第4話 襲来、襲来、襲来! ④ アザーズ軍団の襲撃

「うおおおおおおおっ!!!????」


地球防衛軍日本支部、横須賀基地、大会議室。防弾仕様のはずのガラスが一気に粉々に砕ける──銃弾なんて比較にならないほど強烈な衝撃が俺たちを襲った。


「ピュアシールドッ!!!」


 大佐に庇われて倒れる寸前、アリサが叫ぶのが聞こえた。サクラの腕が俺を引っ掴んでテーブルの下に投げ入れる、おまっ、そこはなんかこう身体張って庇うとかじゃないのかよ!? いやいいんだけどさ俺男だしお前女子中学生だし!? なんかこう絵面的にな!? お前強いからな!? 転がりながら混乱していた俺は、打ち付けた頭を押さえつつ様子を窺った。渡辺大佐に庇われたアリサ(こちらは正しく身体を張って庇われていた)が空中に手をかざし、そこから青白い光の膜があたりに広がっている。


「シールド出来る子はみんなして!」


 アリサの叫びに、何人かが応じたようだ、何かしらの技名っぽい声がそこかしこから上がる。次の瞬間、震度七の地震よりも酷い強烈な縦揺れの衝撃が来て、俺たちの頭上に瓦礫が降ってきた!


「あああああああああっ!!!???」


 机の下投げ込まれてて良かったああああ! しかし瓦礫は俺たちに当たるところまで降ってこなかった、天井と俺たちの間に張り巡らされた光の膜が、瓦礫を受け止めて弾いている。がしゃん、どぉん、酷い騒音がして、誰かの悲鳴が聞こえて、サクラがすぐ横にしゃがみ込んで様子を窺っているのが見えた。


「みんな大丈夫!?」


 瓦礫の雨がやんで、アリサが渡辺大佐の手を借りて立ち上がった。ポケットからスマホを取り出して何か操作すると、机の下を覗き込んで俺の方にぽんと投げて来る。


「ねえ、アンタ、アリサのこと撮ってて!」

「ハァ!?」

「サクラんとことコラボってことでいいから! 今日アシスタントいないの、早く!」

「んな勝手な……!」


 俺は目の前までスライドしてきたスマホを拾いつつサクラの方を見た。サクラは俺たちのやり取りなど全然気にせずに周囲を警戒していた。あーそうか、「ナオたんはワタシのアシスタントなのにアリサちゃんに盗られちゃう!?」みたいなのとは無縁だなサクラは。なにせあいつは武士だ、自分でナオたんとか考えただけでも反吐が出るぜ。俺は気を取り直してアリサのスマホで配信開始ボタンを押した。


「アリサ・ピュアハートファンのみなさんこんにちは、ブシドー・サクラのアシスタントのナオ、日本男児三十二歳でっす! 今日は二人の夢のコラボレーションと言いたいところですがご覧の通り緊急事態です!」


 自撮りモードでべらべら喋ると、画角に入らないところでアリサがうげっと酷い顔をして、さかさかと四つん這いで俺のところまでやって来た。だが俺がすかさずアリサが映るように向きを変えると、パッと配信の時のプリティ笑顔を作って見せる。


「世界をカワイイで守っちゃう! みんなにとびきりのスマイルを、アリサ・ピュアハートです!」


 瓦礫まだ降ってるっつーのにすげー変わり身だ……。俺がげんなりした隙にアリサはスマホを奪い返し、きゃるんと音がしそうなキラキラお目目を潤ませる。


「ナオたんの言う通り、ちょっと今ヤバいかもなの~! でも大丈夫、今ここにはブシドー・サクラちゃんや魔法少女のお友達がたくさんいるし、アリサがみんなのこと守るからっ! みんな、今日もアリサたちのこといっぱい応援してね! らびゅ☆」


 アリサはスマホを一度床に置くと(画面をブラックアウトさせたようになるだろう)、俺の頭をがつんと殴り、それからまたさかさかと前の方に戻っていった。


「いってえ……んだアイツ……」


 俺は頭をさすりつつもスマホを持ち直した。思った通り配信はまだ続いている。


「えーアリサちゃんからスマホを預かりまして、また配信させていただきます! ここはですね地球防衛軍の横須賀基地でして、俺たちは魔法少女の会議に出席するつもりだったのですが、いきなりの襲撃を受けまして……アリサちゃんの判断で、この危険な状況を全世界に向けて配信しています!」


 言いながら俺はちょっと心配になって渡辺大佐の姿を探した。基地を襲撃とか配信しちゃって本当に大丈夫だったのか? 渡辺大佐は立ち上がって、無線通信のようなもので何か話しながらみんなの様子を見て回っている。スマホを構えた俺と目線が合った渡辺大佐は、びしりとサムズアップしてきた。……これは配信していいってことなんだな? 後で俺に責任なすりつけるなよ、元はアリサだからな? ……揺れはかなりおさまり瓦礫の雨もまばらになって来た、さっきまで天井だったところが青空と化していた。


