契約料減額だとか、人の顔を札束ではたいてばかりの女になっちまって……。不意に、動画を再生していたテレビの上部にニュース速報の通知が出た。
初代魔法少女の武器、初披露リアル配信。間もなく開始。
「……なんだって?」
俺はかじりかけの唐揚げを一息に口に放り込んでから、通知を出したニュースサイトに飛んだ。これはどこだろう、防衛庁か? 無機質な会議室に作られた記者会見会場で、地球防衛軍日本支部の面々がずらりと並んでいる。その中には渡辺大佐の姿もあり、制服を着て寡黙な様子で座っていた。その隣に座る日本支部総司令官が、たくさんのフラッシュライトを浴びながら淡々と話している。
[──アザーズ奇襲による横須賀基地の壊滅的被害を受け、地球防衛軍は初代魔法少女
おお、と会場がどよめく。
渡辺大佐や長官の後ろにあるスクリーンに映し出されたのは──白銀に煌めく、美しい扇だった。
「これが……武器なのか……?」
俺は唐揚げとごはんを一緒にもぐもぐしながらテレビがっめんを食い入るように見る。動画の、しかもスクリーンに映し出された状態では大きさまでは分からない。日本によくある紙の扇子みたいで、ゆるやかな段々になっている表面は、真珠のような色合いの線で何か模様が描かれている。見た感じに壊れてるようには思えないが、そもそも、これでどうやって戦うんだ?
[
「……へーえ」
俺はぼやきながら発泡酒を飲んだ。初代魔法少女
十年前、何事もなく平和だった地球に、突然大量の流星群が襲い掛かった。世界中で観測された青い流れ星は、当初は綺麗な天体ショーとして人気だったが、地面に青い灰のようなものが大量に降り注ぎ、海や川がべちゃべちゃに汚染され、一気に深刻な社会問題になった。動物は泡を吹いて倒れて死に、植物も次々に枯れ、人間も心不全による突然死が激増した。そして寄り集まった青い塊から、バカでかい化け物がつぎつぎと生れ出てくるようになった。まだアザーズという名前もついていない化け物たちは、地球を厄災で覆いつくして滅ぼそうとしているかのようだった。原因究明と状況打破のために青い物質を調査しようにも、それは地面に積もってしばらくすると溶けて消えてしまう。採取しても同じで、いつの間にか入れ物の中で消えてしまうのだそうだ。どうみても原因はそれなのに調査したくてもできない、人類はこのまま滅びるしかないのか──俺も、当時二十歳そこそこだったから、何もかも真っ青になった光景をよく覚えている。そこに颯爽と現れたのが
地球に青い流星群がやってきてから
地球滅亡の危機に瀕したこの期間は、「青の十日間」と名付けられた。
「
配信のコメントやSNSは久々にメディアに取り上げられた
……ふさわしい魔法少女に貸与って、まあ普通に考えればランキング一位のアリサだよな。サクラも横須賀襲撃の前時点でも最下位は脱出していて、世界ランクは六〇〇位、日本国内だと三十位まで登っていた。現在のランクは世界は二~三〇〇位、国内は十~二十位のあたりをウロウロしている。俺はトップファイブくらいになってもいいんじゃないかと思っているが、実力と人気があっても長い休止期間はダイレクトなマイナス要因になってしまう。
もしサクラがランキング一位になって、あの扇を授けられたら。
……俺の中のグレイトマッスルサクラは、畳んだ状態の扇を忍者の手裏剣みたいにぶん投げて、しかもそれがレグルスの脳天に見事に突き刺さった。
「……なんか違うな……」
しょうもない妄想に苦笑いしながら、俺は最後の一つの唐揚げを食べたのだった。
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