第4話 襲来、襲来、襲来! ① 初めてのスポンサー
ウニアザーズとの戦闘動画は予想通りバスって一万PVを超えた。コメントは配信終了時点で400件以上、スパチャは総額九万円。九万円! 俺は小躍りしたくなったが、魔法少女のスパチャはすべてアザーズ防衛費や復興費に回される。目の前に絶対に届かないニンジンをぶら下げられたような気にならなくもないが、使途がはっきりしているから課金しやすい、という視聴者心理もあるだろう。とにかくどちらの数字も「エンチャント・ナオのマジカルミラクルワールド」では当分お目にかかれなさそうだ。
俺がアシスタントに入る前は三人だったチャンネル登録者数も、那須与一バズを受けてとうとう百人を超えた。俺は浮かれてスクショを撮ってサクラに送り付けたが、武士は[すごい]と返してきただけだった。なんかもっとこう、スタンプとか絵文字とか使って、喜ぶ気持ちを表現しろよ! 盛り上がってるの俺だけかよ! スマホに愚痴ったところで受信内容が変わるわけではない。試験真っ最中の女子中学生にメッセージをデコレれと頼むとか、アラサーのオッサン事案すぎるだろ。くそっサクラめ、次に会った時に文句言ってやる。
サクラの試験期間中は、よほどのことがないかぎりは
今日も横浜のマジックバーでオープンからクローズまで出ずっぱりだ。半地下でそれほど広くない店内は雰囲気ある薄暗さで、カウンターの上だけピンスポットで照らされている。お客が来たらカウンター越しにいろいろな手品を披露するが、オープンしたばかりのこの時間はお客はまっったくいなかった。マジックバー用と決めているダークスーツを着た俺はカウンターでグラスを磨きながら、店内テレビに映されたアリサのチャンネルをぼんやり見る。
[世界をカワイイで守っちゃう! みんなにとびっきりのスマイルを、アリサ・ピュアハート、ここに登場!]
プリティでキュアっキュアなアリサの声が飛び出してきた。どうやらいつかの戦闘のアーカイブ配信らしいが、まるで映画みたいにアリサのバストショットと、上空からのアザーズの映像が交互に表示される。
[みんな見て! すごく大きいドーナツみたいなアザーズだよ! ドーナツなのに全然かわいくなーい!]
ベンチマークの一つとしてアリサのことを調べてみたところ、両親ともに芸能人で、魔法少女になる前から子役タレントとして活躍していたらしい。それなら撮られることに慣れているだろうし、もともと持っているファン層だってある。それらを駆使した結果なのか、アリサ・ピュアハートのチャンネル登録者数は、先日三億人を超えたそうだ。全世界共通の魔法少女ランキングではぶっちぎりの一位。その他の動画配信者の中でも指折りの登録者数だろう。
[あっ、このアザーズを倒したら好きなドーナツ決定戦を配信しようかな? 興味ある人は好きなドーナツをコメントしてね!]
乾いた布でグラスを拭くと、きゅっきゅっと小気味の良い音がする。このグラスはもちろん飲み物を注ぐし、時には手品の小道具にもなる。
[よ~し、じゃあ、サクッと倒してドーナツ買いに行かなくちゃ~!!!]
アリサの声と共に、金平糖がはじけたみたいなキラキラした音が響いた。たぶんアリサがアザーズめがけて飛び上がった音だ。サクラは舞宙術式なので何もなくても飛ぶが、アリサは──というか魔法少女の大半は、ホウキやらステッキやら魔法の靴やら、何かしらのアイテムに頼って空を飛ぶ。アリサもいくつか飛翔アイテムを持っていて、場面や気分によって使い分けていた。今のキラキラ音は確かステッキだったかな。
「やっぱ、魔法少女ってこういうのだよな……」
アリサはアパレルにコスメに女児玩具に、数えきれないほどのスポンサー契約を結んでいるらしい。彼女が使うアイテムはすべて女児玩具化してるし、着ている衣装もレプリカが市販され、女の子たちが夢中になって着るのだと言う。そうして得たスポンサー収益は、半分は防衛費に、もう半分は魔法少女自身の手許に残るらしい。更に、スポンサー契約をすると企業側のサイトやSNS、CMなどに掲載されることが増えるため、魔法少女のチャンネルも露出が増えて数字が増えるチャンスに恵まれるのだ。だからこそ、中堅の魔法少女はみんなスポンサー契約を得ようと躍起になっている。
「スポンサーなあ……」
俺はアリサを見ながらため息をついた。「ブシドー・サクラ」のチャンネルはひとまず魔法少女ランキングの最下位を脱したが、それだけだ。活躍している魔法少女は世界中にいる、目立ちたければ、ランキングを上り詰めたければ、スポンサー契約は必須なんだ。
サクラの那須与一はバズった、勢いに乗っていると言っていい。
でも、那須与一の扮装が、果たして魔法少女関連企業の胸を打つだろうか?
「……ねえよなあ……」
俺は次のグラスを磨きながら愚痴る。唐綾縅の大鎧(コメントいただいたので調べた)と大弓とかいつもの道着とか、どうやってグッズ化するんだ、単なる道着と五月人形にしかならないじゃねえか……。そんなことを考えていると、ポケットの中でスマホが震えた。客は誰もいないし、店長はバックヤードに引っ込んでるし、俺は取り出して通知を見る。
[不二本櫻:スポンサーになりたいって話がきてるらしい]
「ぶふぇっ!?」
変な声が出た、慌ててスマホを落とすところだった。俺は急いでメッセージアプリを立ち上げる。
[どういうこと!?]
[不二本櫻:那須与一見て、是非にって]
[マジか! どこの企業!?]
手が震えてうまくタップできない、ここまで順調すぎてちょっと怖い! サクラの返信が来るまでの数分間があまりにもふわふわしていて脳みそが耳から蕩け出そうだ。スポンサー、スポンサー、スポンサー! サクラのお母さん、娘さんに最初のスポンサーがつきましたよ! これからもっと魔法少女らしくなって、アリサ・ピュアハートを超えるようなすごい奴にきっとなりますよ……! スマホが震え、メッセージ着信の音がした。何かのURLが書かれていて、俺はそのリンクをタップする。
BATTLE SHAKE ──限界を超える、その一杯。
高品質ホエイプロテインを最高のバランスで配合。鍛え抜いた身体に勝利の味を──
「プロテインじゃねーか!!!!!!!!」
誰もいない店内に俺のシャウトが響き渡り、不審に思った店長が顔を覗かせたのだった。
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