「ピュアハート・メイクアップ!」


 アリサが何か叫び慌ててスマホをそちらに向けると、ピンクの光が彼女を包み込んだ! 光はリボンのようにアリサを包み込み、みるみるうちにあの赤い魔法少女服が作り上げられていく。アリサの髪もふわりとセットされて金髪ツインテロールという、いかにも女児が好きそうな感じに仕上がった。……仕上がったところで俺の方をちらりと見たので、たぶん自分がちゃんと撮られているかどうか確かめたのだろう。アリサの配信は自分で喋りながら戦闘するスタイルだったし、あいつはムカつくが俺は大人のお兄さんなのでここは一歩譲って余計なことは喋らず、クソガキアリサのスタイルに合わせてやろう。


「基地がめちゃくちゃだわ……! アザーズの仕業っ!?」


 アリサは芝居がかった仕草であたりを見回しながら叫ぶ。彼女のまわりに他の魔法少女も変身した姿でわらわらと集まってくる。うちのサクラは……さっきの立ち位置と変わんねえな! 私服姿なのが違和感あるが、拳を緩く握ってあたりを見回しているようだ。アリサのシールドで瓦礫が降り注ぐのは防げたが、辺りは粉々になった防弾ガラスだらけだ。俺は破片に気をつけつつそっと場所を移動し、アリサとサクラを同時に画角に収められるようにした。


「──見てっ! 空の上!」


 アリサがびしりと指さした先に、コバルトブルーのアザーズが浮いていた。それも一つではなく、いちにーさん……たぶん十体ほど。横一列に並んだ奴らが、じわじわと大きくなっている、こちらに接近してるってことだ!


「あっ、あいつはっ、黄色パンツのアザーズっ!!!???」


 並んだアザーズの中央にいるのは、あのブーメランパンツ野郎だ(アリサがいちいち解説するので俺としてはカメラワークが楽だ)! 最初にサクラの前に現れた時は無表情でのっぺりした印象だが、今は目をカッと見開いて不敵な笑みを浮かべている。人間なら白目のところが水色、瞳孔のところが黄色で、明らかに知性を持っているのが見て取れる──知性というか見るからに悪役、それも中ボスクラス以上の強硬な奴に違いない! ブーメランパンツが右手を上げると、アザーズ達がこちらに近付いてくるのが止まった。ブーメランパンツだけさらにもう少し前に出てくると、腕組みをして、信じられないほどの大音量で叫んだ。


「──地球防衛軍と、魔法少女に告ぐ!!!」


 びりびりと壁を震わせるほどの声が、俺たちの耳を貫く。……ってか、日本語!?


「きゃあっ!」

「痛いっ……」


 また悲鳴が聞こえる、これは鼓膜が直にやられてるのか!? 俺もあまりの痛さに叫びそうになるのを堪える、アリサが、サクラが、魔法少女たちが上空を睨む中、ブーメランパンツは更に続けた。


「我こそはコールム軍総司令官レグルスである! 貴様らがアザーズと呼ぶ化け物の親玉だァ! 地球が我々の支配下に入ったことを示すため、今すぐ最も強い魔法少女を我の許に連れてこい! 其奴を我が自ら撃破してやろうぞ!!!」

「一番強い魔法少女!? アリサのことだわ!!! ピュアスカイラン!!!」


 アリサが叫んで右手を高々と掲げると、その手にピンクを基調とした可愛いステッキが現れた。アリサはまさしく魔法少女よろしくステッキにまたがると、ふわりと空中に浮かび上がる。見た目のファンシーさとは裏腹に空中姿勢はかなり安定していて、一気にレグルスと名乗ったアザーズの前まで飛んでいった。


「アンタがアザーズの親玉なら、倒せば地球が平和になるってことね! アリサを名指ししたこと、後悔するといいわ!」


 びしりと指さしたとこまでキマッてんなー……。俺は自分が配信スマホを持っていることを半ば忘れて上空を見上げる。基地にいる人間の誰もが固唾をのんで見守る中、総司令官レグルスは目の前までやって来たアリサを見て、ふっ、と小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「お主のような、ヒョロッヒョロのガキは呼んでおらぬ!!!」

「なっ……」


 絶句するアリサをよそに、レグルスは基地を──天井がなくなって野ざらし(バリア付き)にされた俺たちをじろじろと見て、びしり、とサクラを指さした。


「魔法少女ブシドー・サクラ、貴様こそ最強の魔法少女!」

「ハァ!!!???」

「ブシドー・サクラ、我の挑戦を受けるかぁ!?」


 周囲がどよめく、アリサの怒鳴り声がここまで聞こえてくる。魔法少女ランキングはアザーズ撃破数なども反映しているからもちろん魔法少女の強さも反映している、地球で一番強い魔法少女と言ったら誰しもがアリサを思い浮かべるはずだ。だけどこいつら、アザーズ達はそうは思わないのか? 筋肉か、やはり筋肉か!?


「──レグルス!!! サクラは受けて立つぞ!!!!!!」


 アザーズをじっと見上げていただけのサクラが、ふ、と不敵に笑った。

 




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